第37話 九条、町を案内する
問屋で仕入れを終えた後、キッチンカーの帰りに寄り道をすることを提案したところ俺の住んでいる町を見てみたいというコアの要望通りに各所を回ることにした。
俺が住んでいる
町内に流れる美薗川は多摩川に繋がる川でたまに多摩川の支流での環境捜査などでTVで芸能人が魚の保護とかをしているくらいらしい。
そんな
クロはともかくコアは助手席からでは見えないのでスキル【浮遊】を使って見ることは許可しておいた。走っている車内なら覗かれる心配もないしな。仮に覗かれてもその場から去ればいいだけだ。
「二人共あれが美薗駅だ。大して大きな駅ではないんだがな。」
「ピュイ!」
(人がいっぱいだねマスター!)
『これが駅ですか…。テレビでも見たことありますがこれだけの建物を建築できるなんてマスターの世界の技術を凄まじいですね。』
「魔法なんてない世界だからな。便利にするなら技術力を上げるしかないんだ。そうやって有史から2000年経ってこんな建物が建てられるようになったってわけだ。」
まぁ技術力については俺も良くは知らないが地球には戦争が起こるごとに新しい物が発明され続けた歴史がある。その結晶が現代科学となっているのは間違いないだろう。
『この技術力を積み上げるまで2000年ですか。途方もないですね。』
「そうだな。だが、お前の世界でも同じようなことはあるんじゃないか?」
『ええ。マスターの言う通りそういったことはルーナリアでもありますが、それは魔法技術の研究がほとんどですね。文明レベルで言えばマスターの世界の中世と大して変わりません…。私の世界もこのように発展できればいいのですが…。』
そう言ってコアは思い詰めたような声音で返した。生真面目なのはいいがそれはお前のせいではないだろうよ。コアの世界、異世界ルーナリアは典型的な剣と魔法の世界だというからそれも仕方ないのかもしれないがな。
「まぁ世界が違えば文明も違うのは当たり前だ。今は地球--日本にいるんだからそれを楽しめばいいんじゃないか?」
『そうですね…。分かりましたマスター。』
「ったく。お前は一々真面目すぎる。もう少し適当でいいんじゃないか?」
『うう…。でもマスターだってお金に対しては真面目を通り越して異常な執着を見せるじゃないですか。』
「異常な執着は言い過ぎじゃないか?」
『いーえ、言い過ぎではないです。そもそもマスターは出会った瞬間から私を売ろうとしましたし…。』
コアのやつまだ根にもってるのか。
いや、忘れることができない体だからトラウマがいつまでも残るのかもしれんな。
「それは前に謝ったろう?もう時効ということでいいじゃないか。そんなことよりそろそろ別のダンジョンの前も通るぞ。」
『えっ!?この近くにダンジョンがあるんですか?』
予想通り。
ダンジョン関係の情報に敏感なコアはあっさりと俺が売り払おうとした話を忘れてくれた。
「ああ、ダンジョンはここにもう一つある。市民公園の中に出来てな。公園自体が閉鎖となってしまったから中には入れないんだがな。」
『誰かダンジョン攻略はしていないんですか?』
「俺が知っている限りはないな。そもそも今は国の対策が決まっていなくて封鎖しておくというのが政府の発表だ。」
日本政府のお家芸、いや、もはやユニークスキル【先延ばし】だな。
先延ばしても解決できる問題ではないが自分以外の誰かが何とかすればいいという国民性が良く表れているとは思わないか?コアはその話を聞いて放置したことによるデメリットを考えているのだろう。少し焦ったように自身の考えを伝えてきた。
『で、でもこんな素晴らしい技術がある国なら対策を考えてくれているはずですよね!それに私の仲間がダンジョンを抑えてくれているかもしれません!』
対策を考えている、ねぇ。
恐らくコアの考えはずれているだろう。日本は戦争に負けて以来、戦闘行為ということを行わない世界でも類をみない平和主義の国となった。一応自衛隊は存在しているが、動かすには憲法改正が必要になり、それは国民感情を大きく逆なでするだろう。眞志喜さんには情報は流したが俺は一度痛い目を見た後でないと対策は取らないと睨んでいる。それだけ戦闘行為は日本ではタブーなのだ。
それにコアと同じ存在というのも今のところ確認できていないのでこちらも何とも言えない。世界中のダンジョンにどれだけのダンジョンコアが派遣されたかもコア自身も分からないと言っていたのでこちらも不確定情報に過ぎない。
だだ、それをコアに言って徒に不安にさせるのはよろしくないな。
ただでさえ、すぐに思い詰めてネガティブになるのにこれ以上不安材料を与えても仕方ない。これはコアの責任ではなく俺達日本人が選んだ選択なのだからこいつが気にする必要はない。ダンジョンコアについては分からないので何とも言えないが。
だから俺はコアの希望を含んだ叫びに対し、肯定をしておいた。
「ああ。今でも国会ではダンジョン対策を考えているだろう。何、動き始めたらあっという間にダンジョンも攻略されるさ。もちろんお前の仲間もいるだろうから何の心配もいらないだろうさ。」
『そ、そうですよね!きっと大丈夫ですよね!』
「ああ、きっとな。さぁそろそろ帰るぞ。」
『ふふ。はい!』
「クロもいつまでも食ってると晩御飯食べれなくなるぞ?」
「ピュイ!」
(うん!残りは晩御飯の後にまた食べるねー)
「結局食うのか?」
「ピュィィ?」
(うん。食後のおやつ?)
(はぁ、食いすぎて動けなくなっても知らないぞ)
「ピュイ!」
(それは気を付けるねー!)
俺はクロの食欲にため息をつきながら念話を終える。
クロは一応俺の話を聞いてチョコを袋に閉まって今はコアと楽しそうに話している。
言葉は通じないのに仲は悪くないのが良く分かる。まるで姉弟のようだな。
さっきのコアの希望はきっと叶わないだろう。だが少なくとも俺の家のダンジョンはそれまでに攻略しておきたい。これから先どうなるか分からないが、それがコアの為になるのは間違いないだろうな。そして俺にとってもコアはもう大事な身内なのだから、力にはなってやりたいとは思う。あいつには恥ずかしくてとても言えないがな。
俺はキッチンカーを自宅方面へと向け、帰路につくことにした。
駅前の市民公園を後にして美薗川をコア達に見せつつ、市街地へと入る。
と、そこでよく見た人物が何やら立派な門構えの家の前で仁王立ちしていた。
……はぁ。一体何をやっているんだかあいつは。
見てしまった以上素通りもできないので声をかけておくか。
本当に突拍子もないことしかしないやつだ。
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