第027話:水浴びをして……
まずは、オレから水を浴びた。
危険がないか確認するためだ。
まあ、一応は大人だからな。
レジャーシートを敷いて、その上に着替えを置いておく。
もちろん、真っ裸だ。
少女にオレの魅力的な裸体は目の毒なので、後ろを向いていてもらう。
(ウソっす。見られて恥ずかしいのはオレです……)
ほとんど筋肉がついておらず、貧弱だ。
好き好んでみるヤツなどいない体である。
(つーか、水がすんげーきれいだなぁ……)
水面は少しだけ赤らんだ陽射しを返すも、底まで見えるぐらい澄んでいる。
砂がサラサラと囁くように流れている。
危険な生き物とかはいない……と思いたい。
オレは足先から怖々と入ってみる。
水は、ほどよく冷たい。
(うおっ! 気持ちいい!)
こんな暑い中で水遊びするのは、やはり気持ちいい。
しかも、真っ裸で開放的になり、砂漠のオアシスで水浴びするなんて滅多にできることではない。
今なら、咎める者は誰もいない。
それだけでも、贅沢な気がしていい気分だ。
泉は、さほど深くはなかった。
奥の方に行くと、少し足が届かなくなるぐらいか。
泳ぐこともできるし、このまましばらく遊んでいたいところだが、早めにあがることにする。
あまり遅くなると、日が陰ってしまう。
彼女の沐浴が、寒くなってはかわいそうだ。
汗と砂、そして余熱が流れたので、オレは少女と交代することにした。
まず、石けんを渡す。
キャンプ情報などをネットで調べて、石けんはあまり使うなということだったが、一応は「生物分解性自然素材」とか書いてあるのを手に入れてみた。
実はP泊で石けんを使うことはあまりないのだが、異世界用に念のため持ってきていたのである。
前回来た時に、何度か石けんが欲しいと思うことがあったのだ。
「…………」
しかし、彼女は石けんを手にとっても、しばらく不思議そうに眺めていた。
「石けんだよ。つーか、石けんって知ってるか?」
オレの言葉に、彼女はこくりと頷き腑に落ちた顔をしていた。
加えて、タオルと着替えになりそうな物を渡してやる。
彼女は受けとりながらも、困惑した顔でオレに瞳で尋ねる。
たぶん、「使っていいの?」ということなのだろう。
オレは大きくうなずき、親指と人差し指で丸を作ってみせる。
すると、少女はやはり嬉しそうにうなずき、頭をさげる。
まったく、小さいながら本当によくできた娘だ。
オレなんて、この年になって初めて本気で人に頭をさげたぞ……って、自慢にならないが。
「…………」
しかし、頭を上げた彼女は、どこかまだ申し訳なさそうに上目づかいする。
なんだろうと一瞬、オレは迷ったがすぐに気がついた。
「ああ。安心しろって。オレはここに座って……」
泉に背中を向けて、オレは椅子に座る。
そして、タオルで目隠しだ。
「これでいいだろう?」
「…………」
声はしないが、なんとなくまた頭をさげた気配がある。
そして、レジャーシートのガサガサした音が聞こえる。
当然ながら、子供用の着替えの用意などはない。
そこでティーシャツとワイシャツを貸す。
オレのワイシャツならば、膝近くまでは隠れるだろう。
スカート代わりになると思う。
これがもし少女ではなく、せめてキャラぐらいなら……いや、キャラでもまだ早熟だな。
スタイルはいいが、ちょっと高校生ぐらいにそういうカッコをさせるのは犯罪くさい。
どうせなら、うちの会社の人気ナンバーツーである、美人秘書様にぜひ着て欲しい。
あのきつい横長の眼鏡をかけた、性格のキツそうな、絵に描いたようなキャリアウーマンが、風呂上がりにオレのだぼだぼワイシャツを着て、オレにしか見せない甘い表情をしながらベッドでオレを待つ……ああ、憧れだ。
もちろん、そこに至るまでのシチュエーションも大切だ。
(そうだな……。あそこに行って、つーかあっちにも行って、食事して……どぅふゅふゅふゅふ……)
思わず想像して顔がにやける。
目隠ししているせいか、妄想がはかどり、二人のスイートな生活が頭の中で次々と展開されていく。
もちろん、オレのようなダメ平社員が相手にされるわけがないのだが、妄想するのは勝手だろう。
そう。妄想ならば、オレはハーレムを作れるし、金持ちになれるし、空さえも飛べる!
オレは自由だ!
――ツンツン
妄想暴走の最中、肩を突っつかれたので、目隠しの下を少しめくって覗いた。
「あ……終わったのか?」
「…………」
覗いた隙間から見えたのは、下から見上げるグレーのジト目。
まるでオレの妄想を責めているようだ。
オレは慌てて自分の頬をかるく叩いて、垂れ下がった目尻と口元を引きしめる。
そして目隠しを取りながら、いきなり言い訳。
「い、いや、違うんだ。つーか、覗いてニヤけていたわけでもな――」
と、そこまで言ってから、オレは思わず息を呑んだ。
目の前にいたのは、鮮やかな青い髪と、信じられないほど澄んだ真っ白い肌をした、恐ろしく可憐な美少女だったのだ。
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