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第047話:ネコウサ娘の村に行き……

 今日の朝食は、ホットケーキミックスを使った。

 ホットケーキミックスを水で溶かす。

 普通は牛乳や卵を入れるのだが、保存性が悪いので水で溶いた。

 そこにちょっとミルク感をだすために、スキムミルク(脱脂粉乳)を足してよく混ぜる。

 そして具は、シーチキン缶とミックスベジタブル缶。

 これらを適当に入れて混ぜて焼く。

 ネットで調べて、少しアレンジしたメニューだ。

 まあ、これがパン代わりになるわけだな。

 それから、ジャガイモの揚げ菓子(じゃ○りこ)に熱湯を加えながら砕いて練る。

 程よく練るとあら不思議、マッシュポテトになってしまう。

 本当にネットは、昔のおばちゃんの知恵袋だ。

 そちらは、ミューに作ってもらった。


「というわけで、シーチキンと野菜のパンケーキのマッシュポテト添え。味付けは、このケチャップで! それにインスタントだがオニオンスープ! うーん、なんという朝食感!」


 オレは箱につめてきた、弁当用に売られている小さな袋のケチャップをテーブルに置いて、満足顔でうなずいた。

 だが、ミューは横で微妙な顔をしている。


「アウト……」


「ん? なんだ?」


「ミューは、グリンピースが嫌いだと何度言ったら……」


「一度も言われてねーよ! つーか、好き嫌い言わずに喰え!」


「む~……」


 かわいく膨れられたが、それは放置して食事を始める。

 味は、なかなかだった。

 ただ、グリンピースは確かにちょっと……。

 ミックスベジタブル自体、美味い物を探す必要があるかもしれない。

 ポテト菓子のマッシュポテトは、驚くほどマッシュポテトだ。

 ジャーマンポテト味を使ったのだが、まさにジャーマンポテトになってくれた。

 これは驚異である。

 考えた奴、マジ天才じゃなかろうか。


「しかし、森の中で朝食か。なんか優雅だなぁ……」


「ん? そうか?」


「ワイルドネコウサ娘にはわからんかもな」


「む~……」


 また膨れた。


「ところで、ここからミューのうちまでどのぐらいだ?」


「ん? 確か、アウトランナーで30分ぐらいだな……」


「ふーん、そうか……って、そんな近いのかよ!」


「うん」


「うんじゃねー! それなら、ここに車中泊する必要なかったじゃねーか!」


「……ミューが、したかったんだ」


「なんでだよ!」


「……だって、二人っきりで――」


「ああ、待った! 言うな! 言わなくていい。ごめん!」


 オレは思わず赤面しながら、ミューを遮った。

 まるで中高生男子かと思うぐらい、胸がときめいてしまったからだ。


「む~……」


「…………」


 またかわいく膨れる。

 ただでさえ、昨夜のことがあってミューを見る目が変わってきてしまっているというのに、オレを萌え殺す気か、このネコウサ娘は。

 いわゆる「キュン死」寸前だ。


「アウト、なんで言わせないんだ」


「……かわいすぎて困る」


「…………」


 首元から赤が登っていき、ミューの顔面を朱に染める。

 これ、端から見たら完全にバカップルだ。

 本当に人気のない場所で良かったと思う。



   ◆



 ミューの言うとおり、車で森の中を30分近く走ったら、遠くに開けた土地が見えた。

 そこにはログハウスのような家が、いくつも並んでいる。

 それが、ミューの住んでいる村だった。

 村に入ると、家は全部で30件ぐらいはあるだろうか。

 もう少し奥もありそうなので、もっと世帯数はあるのかもしれない。

 そして、もちろん村人たちもいる。

 それがやはり、すごい。

 なにがって、みんな何らかの動物の特徴を持っている。

 犬、鶏のとさか、ウサギ耳、牛の尻尾……。

 ミューによると、この辺りでもっとも規模の大きい【獣呪族しゅうじゅぞく】の村らしい。


(それはいいが、森の動物を殺しすぎた呪いなら、犬とか猫の耳っておかしくないか?)


 と思うが、身体的なことは口にしない方が吉なので黙っておくことにする。

 それにキャラが言っていたとおり、村には「呪いを受けている」というような暗いイメージはない。

 大人達はみんな明るく笑いあい、たくさんの子供達も楽しそうに遊んでいる。

 暗い森に囲まれたような村だが、暖かい陽射しの中に照らされる様子は、まさに陽だまりの村。

 とても幸せそうな村だ。

 だが、一つだけ気になることがあった。

 オレは、アウトランナーでこの村に来たのだ。

 そりゃあ、ファンタジー世界の人間が自動車を見たお約束としては、「鉄のイノシシだ!」ぐらい驚いてもいいはずであろう。

 それが古き良き伝統というものだ。

 しかし、なぜだろうか。

 不思議と、大人も子供、まったくもって驚かないのだ。

 そして驚かないどころか、目を輝かせて手をふって親しげに挨拶してさえくる。


「あ! 予言者様だ! おかえりなさい!」

「ひさびさだな、予言者様!」


 外の声が聞こえてくる。

 そう。みんながみんな、こちらを見て「予言者様」と呼んでいるのだ。

 そして助手席にいるミューが手を振り返している。

 ふとオレは、ミューの昨日の言葉を思いだす。


――実は、ミューには予知能力があるのだ!


 そう言えば、言っていた。

 そんなことを言っていた。

 端から冗談と受け流していたが、これはもしかして本当だったのか。

 確かに、それなら初めて会うオレのいろいろなことをわかっていても不思議はない……のか?


「ミュー……」


「ん?」


「お前、本当に予知能力があったのか?」


「ん? ……うん、まあ、少なくともアウトのこれからのことは、かなり知っている」


「えっ!? ちょっ! マジで!? つーか、これからどーなんの、オレ!?」


「……知りたいか?」


「おお!」


「……本当に知りたいか?」


「もち!」


「教えない」


「だと思った、こんちきしょう!」


 そんな馬鹿話をしている間に、車はミューの家の前に到着した。

 とうとうオレは、ウサギ父ちゃんとネコ母ちゃんに対面である。

 ネコ母ちゃんはともかく、ウサギ父ちゃんは覚悟が必要かも知れない。

 何の心構えもなく、筋肉隆々のウサギ耳をつけたバニーガールが、もし目の前に出てきたら、オレはまちがいなく卒倒するだろう。

 と、そんなことを考えていた矢先、家の正面にある扉が開き、中から一人の女性が出てきた。

 琥珀色の髪にネコ耳がある。

 大きな瞳も、プニプニと柔らかそうな唇も、目の前のミューにそっくりだ。

 違うところは、少し丸顔で、年齢が三〇代ぐらいに見えるところだろうか。


(おお。あれが、ネコ母ちゃんか!)


 オレは、妙に緊張し始めてしまう。

 別に恋人の両親に会いに来たわけでもない。

 だから、緊張する必要はないはずだ。

 でもね、やはりいいイメージは持ってもらいたいわけだ。

 よし。

 挨拶を考えておこう。

 まず、なんと名のろうか。

 ここはきちんと本名を答えるべきか、それともやはり――


「……あら! アウトさんにゃ!」


 ――と、悩む必要は、どうやらなかったらしい。

 ネコ母ちゃんは、なぜかオレのことを知っていたのである。

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