第45話 九条、コボルトリーダーと戦闘する

坑道に芳香剤を設置してから2日後、充分に匂いが充満した坑道の探索を再開した。クロは少しは我慢できるみたいだが、芳香剤の匂いを長時間嗅ぐとクラクラすると言っていたので7階層が見えるまでは自宅で留守番してもらった。次の階層になったら従魔契約のスキルを使い召喚する予定だ。なので今日はコアと二人でダンジョン攻略となったわけだ。


坑道エリアはコボルトばかりが出現しており、村のような場所まで会った。本来であれば近づかれる前に気付かれてしまうが芳香剤の効果で俺達の匂いが誤魔化されたので視界に入らなければ問題なくスキル【探査】と併せて敵の位置を把握しながら攻略を開始していた。コボルトは倒すと土の魔石と錆びたナイフを落とす。ナイフは全くと言っていいほど利用価値はないが土の魔石は次回の買取の時に売れるので積極的に回収している。コボルトの群れは少なくて10体前後から村の規模まで行くと100体近くの大所帯もあるので俺達は比較的小規模の群れを撃破しながら進んでいる。


その戦闘方法は何度も接敵を繰り返すうちに段々とワンパターン化してきた。

コボルトをコアがスキル【探査】で感知するとまず光線レイで先手を打ち、相手を混乱させる。その後、俺が闘気を脚部に集中させ一気に詰めていき大剣で薙ぎ払うという戦闘方法で蹴散らしている。ワンパターンではあるが先手を取ることで相手に反撃をさせず一気に殲滅できるので便利だからな。


今も小規模のコボルトの群れを撃破しているが危なげなく対処ができているが、こいつらは知能が高いのか不利だと悟ると一目散に逃げだしてしまう。その為何匹か逃してしまったことがコボルト全体の警戒心を高めてしまった。その結果が目の前の状況ということか。


「ふむ。迎撃準備は万端と言わんばかりだな。」


『そうですね。コボルトリーダーを中心にコボルトを数体を歩兵として対応するつもりでしょう。左右にコボルトアーチャーが厄介ですね。』


階段前の広間には逃げ出したコボルト達が集まったのかコボルトリーダーが部隊を展開して待ち構えていた。コボルトはそれぞれ錆びたナイフを持ちながら怯えたような面持ちで腰が引けているが後ろに控えるコボルトリーダーが力で押さえつけているようだ。いや、どちらかというと督戦と言ったところか。後ろからコボルトリーダーは抜き身の長剣をちらつかせ強引に言うことを聞かせているらしい。その結果があの士気の低さと言ったところか。あれだけなら大したことはないが4体のコボルトアーチャーが厄介だな。近づく前に弓で攻撃されるのは目に見えている。いくらコアが遠距離攻撃できると言っても距離が離れていれば避けられる可能性もあるからな。


「コボルトアーチャーか。面倒だな。」


『はい。私が光線レイで攻撃しますが4体同時は難しいです。』


「確かにな。いくらなんでも同時攻撃は無理だな。ならせっかくこの前買ってきたことだしこいつを使ってみるか。」


俺は収納の指輪から先日芳香剤と共に買った物を取り出す。プラスチックの筒状の回りには商品名が書いてありそこには《超絶虫コロリ お家燻製で害虫サヨナラ!》と書いてある。この前スーパーの生活雑貨で見つけた物だ。こいつは発煙形式の物で有毒性の煙で虫を燻して殺虫するものだ。まぁ平たく言うとバル〇ンだ。こいつの発煙材部分を擦って思いっきりコボルト達に投げつける。もちろん闘気を使っているので飛距離は問題はない。コボルト達は突然投げつけたバ〇サンを不思議そうにしているが暫くするとモクモクと煙が出てくると慌てて手を放す。煙はどんどん勢いを増してコボルト達を燻していく。一つだけでは足りないので何個かまとめて投げつけてやり辺りは既に真っ白な煙で覆われている。コボルトリーダーが騒いでいるが混乱中のコボルト達はそれどころではないようだ。なまじ嗅覚が優れていることも災いしているんだろうな。


「クハハッ。思ったより効果があるな。大混乱じゃないか。」


『あ、あのー…マスター?それはなんですか?』


「ん?ああ、こいつは虫を煙で燻して殺す道具だ。予想以上に効果があったな。それよりもコボルトアーチャーも集中できていないみたいだから俺はそろそろ行くぞ。コアも光線レイでフォロー頼む。」


『あっ!マスター待って下さい!ああっもう!いきなり突撃しないでくださいよ!』


コアに質問の答えを簡単に伝えてコボルト達に向かって走り出す。蒼い闘気を脚部集中し速力を高めて人類が出せないであろうスピードで一気に距離を詰める。計ったことはないが下手なスクーターよりよっぽど速いであろうスピードで走りよる俺に気付いたコボルトリーダーが指示を出すが大半のコボルトは混乱中だ。コボルトアーチャーの2体がリーダーの指示に従い、俺に弓を向ける。1体目のコボルトアーチャーが弓矢を放った瞬間、両足に力を入れ空中に飛び出す。弓矢は俺が今までいた位置に刺さったがその頃には高く舞い上がりコボルト達の上空だ。そして空中の無防備な姿を捉えた2体目のコボルトアーチャーが狙いをつける。


