第39話 コア、焦る
不意に忍さんはキッチンカーを指さして告げたことに私は驚いて固まってしまいました。
「ときに先輩さん。」
「なんだ忍。」
「あの浮かんでいる水晶玉はなんですか?」
は、はわわわわわっ!し、忍さんが私を指さしています!
私は慌ててスキル【浮遊】を切って助手席の中に戻ります!
マスターのバイトさんでもある忍さんが見たかった私はこっそりスキル【浮遊】で窓ガラスの高さまで浮かんでいました。そうしないと私には車の外を見ることができなかったからです。
マスターにも止められていたのに調子に乗った私のせいです!なんて馬鹿なことしてしまったのでしょうか。いつもそうやってマスターの足を引っ張ってばかりなのに少しも学習しない愚かな自分を罵ってやりたい気分ですが、それどころではないです。まずはこの場を何とかしなければ。私はチョコレートを食べていたクロさんに声をかけます。クロさんは見つかっていないですが、シャドースライムであるクロさんは地球の生物とは外見が異なりますので見つかったら言い訳できません。
『クロさん。私のミスでマスターのお知り合いの方に見つかってしまいました。すいませんが隠れていてもらえませんか?』
「ピュイィィ。」
クロさんは心配そうに私を見上げてくれます。ですが、私が見つかったのがいけないのですからクロさんは気にすることはありません。不安ですが、マスターもいま微動だに動かなければ外見はただの水晶玉でしかない私はやり過ごせるかもしれませんから。クロさんには大丈夫だと伝え、私は助手席の中でじっとしています。…大丈夫だといいんですが…。
「す、水晶玉?」
「はい。先輩さんの車の中で浮かんでました。こうプカプカと。」
外からマスターの声が聞こえてきましたが声が上ずっています。
マスターすいません。私がマスターの言いつけを破ったばかりに…グスッ。いえ、泣いてる場合ではありません。マスターに迷惑をかけられません。こうなってしまったのは私の責任なのですから。
「いやいや、水晶玉が浮かぶわけないだろう?」
「それが浮かんでました。私の中の厨二がこれは何かあると騒いでます。…先輩さん何か私に隠していませんか?」
「…隠し事なんてしていないさ。」
「そうですか?」
「ああ。お前に隠し事してもしょうがないだろう?」
「先輩さんに信頼されているみたいで何よりです。では先輩さんが隠し事をしていないのであれば、あれは厨二をくすぐる何かです。キッチンカーの中の水晶玉を取り出してみましょう。」
「ただの水晶玉だぞ?この前フリーマーケットで見つけてな。高く売れそうだから骨董品屋にでも持っていくところだ。な?だからそんな気にする程の物じゃないさ。」
マ、マスター。嘘だと信じていますが、もしかしてまだ私を売ることを諦めてないのではないですよね…。し、信じていいですよね?
「そうですか。骨董品屋に売る物なんですね。なら先に鑑定してみましょう。」
「いやいや、お前鑑定なんぞできないだろ?」
「フフフ。私に不可能はそれほどしかないのです。鑑定なんて簡単ですよ。」
も、もしかして忍さんはスキル【鑑定】を持っているのでしょうか?
あれは相当高等スキルだったはずです。魔素吸収がないこの世界の人が覚えているはずないのですが…。
忍さんは止めようとするマスターをするりとかわしてはキッチンカーから私を持ち上げてました。
私はピタリと動きを止めていますので逃げることはできません。クロさんが影から不安そうにしていますが、私は大丈夫ですと目線で訴えてみますが、クロさんには伝わりませんでした…。私には目がないので当然なのですがこんな時に伝えられない自分が惨めな気持ちになってしまいます。…落ち込むのは後でいいので今はこの場を切り抜けるべきですね。私は無機物を装うことに全力を注ぎました。
「お、おい。雑に扱うなよ。」
「分かりました。ではそれなりに扱います。…結構重量ありますね。」
マスターは庇ってくれましたが忍さんは軽く流して私を車から出してジッと見つめてきます。
私は水晶玉、私は水晶玉、私は水晶玉……。私は自分自身を無機物と思い込み、
微動だにしないよう気をつけます。ああっ!どうかばれませんように!
私の願いが通じたのか忍さんは小首を傾げています。
だ、大丈夫でしょうか…。
「おかしいですね。どう見てもただの水晶玉です。さっきは浮きながら動いた気がしたのですが。」
『……………………(ドキドキ)』
「条件があるのでしょうか?何かスイッチ的なものとか魔力的なものか。霊的な条件下もしれませんね。」
『……………………(ダラダラ)』
「お、おい忍。そろそろその辺で…。」
「そうですね。ではそろそろ。」
『…………………(ホッ)』
忍さんは私を降ろしてくれたので私とマスターも安心した瞬間--
忍さんは両手を振り子のようにしならせました。
「ファ〇ネル発動。えいっ。」
え、ええっ!?い、いやぁぁぁぁぁぁぁああああっ!いきなり何するのこの人ぉぉぉぉぉおおおっ!
忍さんは私を一旦降ろした瞬間、思いっきり私を空中に投げ出しました!
意外に力があるみたいな忍さんは私を空高く放り投げ、ワクワクした面持ちで私を見ています。
この人同じです!マスターと思考が同じです!何するか分かりません!
