第031話:抱きあって……
さて、夕飯である。
自分だけならば、あまり悩まないのだが、アズがいる以上、ある程度の栄養バランスを考えるべきだろう。
でも、ぶっちゃけオレは料理とかほぼできないし、それほど食材もない。
(とにかく野菜だよな。缶詰ってなにがあったっけ……)
本当はアウトランナーに冷蔵庫も積んでおきたかった。車用の冷蔵庫というのも存在するのだ。
だが、そんなに荷物も積めない。
というわけで、用意したのは缶詰。
まずは、コーンだ。
(トウモロコシって野菜だよな? あれ? 穀物? ……まあ、いいか)
それから、マッシュルームの缶詰。
(これは野菜……だよな?)
よくわからないが、よしとする。
これをどうするかと考えて、やはりバター炒めがいいよなと思うが、バターなどない。
また「冷蔵庫欲しいな」に戻りそうなので、すぐにあきらめて別の味付けを考える。
とりあえず、ごま油があるので、これを使って炒めてみる。
もちろん、IHコンロが大活躍である。
IHコンロのいいところは、やはり手軽さだ。
炭火だと火をつけたり、後始末したりが大変なのだ。
(……でも、炭火焼もうまそうだし。それはそれでできるようにしておきたいな)
また、購入予定メモに記載が増える。
とりあえずフライパンで炒めてみると、ごま油のいい香りがする。
それに、しょうゆを少々垂らす。
塩、胡椒……はアズが嫌がる気がするのでやめて、仕上げにガーリックパウダーを少々。
ごはんはさっき炊いておいた。
しかも、オアシスの水で炊いている。
そう、異世界オアシスこまちだ!
と言っても、水はそのままではない。
浄水器つきポッドでろ過したものである。
あると便利かなと、ホームセンターで買っておいたオレ様。
さすがだなと自分をほめた。
ただ、ろ過した水をペットボトルに入れても、長持ちしないのが難点だ。
やっぱり水は、貴重だ。
今度は米も無洗米にするべきだろうか。
とりあえず、ごはんの上に炒めたコーンとマッシュルームを乗せて出来上がり。
「これぞ、コーンマッシュルーム丼!」
……つーか、そのままだな。
でも、なぜかアズは、声はでないが「おお!」という形の口で驚いてくれている。
ノリの良い子だな。
ちなみに、プラスチックのどんぶりには、ラップを巻いてある。
ネットで見たのだが、汚れものを出さないためのテクニックらしい。
確かに水が貴重なシーンでは有効だ。
ただし、ゴミが出るデメリットとのトレードオフだな。
さて、コーンマッシュルーム丼だが、味は……今ひとつかな。
ちょっとなんか物足りない。
それでも、アズは喜んで食べてくれている。
うまいか聞いてみると、コクリとうなずいてニッコリ笑ってくれた。
(うーん。料理を勉強しちゃおうかな……)
なんか自分が作った飯を喜んで食べてくれるというのはうれしいものだ。
しかし、どうせ食わすなら、もっとうまいものを食わせてやりたくなる。
それにこれからも異世界に来ることがあるならば、料理ができたほうがよいだろう。
(つーか、帰る方法、まだわからないんだけどな……)
でも、なんとなくだが、帰れる予感があった。
そのためなのか、オレは全く慌てていなかった。
飯が終わると、俺たちは昨日と同じように寝た。
今日は、昨日ほどは緊張しなかった。
風呂は入れなかったけど、まあ仕方がない。
わりあいすぐに、リラックスして寝ることができた。
◆
――ズンッ!
――ズンッズンッ!
「――なっなんだ!?」
オレは激しい振動で目を覚ました。
上半身を起こして、ルームランプをつけてみる。
横では、アズも上半身を起こした。
相変わらずオレのワイシャツを着ているので、長い袖で目をこすっている。
(うは! かわいい!)
――ズンッ!
と、それどころではなかった。
何かとてつもなく大きなものが歩く音がする。
ヤバイと思い、慌ててルームランプを消す。
車は今、森から少し離れた、かなり大きな岩の横に止めている。
聞こえてくる音は……左側面後方!
オレは、シェードを軽くめくり、覗き見る。
「――!?」
声にならない声を漏らす。
視線の先にいたのは、象だ。
月明かりに照らされ、なぜか体の上面が光っている。
まるで蛍光塗料でも頭からかぶったような模様である。
だが、問題はそこではない。
でかい。
でかすぎる。
頭のてっぺんが、五階建てのビルぐらいあるんではないだろうか。
それがアウトランナーの後方、二〇メートルぐらいを平行して歩いていた。
(つーか、やばい! 逃げるか!?)
と思うが、そんな暇はなさそうだった。
なにしろ、一歩がでかい。
もう俺が驚いている間に、アウトランナーのすぐ近くにまで寄っていた。
後ろから、服が引っぱられる。
オレは薄明かりの中、ふりむいてアズの様子をうかがう。
暗闇なので表情はわからないが、きっと彼女も不安に感じているはずだ。
「だっだっだっ……だいじょーびゅだから!」
震える声で、思いっきり噛んだ!
が、それどころではない。
オレは彼女を象とは反対側にして、体をかばうように抱きしめた。
そして布団をかぶる。
たぶん、意味のない行動だとは思う。
いくら地響きがひどくとも地震とかではないのだ。
踏みつぶされたら終わりなのである。
だが、俺はパニックだった。
「だいじょじょじょーぶゅ……ぶだから。ああああんしんして。ちゃんとととと、おにおにおにぃーさんが、まま……守ってあげるから……」
唇が震えて、なかかなアズを安心させてあげることが言えない。
それどころか、「ズンッ」と響くたびに、体がビクッと震えてしまう。
アズより、オレの方がよっぽどおびえている気がする。
大人として、アズを安心させなければならないのに。
「…………」
それでもアズは、一度だけこちらの顔を見上げた後、ふと笑ったような雰囲気を見せて、オレの胸元に顔をうずめた。
少しは安心してくれたのだろうか。
俺たちはそのまま、象の振動が響いてこなくなるまで、ずっと抱き合って震えていた。
……いや。震えていたのは、オレだけだったけどね。
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