第021話:仕事は嫌いだったけど……

「君は……仕事は好きか?」


 喜多本部長の言葉は、オレの予想と違い質問だった。

 しかも、回答を悩む質問だ。

 野球で言えば、2−3ツースリーの場面。ストレートがきてアウトがとられるかと思ったら、外角ぎりぎりが来て、バットをふるべきか見送るべきか悩んでいるような気分だ。

 ああ、例がわかりにくいか。

 とにかく、好きか、嫌いか、どっちが正解なのか……本部長が何を思っていったのか、その真意が掴めない。

 だからと言って、聞き返せる雰囲気でもない。

 ここは正直に答えるべきかと、思っていることを言ってみることにした。


「嫌いです!」


 口にだして気がついたが、これってどう考えても「クビにして」とあまりかわらない、なんとも酷い回答だ。

 違う。そうじゃない。言葉が足らない。


「――ですが、少なくともこれからは、自分にかけられた期待には、しっかりと応えていくつもりです!」


「期待に、しっかり応えると?」


「さ……最低限は……なんとか……」


「最低限なのか……」


 本部長の眉間の皺が増える。

 しかし、オレとしてもあまり過度の期待をいきなりかけられても困る。

 オレはぶっちゃけ、仕事ができる方じゃない。

 それはきっと本部長も十分わかっているはずだ。


(……つーか、それなら過度の期待などかけるわけもないか)


 オレのそんな考えがわかったのか、本部長は中年太りの腹の底から大きなため息をもらす。


「はあぁ〜……。まあ、なんだ。今までの君の態度から考えれば、大きな進歩と言えよう」


「そ、そうっすか……」


「とにかく、野々宮部長についていって、第四企画室に君のわかりにくい提案書の説明をしてきなさい。今は、やれることをすべてやり尽くしなさい。今回の処分は、その結果を見て考える」


「は、はい!」


 どうやら執行猶予がついたらしい。



   ◆



 席に戻ると、隣の先輩が「クビか? 自主退社か?」と、揶揄するようにしつこく聞いてくる。

 オレはそれを適当に返答して聞き流す。

 この先輩は、たぶんオレに全く期待していないのだろう。

 いや、もしかしたら、オレの失敗を嘲ることができることを期待しているのかもしれない。


(まあ、それはこの先輩に限ったことではないか……)


 オレの部署では、当然ながら今回のことは大問題となっていた。

 声をかけてこないヤツらも、腹に一物を持っているはずだ。

 今まで以上に、オレのことをバカにするか、疎ましく思っているヤツも多いだろう。

 だがまあ、それはいつものことの延長だ。

 そんな中で、いつもと違う反応だったのが、【神寺かみでら みや】さんだった。

 この本社内で「みんなのアイドル的存在ベストテン」の三位で、広報部が社内報の社員紹介でつけた肩書が「癒しのオアシス」という、ほんわかとした雰囲気が特徴の一年下の社員だ。

 まん丸な輪郭に、まんまるの目、それにまん丸の髪飾りをつけて、左右で髪をちょこんと結んでいる。

 ちんまりとしたイメージで、全体的に「丸」というイメージなのだが、スタイルは逆にすごいという。

 出るところが出て、腰はきっちりとくびれている。

 一部のマニアからは、その幼さと女らしさの共演する容姿がバカ受けで、社内アイドル三位ながらも、告白された数はナンバー・ワンだという。

 かくいうオレも、一度だけ声をかけてみたが、華麗にスルーされた。

 そんな彼女が、「お疲れ様」と声をかけながら、オレにコーヒーを入れてきてくれた。

 オレは、ちょっと心が躍った。

 もしかして、とうとう来たのか、モテ期。

 まじめに仕事するオレの姿に、きゅーんとしちゃったのか!


「最後かもしれないから……ね」


 苦笑いした、かわいい顔できついことを言う。

 もう追いだす気満々らしい。

 いや。もしかしたら、彼女なりの優しさなのかもしれないが。

 でも、餞別のコーヒーは、本当にまずいインスタントだった。

 ともかく、オレは最後のあがきをしてみた。

 資料の確認や作成を指示を受けながら行った。

 いつも自分のペースで、「あとでやりまーす」と適当に仕事をしていたオレが、受け取ったらすぐに仕事をする。

 それだけで、周りがオレを奇妙な目で見る。


(ああ、ああ。わかってる。オレらしくないよね。でも、今だけはやる。つーか、どっちにしても、長続きはしないだろうけど!)


 オレの気力は、妙に充実していた。

 そして、頭のクリアさも続いている。

 いつもは何を言われても頭に入ってこないのだが、今日は不思議と言われたことが、すっと頭にはいってきて処理できてしまう。

 まさにオレ様、ターボブースト中だ。

 資料ができると、喜多本部長、野々宮部長、山崎リーダーに、オレを加えて客先に謝罪に行った。

 最初、オレは行かなくていいと言われたが、オレは自分で遅れたことを謝罪したいから連れて行ってほしいとお願いした。

 そのことに、三人とも青天の霹靂とでも言いたそうだったが、何とか納得してくれた。

 客先でも頭をさげた。

 キャラに頭を下げてから、なんか頭をさげるということが、できるようになった気がする。

 もちろん、かるくペコペコとして、さげる頭の価値まで下げているつもりはない。

 なんとなく、「謝る」ということの大事さを知った。

 そして、客先からの帰り道に、改めて三人に謝罪した。

 特に、今まで「ただ偉そうにしている」としか見ていなかった、山崎や野々宮部長の仕事ぶりを見て感じていたのだ。

 キャラほどではないにしろ、彼らも仕事を頑張っているんだという当たり前のことを。

 そしてオレは、仕事を続けられることになった。



   ◆



 仕事の方は、なんとかなった。

 これからもこのペースで仕事すると死んじゃうので、そこは自分のペースに戻させてもらうつもりだ。

 でも、少なくとも頼まれたことだけは、きちんとこなせるようになろうと思えるようになった。

 これもすべてキャラのおかげだ。

 これはぜひお礼がしたい。

 もちろん、おにぎりとラーメンを持って行って。

 ……いや。別に代わりにあちこち、思う存分、触らせてもらおうなどという、いやらしいことは、これっぼっちも考えていない。

 あの子は一〇才も下だし、今回はあくまでお礼だ。

 ……もちろん、彼女がお礼に触ってほしいと言ってくれるのならば、そこは大人の器量として前向きに善処したい所存。


(まあ、でも、あの尻尾をモフモフぐらいはしてみたいかな……)


 などと夢が膨らむ、翌日の土曜日。

 しかし、その夢をかなえることは、なかなかうまくはいかなかったのである……。





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