第034話:魔法に助けられた……
「頼むぜ、テ○ファール!」
オレは気合を入れるために大声で叫んだが、頼む相手をまちがえていることに気がついた。
「ティフ○ール」に頼んでも、焦げつかないようにしてくれるぐらいしかしてくれないだろう。
しかし、もしかしたら、テフロン加工で敵の攻撃を跳ね返せるかもしれない。
そうだ。それだ。
これで勝てる!
パニックっていながらも、オレは「さあ、こい!」と、顔をひきつらせながらも覚悟を決める。
だが、そんなオレの前に、なぜか青い髪が見えた。
「おい! 隠れてろ、ア――」
「――光よ!」
オレの前でトカゲ怪獣に手をかざし、
痺れた。
声が、オレを襲った。
彼女の魅惑の声は、オレの耳から入ると、背筋を走り、上は脳天を突き抜け、下は股間を刺激して足の先まで抜けていく。
高揚する脳天。
震撼する全身。
刹那の間を置き、彼女の周囲が光りはじめる。
それは昨夜、見たような淡い光ではない。
激しく刺激的で、とても直視できないような強い光。
巨大なフラッシュがたかれているようだった。
「――壁となって、わたしたちを守って!」
またもや電撃のようにオレをしびれさせる声。
あわや経験不足の少年のように、昇天しそうになる快感。
だが、それだけではない。
彼女の声は、奇跡を呼んだ。
それは光のカーテン。
いや、光のシャツター。
何もない中空から、唐突に真っ白な光の壁が降りてきて、トカゲ怪獣と俺たちの間を遮断した。
とたん、その光の壁に当たったらしいトカゲが、激しいうめき声をあげる。
「…………」
それだけだった。
オレは、あまりのまぶしさにそらしていた視線を戻す。
光の壁はなくなっていた。
チカチカする視界の中で見えたのは、頭が真っ黒に焦げ、煙を出しているトカゲ怪獣の死体。
そして、その前にたたずんでいる、ひとりの
「…………」
オレは、茫然とその背中を見る。
腰まで届く、かるくカールのかかった青い髪は輝いている。
少し袖が長いワイシャツを着る体は、それほど大きくないものの大人とそう変わりはない。
ワイシャツとTシャツの裾は、ぎりぎり形の良さそうなヒップを隠しきれていない。
何か見えてしまっている。
そこからのびる、透き通るように白く、スラリとした長い脚は、下手すればオレと同じぐらいの長さがあるのではないだろうか。
(アズが大人になった……?)
だが、驚くのはそれだけではなかった。
彼女の全身は、ほのかに光を放っているのだ。
それはまるで、昨夜見た優しくやわらかい
「……アズ?」
オレの呼びかけに、体をピクッと震わせてから、彼女はゆっくりとこちらにふりむく。
まちがいなくアズだ。
年のころは、一〇代後半ぐらいだろうか。
髪は伸び、丸い子供らしさがかなり抜けた輪郭だが、その容貌はまちがいない。
だが、その顔は複雑な表情をしている。
困惑かと思ったが、どちらかと言えば、怯えているように見えた。
トカゲが怖かったのだろうかと思ったが、どうやらオレの方を気にしている。
もしかして、体が大人になったから、オレが襲うとでも思っているのだろうか。
(そりゃあ、襲ってしまいたい、と思わないこともない、かもしれない、と思わないでもないけど……)
身体から放たれる光が、服を透けて通るので、その大人の魅力にあふれるシルエットがよくわかる。
ふくよかに膨らんだ乳房も、しまった腰つきも、スラッとした四肢も非常にバランスが取れている。
しっかり大人の体型なのに、下着もつけない、ワイシャツとティーシャツ姿。
胸の先とか、裾のあたりとか非常に気になるのは、まちがいない。
しかし、それ以上に神々しい。
全身もだが、特に髪がキラキラとラメでも入っているのかと思うほど光っている。
「……つーか、マジきれいだな……あっ!」
つい漏れた言葉に、オレは口をふさいだがもう遅い。
そういう目で見ていたのが、完全にアズにばれてしまった。
その証拠に、目を見開いて彼女は驚いたような顔になる。
「い、いや、ちがうぞ! 邪な意味ではなく、ほら女神様みたいって……あ、こっちに女神様って、いるのか知らんけど」
オレの言い訳に、今度は顔を赤する。
これはやばい。
恥ずかしくさせては、よろしくない。
異性として意識させず、保護者然としなければ。
確かに彼女の声を聴いた時、全身を駆け抜けたのは快感と欲望だったことは否定しない。
だが、オレ、マジ、意外に理性あるから。
子供を襲うような外道では……あれ?
もしかして、こっちが本当の姿とかあるのか?
それなら、もしかして……セーフ?
「…………」
オレが慌てていると、サッと彼女は走りだした。
そしてアウトランナーのラゲッジルームに飛びこむ。
やばい、オレの邪念に感づいたのか!
もしかして、車に引きこもるとかするつもりか?
ってか、四つん這いにならないで!
見えちゃうから!
……などと一人興奮していると、彼女は車の中から手帳とペンを持ってくる。
そして、そこにサラサラと何か書いて、オレに不安を見せたのだ。
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