第006話:異世界に行っちゃいました。
気がついたら、オレは東名高速道路に乗って、夕方ぐらいに足柄
気がついたら……というのは、変な言い方なのだが、ここまでの道のりが思い出せないのだ。
運転してきたことはまちがいないのだが、あの住職と話したあとの記憶が曖昧なのだ。
それなのに住職が最後に言っていた、世迷い言のような言葉だけはしっかりと記憶に残っていた。
(つーか、シフターとか異界召喚士とか、あの住職はアニメの見過ぎなんじゃねーかね)
などと考えるものの、オレの心のどこかに、それを笑えていない自分がいる。
しかし、考えてもわからないことは、考えない方が精神的に楽だ。
そういうわけで面倒なことを捨てておき、オレはとりあえず早めの夕飯を食うことにした。
なにしろ、昼からあの騒動で飯を食っていないせいで腹ぺこである。
オレは車から降りると、
(ここなら、美味そうな物がいろいろありそうだしな……)
足柄
前にも言ったが、【P(駐車場)泊】、または【車中泊】とは、車の中で寝泊まりする旅行方法だ。
ホテル等に泊まらずに宿泊費を浮かせられるだけではなく、チェックイン・チェックアウトの時間にも縛られない。
車で好きなところに行って、好きなスケジュールで旅を楽しむわけだ。
ただし、駐車場で車中泊すると言っても、どこの駐車場でもいいわけではない。
トイレがないとこまるのは元より、そもそも車中泊禁止の場所もあるので注意しなければならない。
その点、高速道路のパーキングエリアやサービスエリア、また「道の駅」と言った施設は、車中泊に向いているところが多い。
特に初心者にお薦めは、高速道路の観光的要素の高いサービスエリアだと思う。
下手な駐車場で車中泊すると、防犯上の危険が高い場合があるからだ。
一度、あまりに眠くて、とある公園でP泊しようとしたのだが、いきなり知らない男に窓を覗きこまれたことがあった。
後で知ったのだが、車中泊している車から物を盗む事件なども結構あるらしい。
その点で高速道路のサービスエリアは、ふらっと入ってこられる場所ではない。
危険がないとは言わないが、人気のないそこらの駐車場で寝るよりはよっぽどいいはずだ。
それから、大きめのサービスエリアには「ドッグラン」がある場所がけっこうあるが、そういうところは狙い目だと思う。
オレも最近まで知らなかったのだが、犬の運動場たる「ドッグラン」があるところには、車中泊をする車が多く集まるのだ。
ペットと旅行をしたいが、ペットが泊まれる施設は少ない。
そこで車中泊を利用している人は多いというわけだ。
実際、この足柄サービスエリアにも「ドッグラン」があり、キャンピングカーやP泊している車がたくさん見られた。
やはり、同じ目的で来ている人が多いのは心強い。
車を駐める時、オレも周りにその手の車が多いところを狙うことにしている。
それから大きなサービスエリアでは、食事処も豊富になるので、いろいろと楽しめるという利点もある。
だから、今回も飯はかなり悩んだ。
あれも食べたいし、これも食べたい。
でも、オレはなんとなく甘い物が食べたくなったので、とりあえず「鬼まんじゅう」というのを買ってみた。
これは名古屋名物らしい。
しかし、いくら東名高速道路とは言え、名古屋名物は早すぎるのではないだろうか。
それはともかく、見た目が、なんともデコボコしている。
店の人に聞いたら、砂糖と薄力粉の生地に、角切りのサツマイモを混ぜて蒸して作っているのだという。
まったく関係ないのだろうけど、その形は浅間山の方にあった、鬼押し出しの岩を想像させた。
甘さはそれほど強くなく食べやすい。
サツマイモの甘味が、少し強くなったぐらいだ。
ただ、けっこうお腹にたまってしまう。
本当はわっぱ飯とかも食べてみたかったのだが、鬼まんじゅうを全部食べたら、とても入りそうになくなってしまった。
しかたがなく、今回はあきらめた。
わっぱ飯の「わっぱ」は、檜や杉製の薄板を曲げて作った円筒形弁当箱のことらしい。
それにご飯を入れて、上に鮭とかいくらとかのせて蒸した郷土料理だ。
ここのサービスエリアでは、しらすや桜エビがのった物がメニューにあった。
うん。やはり食べたいので、気が向いたら明日の昼飯にでもしようと思う。
(まあ、もともとは新潟の郷土料理だから、無理してここで食べなくてもいいんだけどね……)
それから、コンビニがあったので、朝飯用にとおにぎりを二つほど、あとはちょっと食べるようにロールパンの袋を二袋ほど買っておいた。
あと水をペットボトルで三本追加。
水さえあれば、すでに用意済みのコーヒーも飲めるし、ココアも飲めるし、みそ汁も飲めるし、カップラーメンも食べられる。
これでしばらくは食事処がなくても困らないだろう。
一通り買い物が終わり、オレは風呂に入ることにした。
足柄
しかも、「あしがらの湯」という名前で、金時山が眺望できる展望風呂まであるらしい。
シャワーがある施設は結構あるが、こんな風呂があるサービスエリアは少ない。
このことも、足柄
ただし、お風呂は期待したほど大きくもなく、夜だったので眺望を楽しむ事もできなかった。
(つーか、風呂に入れただけマシだけどな……)
飯も食ったし、汗も流してすっきりした。
もうあとは、車で寝るだけだ。
アウトランナーの駆動用バッテリーは、急速充電を済ませてある。
これで寝る時に電気毛布を使っても、朝までバッテリーが切れることもないどころか、余裕で余るだろう。
朝になれば、明日は富士山が見えるはずだ。
それを見ながら、熱々のモーニングコーヒーで英気を養おう。
考えただけでも、オレの気分が高揚する。
明日は金曜日だけど、もちろん仕事になんて行かない。
もう、あんな仕事なんてどうでもいい。
それに今さらオレが出社しなくても、誰も困りはしないはずだ。
だからオレは、しばらく旅をして力をためるんだ。
気楽にP泊して、おいしい物を食べて、温泉に入って……そんな旅は、オレに力をくれる。
そして十分たまったら、オレの力が発揮できる、オレにあった仕事を今度は探すことにしよう。
そう考えながら、オレは眠りについた。
◆
そして次に眼を覚ました時、オレはあの住職が言っていたことが世迷い言ではないと実感した。
アウトランナーは、確かにオレに新しい景色を見せてくれたのだ。
でもさすがに、ネコ耳ウサギ尻尾娘がカップラーメンを食べるシーンを目の前で観察することになるとは、夢にも思わなかったけどね……。
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※参考
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●足柄サービスエリア(下り)
http://sapa.c-nexco.co.jp/sapa?sapainfoid=4
●Guymがポチった!:「足柄SA」に行ってきた!
http://blog.guym.jp/2015/09/sa.html
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