第43話 九条、坑道探索をする

警察に連行されたババアだが後日警察から連絡が来てのその後のことを聞いてみたところ、過去に似たような釣銭間違いで店舗を追求していることが数件あることが分かった。その時は証拠がない為、警察立ち合いの元、穏便に済ませたそうだが今回は俺のボイスレコーダーの音声を証拠として脅迫罪として逮捕したようだ。状況確認した上で詐欺罪の立証も検討しているとのことだった。俺はと言えば警察の事情聴取に思った以上に時間が取られてしまって面倒な思いをしたが被害者がこうやって拘束される理不尽さを感じたが警察はそう言ったものではあるので理解はしたが納得はできなかった。


事情聴取自体は仕事がない日を選ばせてもらったので平日をお願いしていたのが幸いしたが午前中に始めてもう14時過ぎまでになってしまっている。遅めの昼食を食べて、午後からはダンジョン攻略を再開することにした。


コアとクロを連れ、俺の部屋のクローゼットからダンジョンへと降りていく。コアと最初に出会った広間にある台座に手をつけると移動先が頭の中に浮かぶので先日影巨人--ゴーレムを倒した時に転移魔法陣が現れている部屋の前まで転移して辺りを見回す。先日ゴーレムがいたその広間には俺達だけで他にモンスターはいなかった。それにしても何度やってもこの感覚は不思議だな。まさか瞬間移動が出来る日が来るとは思いもしなかった。


「やっぱりゴーレムはいないか。時間を置けば出てくるかと思ったのに残念だな。」


『階層ボスは強力な分復活しませんからね。残念がるのはマスターくらいだと思いますよ。』


「強力とは言ってもただの的でしかないからな。いい稼ぎになると思ったが早々上手くはいかないか。」


「ピュイ。」

(ボクもビュッて飛ばしたかったのにー)


コアによると階層ボスは復活しない為、異世界ルーナリアでは一度倒せばその広間はセーフティゾーンとなるようで、ダンジョン攻略の基点とするのが一般的なようだがそれは地球のダンジョンも同じらしい。俺としては部屋から出られない巨人などただのドロップアイテムを落としてくれる的でしかないのでリポップしてくれないかと思っていたのでガッカリする。まぁリポップしないのは残念だがここと入口を瞬時に行き来できるのは有り難いのでそれでよしとするか。


ひとしきり広間の様子を確認した後、6階層に続く階段を降りていく。階段を降りた先には誰が設置したのか壁に等間隔に松明が灯されており、端には錆びたレールとトロッコが寂し気に鎮座していた。次のエリアはどうやら坑道エリアらしい。松明では完全に明るさを維持できないのでその道は薄暗く本来は不意の遭遇戦に注意しなくてはならないだろうが、こちらにはコアのスキル【探査】があるので不意打ちの心配は少ないだろう。コアに索敵をしてもらいながら進むことになりそうだ。


『随分薄暗いですね。【光魔法】で明るくします。』


「ああ、頼む。それと同時に【探査】は同時に使えるか?不意打ちには備えたいからな。」


コアは少し考えた後、自身の考えを述べた。


『同時発動は可能ですが、魔力消費が大きくなるのでずっとは無理です。大体1時間くらいで魔力が足りなくなると思います。』


1時間で魔力切れだと厳しいな。なら明かりはこちらで用意したほうがいいか。


「そうか。なら【光魔法】はなしで【探査】のみで頼む。光量はこいつで確保するさ。」


『分かりました。』


俺はそう言いながら収納の指輪を発動し、現れた亀裂に手を伸ばしそこからランタンを取り出す。このランタンはホームセンターで購入した。いくつか種類があったが一番光量が多いタイプを選んでおりその効果は薄暗い坑道を明るく染め上げていることでも良く分かる。確か明るさ270ルーメンとかで白色LEDを使っているとかで相当に強力なようだ。注意書きには絶対に光源を直視しないようにと言う少し恐怖を煽ることが書いてあった。キャンプになんぞ行かないから分からないが店員に聞いたら普通のタイプよりも何倍も明るいらしい。この坑道エリアを探索するには充分なほどに。


いつものように俺が先頭になりコアがその後ろでスキル【探査】を行いながらついていく。クロは自身では歩くスピードが遅いので俺の肩に乗っている。坑道エリアは入り組んでおり道も蛇行しているので死角も多い。今までの草原エリアや山エリアと違い、遭遇戦を警戒しツヴァイヘンダーは既に出している。大剣であるツヴァイヘンダーは狭い箇所での戦闘には不向きだが今のところ坑道は大人4,5人は並んで歩ける幅はある為問題なさそうだが、場所によっては予備の武器に変えたほうがいいだろうな。ホームセンターで山刀を補充しておいてよかった。


『マスター、敵反応がありました。この先に2体いるようです。どうやら初見のモンスターみたいですね。反応が今までと違います。』


「分かった。」


コアのスキル【探査】が敵を捉えてから暫く歩くと道の真ん中にノソノソと歩く1匹のモンスターと遭遇した。そのモンスターは今までとは違い影のモンスターではなく色を伴ったモンスターだった。つい影とは違う生々しさを感じてしまい眉間にしわが寄るのが自分でも分かった。モンスターの外見は犬が2足歩行しているような外見で全身は茶色い毛に覆われている。手にはそれぞれ錆びたナイフを持っているがこれなら影戦士のほうが強そうではある。