『させません!光よ!闇を打ち払え!光線レイ!』


だが、2撃目が放たれる前にコアが光線レイによりコボルトアーチャーが貫かれ、どぅっと地面に倒れる。


「ナイスだコア。」


コアのフォローにより2撃目は届かず、制空権を取った状態でくるりと一回転して勢いを高めた上でツヴァイヘンダーを叩きつける!刀身は1.5メートルの長大な刃は3体のコボルトを叩きつぶして赤い粒子へとその姿を散らす。更に着地後に腰の回転を用いた遠心力で一気にツヴァイヘンダーを振りぬき周囲4体を上下に分断させたことにより俺を中心にポッカリとした空間が出来上がる。


「ふぅぅぅ。ゲホッ。…煙いな。調子に乗り過ぎたか。」


『マスターはいつも調子に乗り過ぎです!光線レイが当たらなかったら危なかったですよ!』


「当たったからいいんだよ。それより煙がすごいからさっさと片付けるぞ。」


『それはマスターが原因です!光よ!魔を退けよ!光球ライトスフィア!もう!油断しないでくださいマスター!』


俺が回りの敵を一掃したことにより狙いやすくなったコボルトアーチャー3体が一斉に弓矢を打ち出すが半円上のバリアが俺を中心に展開され弓矢を防ぐ。コアの光球ライトスフィアだ。コアに一言お礼を言って近くのコボルトアーチャーに向かって大剣を振り下す。近接攻撃を持たないコボルトアーチャーが倒れたのを確認しコボルトリーダーの元に駆けていく。残りのコボルトアーチャーはコアに任せておけばいいだろう。コボルトリーダーは残ったコボルト達を長剣で脅して無理矢理自分達の前に並ばせている。隊列を組んだつもりだろうが、混乱した部隊など脅威などないんでな。一気に行かせてもらう。脚部強化を解き、腕力に闘気を集中させる。コボルト達が一斉にナイフを振りかざしてくるがこちらとはリーチが違う。近づかれる前に大剣を一振りすることに数体をまとめて消滅させる。残ったコボルトがナイフを腹部に刺したが闘気に覆われた防刃ジャケットの防御を貫くことはできず、弾かれてしまう。


「やってくれたな。そら、お返しだ。」


近づかれたコボルトの頭をわしづかみして思いっきりコボルトリーダーめがけて投げつける。高速で飛んでくるコボルトをコボルトリーダーが慌てて避ける。投げられたコボルトは勢いよく壁にぶつかってそのまま動かなくなった。腕力強化した膂力は伊達ではない。


「バ、バゥゥ!」


「いつまでも後ろにいるなよな。それとも督戦だけしてれば勝てるとでも思っているのか?」


残ったコボルトをけしかけようとするが、俺に向かうことなく遠巻きに見ているだけだ。あれならそのうちまた逃げだすだろうな。コボルトアーチャーに至っては残り1体になっており、今もコアの光線レイから必死に逃げている。あれなら問題ないだろう。ツヴァイヘンダーを担いだままゆっくりとコボルトリーダーに向かう。コボルトをけしかけようと騒いでいるが回りは動かず逃げ出す個体も出始めている。


「クク、どうやら部下はお前の言うことを聞きたくないみたいだな?ならリーダーさんの力でなんとかしないとなぁ?」


「バ、バルル、バルゥゥゥゥゥゥ!」


コボルトリーダーは左右を向くがサッと目を反らすコボルト達に愕然とした後、地団駄を踏んでいる。けしかけているだけの奴が助けてもらえるとでも思っていたのか。おめでたいやつだな。コボルトリーダーは逃げられないことを知ると目を血走らせて長剣を振りかざしてきたが、剣先は遅くツヴァイヘンダーで長剣毎叩きつぶした時点で残りのコボルト達も一斉に逃げ出し戦闘は終了した。


「終わったな。コア、大丈夫か?」


『私は大丈夫ですがマスターはけがはないですか?』


「ああ、大したことないかすり傷がせいぜいだ。お前こそケガはないのか?」


『マスターが敵を全て相手にしていたので私はケガ一つないです。ですので治療が必要なのはマスターだけですので治療させて頂きます。…光よ。かの者に安らかな癒しを光癒ライトヒール……はい。終わりました。』


コアは俺のケガを心配していたが本当にかすり傷くらいなのだからわざわざ回復魔法を使うほどでもないんだがな。相変わらずの心配性なことだ。


「かすり傷程度で大げさだな。こんなもの放っとけば治ったのにな。」


『ダメです。マスターは無茶ばかりするのでこまめに傷を治さないと痛い目に合うにきまってますから。』


「ふん。それより7階層の場所は分かったから早く降りるぞ。煙がひどくてさすがにきつい。」


『はぁ…。全部マスターのせいなんですけどね…。』


コアがジト目で見てくるが効果はあったのだから文句を言われる筋合いはないと思う。ただ、バ〇サンを10個も投げつけたのはやり過ぎたとは思う。お蔭で辺りは霧でも発生したかのように真っ白だ。お蔭で目に染みてしょうがない。俺達は避難の意味も込めて慌てて階段を降りた。クロを召喚する為という理由もあるしな。


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