第46話 忍、HRに参加する

「お母さん、いってきます。」


「はい。忍ちゃん行ってらっしゃい。」


私がお母さんに挨拶をしていつもの通学路を歩き出しました。私が通う私立宝生学園はJR美薗駅から歩いて10分程の距離にあります。駅から近いこともあり、近隣の生徒が電車で通うことも多いんですが私は歩いて通える距離ですので助かっています。町に沿って流れる美薗川の河川敷を通り抜けると駅に近づくごとに大きめの店が見えてきます。東京の片田舎でも駅前は栄えているんです。駅に向かう人の流れに合わせて進んでいると町民の憩いの場として運動公園と私が通う私立宝生学園が見えてきます。


運動公園にあるダンジョンに入ってみたいのですが現在は為残念ながら封鎖中です。なんでも人型モンスターがいることが人権問題に発展してしまったみたいで彼らを保護しようなんて話も出てきているみたいです。ゴブリンを保護したらあちこちで凌辱ネタが発生しそうでそれはそれで美味しいのですが。ダンジョンに入れないのは残念です。今は警察の方が来て一般人が中に入れないようにしていますので中の状況は分かりません。警察の方がいない時にでも忍び込んでみましょうかと一度小姫ちゃんに相談したら絶対にやめてと言われましたが諦められませんね。






「小姫ちゃんおはようございます。」


「うん。忍ちゃんおはよぉ。今日もいい天気だね!」


私立宝生学園2-Fの朝の教室で私が鞄から教科書を出してくると私の親友である小姫ちゃんが満面の笑みで前の席から話しかけてきました。小姫ちゃんは相変わらず食べちゃいたいくらい可愛いです。むしろ食べたいですね。あのフワフワした小動物的な小姫ちゃんを縛って言葉攻めしたらきっといい顔になってくれると思います。フフ腐、これだけでご飯3杯はいける自信はあります。そんな妄想をしていることなど全く気付かない小姫ちゃんは元気よく私に昨日のTVの話をしてくれます。コロコロと変わる表情を見てると飽きませんね。


「でね、女の子のマンションに手違いで嫌いだと思っていた上司の男の人と居候しちゃう話なんだけどねとっても面白いんだよぉ。ちょっと冷たいけど優しいところがある上司の大人の魅力がスゴイんだよぉ。あんな同棲生活憧れちゃうなぁ。」


小姫ちゃんは昨日のドラマの内容を楽し気に語ってくれますがそれ私見てないんですよ。昨日は今期のアニメをチェックした後は『インドネシアに生息する謎のUMAを追え!』を見てました。番組では水棲系UMAであるネッシー、オゴポゴのような恐竜型UMAを想定して現地で暗視カメラを設置して芸人さんが現地で色々聞き込み調査をしていました。こういった毎回見ていて思うのですが、やり方が手ぬるいと思います。恐竜型ではなく無脊椎動物という可能性も考えられるわけですから水面が波立ったかどうかを確認するのではなく、いっそ川の水をせき止めるくらいの気概を見せて欲しいです。水深が深いのであれば潜水艦を持ち出してあげれば世の淡水系UMAの半分は正体が分かると思います。ですがダンジョンが出来ているのでUMAもモンスターもそのうち変わらなくなるかもしれないですが、こうして小姫ちゃんと話しているとダンジョンがこの近くにあるなんて思えないくらい平和ですね。とは言ってもそのダンジョンは警察の方によって閉鎖されているので入れません。残念です。


「おーい。皆、席につけよー。」


「あ、先生おはようございまーす!」


そんなたわいのない話をしているうちに先生が教室に入ってきました。うちのクラスは素直な人が多いのですぐに席につきます。もちろん私と小姫ちゃんは素直を通り越して純真無垢なので最初から席についています。


「あー、文化祭まであと1か月なので出し物を決めたいと思う。委員長、後を頼む。」


「はい。では2-Fの文化祭出し物を決めたいと思います。」


文化祭の期日は部活をしているので知っていましたが、クラスの出し物については別に何も考えていませんでした。


「はーい!喫茶店がいいと思うよー!」


「俺はお化け屋敷!」


「ヨーヨーすくいとか簡単じゃない?」


委員長が司会となり、どんどん意見が集まってきますがありきたりですね。大体が喫茶店とかたこ焼きとかの飲食系とお化け屋敷や金魚すくいなどのアミューズメント系ですね。意見が出る度に書記役の人が黒板に書き出していきますがご苦労様です。委員長は出揃った物を見てうんうん頷いていますが、半分くらい実行できないものですよ?王様ゲームとかキャバクラとか男子の欲望に塗れた物も多いのでそこは断固拒否させて頂きたいと思います。小姫ちゃんがやる分には可愛いからアリだと言っておきましょう。私が王様になったら小姫ちゃんにはスクール水着にエプロン装着を命じてみましょう。ウフフ腐…きっと萌えますよ。裸エプロンなんて目じゃありません。もちろんスクール水着とエプロンにはそれぞれひらがなで《こひめ》と書いているものが必須です。恥じらう小姫ちゃんがエプロンを取ったらその下には《こひめ》と書かれたスクール水着…これだけでご飯3杯はいける自信があります。異論は認めません。もはやこれは様式美なのです。そんなことを考えていると小姫ちゃんが私に話しかけてきました。声を潜めて声をかける姿は小動物的な保護欲をそそりますね。


「忍ちゃん、忍ちゃんは何かアイデアはないのぉ?」


「そうですね。個人的には小姫ちゃん危機一髪とか小姫ちゃんコスプレ写真会とか小姫ちゃんすくいとかがいいんですがクラスの出し物としては難しいですから意見は出さないつもりです。」


「…ホントよかった。忍ちゃんが意見を言わないで本当によかったよぉ…。」


個人的に小姫ちゃんはいじりたいですが公衆の面前ではさすがに嫌なので却下です。私としても公開プレイは興味がないですし。


「大体出揃ったわね。じゃあ集計をとるわよ。」


委員長が出てきた案を一つずつ集計を取っていった結果今年の2-Fの出し物はメイド喫茶となったようです。無難ではありますがメイドというのは案外大変なものなのですが、波風を立てなくはないので黙っておきましょう。その後役割分担を決めてHRも解散となりました。


「うぅ…メイドさんなんて恥ずかしいよぉ…。」


「小姫ちゃんなら大丈夫ですよ。きっと萌えます。」


「忍ちゃんはいいよね、だってメイドさんの指導係だもんねぇ…!」


そう私の役回りは何故か満場一致でメイドの指導ということになりました。理由も聞いても「波瀬さんならクオリティ高いものにできそう」ということです。あまりメイドさんには興味がないのですが選ばれたなら仕方ありません。全力を尽くしましょう。


「安心してください。どこに出しても恥ずかしくないドMメイド娘にしてみせます。…いや、小姫ちゃんなら天然系や天真爛漫系も捨てがたいかもしれません。舌足らずを活かして噛み噛みでの接客をしてもらうのもアリですね…!」


「忍ちゃんがまた暴走しかけてるぅ…。誰か止めてよぉ…。」


「暴走なんてしてませんよ?至って通常運行です。」


コテリと首を傾げながら告げると小姫ちゃんは頭を抱えてい叫んでいます。うんうん元気な小姫ちゃんも私は好きですよ。


「尚更悪いよぉ!」


小姫ちゃんの叫びだけが虚しく響いていました。

私はそれを見て突っ込み系のメイドもいいかもしれないと一人考えていました。

やっぱり小姫ちゃんは最高ですね。

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