第65話
***
【田中弘人】
あいつのことは、本当に大事だった。
だから、悲しいし寂しいし辛いし、何より悔しかった。
消えてしまった――いや、俺が消してしまったことが、どうしても許せなかった。
一人になった列車を降りてから今まで、あいつについて俺が考え続けたことは、どれだけ時間があっても語り尽くせないし、どれだけ空白があっても書き尽くせない。もう考えたくないと思うほど、それでもどうしても考えてしまった。
そしてそれはすべて、後ろ向きのことばかりだった。
だけどもう、そんなことばかりを考えて、こんなことになってもいられない。
あいつと明良――二人の理解者から、俺は言葉を貰い、尻を叩かれているのだ。
そんなの、立ち直らない訳にはいかない。
その手紙は、やはりマロスケの散歩から帰宅した俺が見つけた。
明良がうちに来てくれてから、三日後の夕方だった。
玄関のポストから垂れ落ちそうになってた公民館だよりを抜き出した時、ぽさりと落ちた白い封筒。郵便番号や住所はこの家を示していて、宛名には俺の名前が書かれていた。細長いその手紙は、前回と違い、縦書きのものであるらしかった。
手紙を自分の部屋に持って上がって、前と同じようにベッドに座って開封した。
ヒロさんへ、から始まったその長い手紙を、俺は時間をかけてゆっくりと読んだ。
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