空中に放り出された私は放物線を浮かべて地上に落ちていきます。
い、いやぁぁっ!た、助けてぇぇぇぇぇえ!
「忍、何しやがる!」
「いえ、浮いていて球形ならもしかして投げればファ〇ネルが発動するかと思ったのでつい。」
「ついで思いっきり投げるなよ…。」
地上に激突する寸前、マスターが私をキャッチしてくれました。
グ、グスッ。し、心臓が止まるかと思いましたよぉ…。
叫び声が出そうになってしまいましたが、な、何とか我慢できました…。
もう色々驚き過ぎて体から何かが出そうです。
「先輩さんが持っていたものならあり得なくもないと思ったんですが。」
「ったく…。お前は一体俺の所有物にどんな想像しているんだ。」
「先輩さんならダンジョン由来のアイテムとか手に入れていたりしそうじゃないですか?」
「ダンジョンは警察が全部封鎖しているよな?だから無理に決まってるだろ?それに俺にメリットがない。」
マスターは忍さんに嘘をついて誤魔化すようです。
確かに一般的にダンジョン攻略をしている人はこの国にはいないということでしたから間違いはないはずなんですが、忍さんは小首を傾げています。は、はわわ、もしかして嘘がバレてしまったのでしょうか?
「ダンジョンが出来たんですよ?モンスターがいるんですよ?ならドロップアイテムもあって当然じゃないですか。そしてドロップアイテムなんてお金のなる木が目の前にあるのに先輩さんが何もしないはずないのです。なのでこっそりとダンジョンでドロップアイテムを手に入れてどこかで売っているのではないかと思ったのです。水晶玉はそこのドロップアイテムではないかと判断しました。」
「お、俺がそんなことするわけないだろ?そりゃ、お前の妄想だよ…。」
合ってます!ほとんど合ってますよぉぉぉぉぉぉおおおっ!
なんですかこの人!?エスパーですか?それとも全部知っててからかってるんですか!?
マスターもひきつり笑いしかできていないですが、私を持つ手がじっとりと汗を出してるのが分かります。マスター本当にこの人何も知らないんですよね!?誤魔化せるんですよね!?
私とマスターが冷汗をかいていたのと対象に涼しい顔をした忍さんはふむ。とひとしきり考えた後、口を開きました。
「そうですか。先輩さんならそれくらいやってのけていると思ったんですが私の勘違いみたいですね。」
「あ、ああ…。お前の勘違いだよ…。」
なんとか…なったんでしょうか?私にはこの人の考えが読めないので不安ですが、忍さんはもう次の話題に入っていました。た、助かりました~。生きた心地がしなかったです………。
「証明できなかったのは残念ですが、今回は…私の妄想ということにしておきます。ときに先輩さん。」
「な、なんだ忍。」
「明日の移動販売は何を売るんですか?」
「あ、ああ。明日はクレープにするつもりだ。」
「なるほど。明日はクリームプレイですね。」
「どんなプレイだそれは。…まぁいい。俺は仕込みもあるから帰るがあんまりふざけたことしてるなよ。」
「心外ですね。私はいつでも真面目ですよ。」
「なら尚更だ。とにかく道場破りはやめておけ。」
「もちろんです。道場破りは今度にします。」
「今度もというか金輪際止めとけ。あー、とにかくじゃあな。また明日よろしく頼む。」
「はい。先輩さんまた明日です。水晶玉さんはまた今度です。」
ひぃぃぃいっ!な、なんで私にまで挨拶してくるんですか?
やっぱりバレてるんですか?ど、どどどどどどうしましょうマスター!?
「ああ。というか無機物に挨拶するなよ…。」
私の動揺をよそにマスターはそそくさとその場を後にしました。が、私は見てしまいました。
車に戻る私とマスターをジーッと忍さんが見ていたことを。
本当はバレているんじゃないでしょうか……。
私はとてつもない不安感に包まれてしまいました。
『う、うぇぇぇぇん!マ、マスター怖かったです!とてもとても怖かったです!』
「ピュイ!」
私とクロさんはガクガクと震えてマスターに泣きつきます。
クロさんも怖かったようです。気持ちは良く分かります。私も冷汗が止まりませんでした。
思い出すと涙が出てきます。マスターはクロさんを拾い上げ、なだめながら呆れたように言いました。や、やっぱり勝手なことをしたから怒って当然ですよね…。
「だから言っただろう。スキル【浮遊】は使うなと。」
『で、でもでもマスターのバイトの方を見て見たかったのもあって…。あうぅ、ごめんなさい…。』
「はぁ…。大人しくしておけって言ったよな?それなのによりにもよって忍にバレるなんて…。」
『大丈夫でしょうか?そ、そのバレたりなんかは…。』
きっと大丈夫ですよね?バレたりしたりはしないですよね?
そんな私の希望はマスターにあっさりと打ち砕かれました。
「いや、あいつはお前のことに確信は持っていないが怪しんでいるのは確かだ。…はぁ。面倒な奴に気付かれた。どこまで誤魔化せるものなら。」
『どどど、どうしましょう?マスターどうしましょう!』
「まぁ悪い奴じゃないからそこは心配していないが、無駄にアクティブな奴だからな。どんな行動をしてくるやら…。はぁ。本当に面倒だ。」
『ひぇぇ…。』
私はこのマスターの言葉を後日、身をもって噛みしめることになったのはまた別のお話でした。
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