『敵はコボルトのようです。この奥に多数の反応があります。この2体は恐らく群れの見張りだと思われます。』


コボルトか。これまた定番モンスターだな。まぁ今まで影系のモンスターだったからというのもあるがこやって実際に想像上のモンスターを直接見るとファンタジー感がスゴイな。


「見張り、ねぇ。2足歩行の犬がいるのはそれはそれで違和感があるが、色がついているだけで随分と印象が変わるな。」


『コボルトは1体毎の強さはさほど問題ありませんがその分、群れとして生活しています。群れ全体を相手にした集団戦となるとその数は侮れません。』


「確かに数の力は侮れんからな。ならこの見張りの2匹には早々に退場してもらうか。クロ、コアの上に退避しておいてくれ。」


「ピュイ。」

(はーい。)


俺はスキル【闘気】を発動し蒼い闘気を纏った後、一気にコボルトに向かい駆ける。コボルトは一直線に向かってくる俺に慌てて錆びたナイフを向け臨戦態勢を取るがリーチが違いすぎる。走り出した勢いそのままにツヴァイヘンダーを横薙ぎに大きく振るいコボルト2匹をまとめて両断する。コボルト2匹は赤い粒子に変えるとその場に魔石を残して消滅する。


「大したことないな。」


『マスターお疲れ様でした。さすがです!』


「ピュイ!」


「この程度なら影戦士のほうがよっぽど強敵だな。さて、後はこの奥の群れか。」


『はい。数はえーっと…28体いますね。中々大きな群れのようです。一度迂回しますか?』


「そうだな。俺としてはこのまま進んでもいいとは思っているがコアはどう思う?」


コボルトごときならどうにでもなると思ってはいるが理由としてはそれだけでもない。ドロップアイテムは日々収納の指輪に貯まっているが、今後のことも考えてできるだけ多めに獲得しておきたいとは考えているという欲目もあるのは内緒にしておこう。どうせコアに呆れた目で見られるだけだしな。


『私は迂回したほうがいいとは思います。無理に戦う必要はないですし…。』


「そうか。クロはどうだ?戻るか戦うかどうする?」


「ピュイ。」

(ボク良く分からないけどマスターとコアおねーさんが一緒だからきっと大丈夫だと思うなぁ。)


「そうだな。クロは何とかなると思うか。」


『クロさんも戦うのがいいって言っているんですね…。…私が臆病なだけなんでしょうか?』


コアはまたネガティブモードに入りかけている。まぁ言っていることは間違っていないのでフォローしておくか。


「コアの言ってることももっともだと俺も思うから心配するな。俺も危険は避けられるなら避けるべきだと思う。だがさっきのコボルトの様子からしてそこまで強くはなさそうだぞ?」


『マスターの話も分かります。確かにコボルトのみであれば対処は難しいものではありません。ですが進化種であるコボルトリーダーやコボルトメイジなどがいた場合、苦戦することも考えられます。彼らは侮れませんから…。』


コア曰くコボルトリーダーはコボルトが正統進化した姿で体格も一回り高くなり身体能力も上がっているが、特に厄介なのは知性がつくので群れでの集団戦闘力が大きく上がることが挙げられるらしい。また、コボルトメイジは魔法を使ってくるようだ。魔法を使われることへの危険性はコアのスキル【光魔法】を見ていれば良く分かる。ふむ。そんな奴らがいるなら正面からでは多勢に無勢といった状況になりかねんな。


「コアの話は分かった。確かにそんなのがいれば危険だな。それなら奇襲で対処しようか。…なぁ、コボルトは犬の姿をしているくらいだから嗅覚は鋭いよな?」


コアは少し考えた後、把握しているコボルトの情報を伝えてくれた。


『コボルトに限らず獣人系のモンスターは嗅覚に優れた種族が多いです。その分視力は弱いですが、嗅覚がその他の感覚をフォローしているので姿を視認できなくても相手を把握することができます。幸いこの坑道では風がないので私達の匂いは広範囲まで広がりませんが、それでも100mくらいまで近づけば把握されるはずです。』


「そうか。やっぱり嗅覚は相当に鋭いか。」


『はい。風下にいた場合などはかなり広範囲まで匂いで位置が分かると思われますので奇襲は難しいかと…。』


なるほどな。さっきのコボルトも俺の接近スピードに驚いてはいたが、不意打ちという感じではなかった。それならば嗅覚をなんとかすれば危険は少ないか。あれなら嗅覚を鈍らせることはできそうだ。


「分かった。なら方針変更だ。コアの話も分かったし一旦出直すぞ。少し買い物をしてくる。」


『買い物…ですか?地球の技術力なら何とかなりそうですがマスター、嗅覚をどうにかできるんですか?』


コアは俺がただ引き下がるだけではないことは分かっているのでアイテムを使って切り抜けると感づいているようだな。まぁ今までもそういった対処方法は何度か使っていたから気付いて当然とも言えるがな。


「ああ。確証はないが何とかなるとは思う。とにかく一旦戻るぞ。」


『はい。マスター。』


嗅覚が鋭くて奇襲もできないならその嗅覚を潰してやればいい。

まぁ無理なら正面突破するだけだがな。コアとクロもいるし問題はないだろうが安全パイは取っておこうか。



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