第025話:少女を拾った。

 オレが見つけたのは、キャラ……ではない少女だった。

 考えてみれば、そんな都合よく遇えるわけもない。

 異世界だって広いのだろう。

 キャラは16才と言っていたが、目の前の少女は中学生にもなっていない感じだろうか。

 まだ10才前後ぐらいに見える。

 ネコ耳もないし、尻尾もない。

 変わったところと言えば、仮装用ウィッグでもつけているのかと思うような、鮮やかな水色の長い髪をしていることだろう。

 眦は切れ長だが、今は開かれていない。

 ただ、乾燥が酷い

 元の色がわからないぐらい汚れた肌は、あれてカサカサになっている。

 そして唇もひび割れていて、水分など感じられない。

 オレは慌ててアウトランナーに積んでいた水を出してきた。

 紙コップにいれて、水を口元にあててみる。

 だが、口を動かす様子がない。

 仕方なく、オレは自分の口に含んで口うつしで飲ませてみる。


 うおおお、これキッスじゃねー?


 ……などと、興奮などしない。

 別に恋人がいたことはあるし、それなりの経験は済んでいる。

 それに相手は子供で、今は人命救助。

 カサカサの唇にオレの唇を押し当て、押しこむように水を口の中に少しずつ注ぎこむ。


――コクンッ


 入った水を飲んだ。

 もう少し注入してみると、また呑みこむ。

 これならばと、もう少し注ぎこんでみる……と、いきなりオレは少女に突き飛ばされた。

 ただ、力がほとんど入らず、体が少しは慣れる程度だ。


「な、なんもしねーよ! こわくないぞ?」


 オレの言葉に、彼女は外套と同じようなグレー系の瞳をめいっぱい見開き、オレを睨んだ。

 同時に腕を自分の唇に当てる。


「あ、つーか、別に今のは水を飲ませただけだぞ! チューしたわけじゃねーからな。ノーカンだ、ノーカン。わかる?」


「…………」


 その様子は、超警戒している。

 グレーのフード付き外套の下に、クリーム色のチェニックを着込み、体のラインはよくわからない。

 しかし、その小さい体が震えているのが分かる。

 オレから逃げるように丸めながら、少しずつ後ずさっていく。

 ふと見ると、両手首に手枷と千切れた鎖がついている。

 どこかに捕まっていたりしたのだろうか。


「こ、こまったな……。えーと……あ! ほれ、水だ、水。しかも、六甲山のおいしいわき水だ……」


 オレはコップに残っていた水を差しだす。

 だが、なかなか近づいてこない。

 まるで怯える動物に餌でもあげている気分だ。

 オレは仕方なく、コップを彼女の方に置いて自分は離れた。


「ほれ。つーか、早く飲めよ。貴重な水に砂とか入るし、風でこぼれるかも知れないぞ」


「…………」


 すると彼女は、四つん這いで近寄り、さっとコップを取って口に運んだ。

 が、少し慌てて飲み過ぎて咽せる。


「だ、大丈夫か?」


「…………」


 彼女はこちらを警戒しながらも、ゆっくりと立ちあがる。

 オレはその様子を怖がらせないようにうかがってた。

 どうするつもりなのだろうと思って見ていると……突然、彼女は眩暈がしたように、その場に倒れてしまったのだ。



   ◆



 オレは彼女を車に寝かせることにした。

 かなり体が熱を持っているので、熱中症じゃないかと思った。

 彼女の外套を外す。

 彼女は半分意識があるのか、最初は少し抵抗していた。

 看病するだけだと言っても、抵抗をやめない。

 オレが乱暴でもすると思ったのだろうか。

 まったく失礼な話だ。

 最近、ダメ人間だという自覚はでてきたが、子供に悪さするほど外道ではない。

 まあ、大した力もでないので、説得も面倒になり無理やり外套をとり、そのままお姫様抱っこで、荷室ラゲッジルームにつれていった。

 車のマットは敷きっぱなしだったから、その上にレジャーシートをかぶせた。

 さすがに砂だらけの体をそのまま載せるのは抵抗がある。

 彼女はその上に転がされると、ものすごく驚いた顔を見せた。

 オレは、保温性を高めるため、窓に手作りシェードも付けたまま、クーラーを利かせていた。

 つまり、中はもう別世界の快適さだ。

 オレは追加で少し水を飲ませた後、マットに寝かせた。

 ついでに救急箱から、おでこに貼る吸熱シートを取りだして貼りつける。

 これも最初抵抗したが、貼ってしばらくしてどんなものかわかったらしくおとなしくしてくれた。

 本当は脇の下とかに貼るべきなんだろうけど、たぶん勘違いされそうなのでやめとく。

 テールドアを閉めた瞬間、悲壮そうな顔をしたが、オレが運転席に来ると、すぐに落ち着いてくれた。

 閉じこめられたとでも思ったのだろうか。

 とにかく彼女はおびえていた。

 手枷をかけられているぐらいだから、いじめられていたのだろうか。


「さて。問題はどこに行けばいいのかだなぁ……」


 オレがボソッとこぼすと、後ろから辛そうにしながらも、少女が半身を起こした。

 そして、前方を指さす。


「……あっちに向かってたのか?」


 静かにうなずいて、もう限界という感じで崩れる。


「ああ、もう寝てろ。あっちに向かってやるから!」


 彼女は、自分の家に向かっていたのだろうか。

 それなら、あっちに村とかあるに違いない。

 どうせ行くあてもないし、オレはアウトランナーをそちらに向けて走らせ始めた。

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