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第033話:伝説の武器を持つ勇者は……
寝不足だったためか、翌朝はちょっとお寝坊さんだった。
アズと相談し、仕方なく朝飯を抜いて森を抜けることにした。
ちなみに森には街道らしき道があったので、そこを走ることにした。
道幅はけっこうあって、対向車が来なければ問題はなさそうだ。
対向車と行っても、この世界なら馬車だろう。
ああ、でも蒸気機関があるようなことをキャラが言っていたから、もしかしたら蒸気自動車とかあるのだろうか。
文化レベルがわからん。
森はなんというか、ごく普通の森だった。
変な表現だが、本当にそうとしか言えない自分の語彙の少なさが情けない。
キャラと行った森もそうだったが、オレの世界のどこかで見たことがある木だったし、見かける動物に関しても細かいことはわからないが、鹿みたいなのとか、鳥とかさほど違和感がない。
確かに昨日見た巨大象や、前に見た怪獣みたいなのもいるみたいだけど、それ以外は普通っぽい。
昼間はそうそう危険な動物がいるわけではないらしい。
平均して時速2~30キロぐらいの速度で走っていたら、昼過ぎぐらいには森を抜けていた。
今度は平原で、遠くに岩肌が露出し、切り立った山が見える。
我が蒼き髪の姫が、その山を指さしたので、仰るとおりに走り続ける。
ガソリンはまだあと30パーセントはあるだろうか。
もう少し大丈夫だろう。
(ああ、ガソリンスタンドや充電スポットがあればいいのに……)
もちろん、あるわけがなかった。
◆
とりあえず、森を抜けた後に腹が減ったので飯にすることにした。
遠回りになるが、少し離れたところに川があったので、その近くで駐車。
(さて。メニューが問題だ……)
缶詰はいろいろと買ってきたのだが、開けたあとのゴミが困る。
そのまま袋につめていたのだが、そろそろ臭いがこもってきていた。
とりあえず、それらは川でかるくすすいでから、また袋につめた。
異世界にゴミの不法投棄はしたくない。
ゴミを減らす努力も必要だが、ゴミをしまう方法も考慮しないとダメらしい。
キャラがいれば、魚でも捕まえてもらうところなのだが……今度、やはり釣りでも始めてみるしかないか。
(シーチキン缶があるな。ロールパンの賞味期限がたぶん今日まで……)
常温保存できるので、お弁当用に売っている小さなパックに入ったケチャップを業務用スーパーで買ってきている。
シーチキンをパンに挟んでケチャップをかければ食えないことはないだろう。
あと、カップスープもある。
冷蔵庫がないと本当にメニューの幅がなくなる。
それに加えて、オレに調理スキルがないというのが問題か。
やはり料理の勉強をしてみようと決心する。
(……考えてみると自分から進んで勉強しようなんて思ったことなかったかもなぁ)
昼飯は、そんな感じで簡単な物になってしまった。
それでもアズは、最初はおっかなびっくりするものの、一口食べたあとはグレーのきれいな瞳をキラキラさせて、本当に嬉しそうに食べてくれる。
たとえばデザートでも作れれば、この後にもっと喜ばせてあげることもできるのだろうか。
そう言えば、ホットケーキミックスとかどうなんだろうか。
あれ? 卵とか牛乳とかいるんだっけ?
うーん。やはり勉強が必要だ。
課題が山積みである。
せめてデザート代わりにと、ココアを作ってあげた。
オレはコーヒーメーカーでコーヒーを淹れる。
ゆっくり食休み。
まったりタイム。
もともとアウトランナーを購入した理由は、こういうどこでもまったりできる時間を楽しみたかったからだった。
意外な形でだったが、昨夜も今も実現できている。
当初はアウトランナーを買ったのは失敗だったと思ったが、そんなことはなかったのだ。
特に昨夜は、電気ケトルですぐさまお湯を沸かし、電気毛布で寒い中をしのぐことができた。
たっぷりあるバッテリーと、発電能力のおかげである。
(アウトランナーPHEVさまさまだ……)
そうだ。こんな美少女とまったりできるのも……と思い、アズの顔を見ると顔を少し顰めている。
「どうした、アズ?」
「…………」
彼女は森の方を睨む。
初めて見るアズの厳しい顔に、妙な緊張が走る。
オレは彼女の視線を追った。
すると、森の木々の間に、なにか影が動いたのが見える。
そして現れたのは、見覚えのある顔。
カバのような鼻に、濁った緑色の硬そうな皮膚、そしてチロッと伸びる蛇のような舌。
そして、だんだんと森の影から蛇のように地面を這い姿を現すと、今度はゆっくり鎌首をあげた。
(
俺は思わず、ネットで調べた時に、どこかで自慢できないかと覚えたフルネームを頭で唱えた。
そう。キャラを襲っていた、あのとんでもなく速い怪獣である。
崖から落ちて生きていて、俺を狙ってきたのか?
いやいや。さすがに別物だろう。
だけど、きっと同じように速いはずだ。
ここから奴までの間は、100メートルもない。
どう考えても逃げ切れるとは思えない。
せめて車の中にアズだけでも逃がせれば……。
(いや、待てよ……)
「アズ。あれはもしかして聖獣で、人間とお話ししたいだけでした……なんてことはないよね?」
アズは首肯する。
というか、それならこんなに難しい顔をしているわけがない。
わかっていた。
これはヤバイのだ。
――ウオオオォォォォン!
叫び声を上げて、すごい速度で走りだすトカゲ怪獣。
オレはブルッた体に鞭を打ち、あわてて周囲を見わたし、武器になりそうな物を握った。
「アズ、車の中に隠れていろ!」
ほんの少しでも時間を稼げればいい。
オレはそんな想いで、震える脚のままアズの前にでて、トカゲ怪獣に立ち向かっていた。
その手には、伝説の武器【ティフ○ール製IH対応テフロン加工済みフライパン】がしっかりと握られていた。
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