第024話:ちゃんと異世界に行き……


 ――【道の駅しょうなん】


 千葉県で八番目にできた【道の駅】で、柏市の県道船橋我孫子あびこ手賀てが大橋のたもとに造られている。

 手賀沼の畔で、ここを拠点に観光が楽しめる……ということになっているが、ぶっちゃけそれほど目玉になる観光資源はなさそう。

 まあ、少なくともオレの感想ではね。

 サイクリングコースがあり、自転車をレンタルできるので、もっと早い時間に来ていたなら走ったら気持ちよかったのかもしれない。


 施設的には、お約束の「農産物直売所」があって、地元の農家から直売されている。

 オレがついた時には、もうめぼしいものはほとんどない感じだった。

 こういうのは朝一番に行かないとダメらしい。

 ただ、生の落花生って初めて見た。

 蒸かして食べると、ソラマメみたいな感じで柔らかくうまいらしいが、オレには想像つかない。

 こういう食材を買って、自分で料理したらうまいのかもしれない。

 キャンプするなら、料理も勉強したくなってきた。

 ちなみに、今の俺のレパートリーは……おにぎりだけだ。

 昨夜、ためしに作ってみたが、意外に形になった。

 もしかしたら、オレにはおにぎり作りの才能があるのかもしれない。


 飯と言えば、中華系メニューメインのレストランもある。

 パッと見た感じ、普通かなと思うが、なんか柏でとれたカブのソフトクリームとかあって驚いた。

 正直、うまそうじゃないと思ったが、ネットで調べたところ「うまい」と書いてある。

 ならばと、興味本位で買ってみた。

 確かにうまかった。

 クリームにカブが練りこんであるらしいが、癖はあまりない。

 ちょっと変わった風味が新鮮で、あっという間に食べてしまった。


 最寄りの入浴施設、手賀沼観光リゾート【天然温泉 満点の湯】は、国道六号線を挟んで反対側にある。

 トンネルとか作ってくれれば便利なのだが、すぐ目の前なのに大回りして信号を渡らなければならないので、ちょっと不便だ。

 入ってみるとかなり大きい。

 風呂もいろいろと豊富にあり、露天風呂やサウナ、岩盤浴もある。

 中には食堂施設や茶屋があったので、オレはそこで夕食を取ることにした。

 これがなかなかうまい。

 季節メニューとかもそろっている。

 入場料を払わないと入れないが、こっちの食事の方がオレは好みだった。


 温泉は、ゆっくりと楽しめた。

 温泉からでた時には、「異世界」なんて完全に妄想だと思うようになっていた。

 ネコ耳でウサギ尻尾の【キャラ】なんていう娘は、オレの妄想が作りだした産物――脳内嫁みたいなもんだ。

 きもちよくビールを飲んだら、もう完全に異世界のことなんて忘れていた。


 オレは、車に戻ってすぐに車中泊の準備にかかる。

 今までは椅子を倒して寝るだけだったが、今日は違う。

 まず、荷物をどけて荷室ラゲッジルームと後部座席をフラットにして、そこにインフレーターマットを広げた。

 このマットは、隅についているバルブを開くだけで、静かに膨らみだすのだ。

 空気入れでシュコシュコとやる必要がない!

 うむ。これは便利だ。

 先に歯磨きやトイレなどを済まして戻ってくると、マットはかなり膨らんでいた。

 これなら寝ても背中が痛くなることはなさそうだ。

 バルブを閉じて、電気毛布を敷く。

 次に、窓にシェードを取りつける。

 これは、ホームセンターで買ってきた保温アルミシートを自分でカットして、窓枠にはまるようにしたものだ。

 目隠しと、高い防寒対策になると、ネット情報で見たので作ってみたのだが、本当にその通りだった。

 きちんと作れば、結露防止にもなる。

 ただ、俺は適当に作りすぎて、隙間だらけとなり、そこに結露ができてしまった。

 まあ、性格が適当なので、しかたないか。


(ガソリンも満タン。充電もよし!)


 オレは温かくなった電気毛布にくるまって、とっとと寝てしまう。

 温泉に入り、酒をかっ喰らって寝る。

 仕事の疲れもぶっとぶ……ってか、仕事への意欲もぶっ飛ぶ。

 もう仕事したくない!

 まあ、もともと仕事は嫌いだから、意欲なんてないか。

 でも、オレに唯一、期待をかけてくれるキャラにはこたえたい。


(つーか、脳内嫁に何言っているんだ、オレは!)


 少し自嘲しながら、眠りついた。


   ◆


 そして、オレは今、異世界にいる。

 夢落ちでも、幻覚でもないらしい。

 条件は全く分からないが、ちゃんと異世界転移シフトチェンジしていた。

 気になることと言えば、夢を見たことぐらいだろう。

 誰かに「助けて」と言われる夢。

 前回の時はどうだっただろうか。

 そういえば、なんか呼ばれた気もするが……覚えていない。

 まあ、とにかく異世界に来ることはできた。

 ただし、周りは前回のような木々の豊富な風景ではなく、荒れ果てた大地だった。

 地面は乾燥してひび割れ、草木の姿も見えない。

 動物の姿も見えない。

 ただただ、黄土色の大地が、空の青とつながるまで広がっている。

 少し外にでてみたが、からっからの風がたまに舞い、砂埃をまきあげる。

 さらに、陽射しが焼けるように暑い。

 これは、かなり過酷だ。


(これは予想外……つーか、やばいな……)


 ナビを見るが、前回と同じように場所は【道の駅しょうなん】のままだ。

 オレは遠くを見渡した。

 人里や森が見えないか探した。

 が、見当たらない。

 しばらく走ってみるしかなさそうだが、問題はこの暑さだ。

 すでに車内の温度がかなり上がっている。

 なにしろ、目覚めの一言は、「つーか、あちいよ!」だった。

 すでに背中に汗がにじんでいる。

 窓を開けて走ればかなり違うだろうが、砂埃がけっこう舞うので車内が大変なことになってしまうだろう。

 しかし、エアコンをつけると、非常にガソリンの燃費が悪くなる。

 エアコンは、電気食いなのだ。

 結果、ガソリンを使うことになってしまう。

 ぶっちゃけ、こんなところでガス欠になったら、まずまちがいなく死ぬ。

 干からびた、スルメイカのようになる自信がある!


(しかたないか……)


 このままでは熱中症になりかねない。

 オレは一か八か、エアコンを入れてから、適当に車を走らせ始める。

 エアコンは弱めにしてエコ走行。

 充電されていた電気がどんどん使用されていく。

 ガソリンがなくなる前に、どこかに退避しなければならない。

 アウトランナーは、砂埃をあげながら走り始めた。

 退避場所を探すため、辺りを注意ぶかく見ながら進む。


(……なんだ、あれ?)


 それ・・を見つけたのは、走りだしてから一〇分後ぐらいだった。

 オレは訝しんで、少し手前で停めた。

 黄土色の大地に転がる、砂をかぶったグレーの塊。

 よく見れば、なんか人の足のようなものが見える。

 オレは車をゆっくりゆっくりと警戒しながら進めた。

 そして、途中で気がついた。

 それ・・は、倒れた人間だったのだ。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

※参考

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

●道の駅しょうなん

http://www.michinoeki-shonan.jp/


●手賀沼温泉 満天の湯

http://www.manntenn.com/


●Guymがポチッた!!: 「道の駅しょうなん」に行ってきた!

http://blog.guym.jp/2015/09/blog-post_16.html

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る