第36話 九条、ドライブする
「ピュイ。」
(マスターお散歩連れてってよー。)
ダンジョンで階層ボスのゴーレムを倒して2日。
初の野営してのダンジョン攻略で疲れていた俺達は現れた転移魔法陣で一旦帰宅することにし、週末の移動販売が終わるまでダンジョン攻略は休息日としてのんびりとしていたが、1日目の夜にはクロが暇だと騒ぎだした。その日は遅かったのでまた今度という話にして強引に打ち切ったが2日目には我慢できなくなりこうして散歩をねだり続けるようになった。
「そうは言ってもな。日本にはクロみたいのはいないからな。見つかったら大事になる。残念だから諦めてくれ。」
「ピュイ。ピュイ。」
(えー。でもマスターはお出かけするんだよね?ならボクも一緒に行きたいよ。)
「俺のは仕事だ。俺は明日からの移動販売の仕入れに行くだけだからな。な?だから、大人しくコアと留守番しててくれ。すぐに帰ってくる。」
「ピュィィィ。」
(ならボクとコアおねーさんも一緒に行くよ。静かにしてるからいいでしょ?)
静かにしてるって言ってもな。
日本ではまだダンジョンが封鎖されているが海外からの情報でモンスターの存在は知られつつあるわけなのにそこに浮かぶ水晶玉と喋る黒ゼリーがいたらパニックになるのは想像に難くない。クロはどうしてもついてきたいみたいだが、どうやって留守番をさせるか考えているとコアがおずおずと声をかけてきた。
『あの、マスターちょっといいですか?』
「どうしたコア?もしかしてお前も行きたいのか?」
『私もテレビの映像ではなくて実際のこの世界を見てみたいとうのもありますけど、マスターにご迷惑をかけたくないとも思ってますし……、でもでも、やっぱりルーナリアと違う世界も見たい気もして…ああ、そうじゃなくて、クロさんは外見はモンスターとは見られにくいのでじっとしてれば大丈夫だとは思います。それにわ、私も…。』
なんだかんだ言っているがお前も一緒に行きたいんだな?
コアはチラッ、チラッとこちらを伺いながらもクロを連れて行っても大丈夫ではないかと言っているがその会話には自分もという要望が多分に含まれていた。
「…はぁ、仕方ない。じゃあ散歩は無理だがキッチンカーの中でドライブでいいか?その代り、人のいるところでは静かにしていること。特にコア。お前は絶対にスキル【浮遊】は使うなよ。」
「ピュイ!」
(やったー!マスター大好き!)
「わっ、こらクロ、顔にくっつくな!」
「ピュイ!」
(えへ、ごめんなさーい!)
『あ、あの。私もいいんですか?別に行きたいわけではないんですけど、でもマスターが来いって言うなら行ってもいいとは……ブツブツ。』
ったく。行きたいなら素直に言えっての。
「コア。行きたいのか行きたくないのか?どっちだ?」
『えっと…その…い、行きたいです…。』
「最初から素直に言え。クロは遠慮しなさすぎだがお前は要求しなさすぎだ。」
『うう、すみません…。』
思えばコアはダンジョンが発生してから1か月弱、ダンジョンと俺の部屋しか往復していない。せっかく別世界に来たのだから外を見てみたいと思うのは当然か。俺ならストレスでどうにかなっていてもおかしくはないな。気付かせてくれたクロには感謝しないといけないかもな。
「なら、早速出かけるぞ。大人しくしとけよ。」
「ピュイ!」
『えへへ…はい!』
そうしてクロとコアは初めて日本の街並みを見に行くこととなった。
俺?俺はただの仕入れだ。それと保護者としての付き添いと言ったところか。
やれやれ手のかかる子供でもできた気分だな。
…まぁ、そんなに悪い気分でもないな。
「おやじさん、今回はこのフルーツとホイップクリーム。それとチョコチップとこのお徳用チョコブロックもお願いします。」
「まいどあり。たまには忍ちゃんも連れてきな。」
「ええ。そのうち連れてきますよ。」
俺は問屋のおやじさんから明日の仕入れ用の品を購入してキッチンカーに戻った。
会う度に忍はどうしたと聞かれるのでそろそろ仕入れの時に連れてくるのもいいかもしれないと思い、車に戻る。後部ドアを開けて明日使う材料を冷蔵庫に入れ、ドアを開けるとそこには興奮しきった水晶玉と黒ゼリーが所狭しと動き回っていた。
「おい。見つかるからそんなに動くなと言ったろ?」
『あ、マスターすみません。で、でもスゴイですよこれは!こんな大きな建物の中に一杯食べ物が置いてあります!私の世界では考えられませんよ!ここは町で一番のお店なんですか?』
「普通の店よりかは大きいかもしれんが問屋としては普通の大きさだな。それに駅のほうにいけばデパートのほうが色々あるぞ。コアもテレビでも見ただろう?」
『デパ地下スイーツというやつですね。お昼のワイドショーでやってました!』
「まぁそんなものだ。」
コアが興奮気味な問いかけを訂正しながら答える。
暇な時間はテレビを見ることも多いコアは情報だけならこの世界のことを把握し出しているが実際に見るのとは違うのだろう。完全におのぼりさんになっている。
おやじさんには悪いが東京の片田舎の問屋ではさすがに町一番にはならないだろう。
それに一般人の販売はしていない店だしな。
「ピュイ!ピュイ!」
(食べ物がいっぱいだよー!ボク食べきれるかなぁ?)
(クロ。あれは売り物だから食べるのはダメだぞ。お土産やるからそれを食べとけ。)
(そっかぁ。でもマスターのお土産美味しいよ!とっても甘いや!)
(それはチョコってやつだ。全部食べていいからな。)
「ピュイ!」
(わーいやったー!いただきまーす!)
クロにはお土産に買ったお徳用チョコレート(1kg)をプレゼントしておく。
早速袋ごと体に取り込み始めているがクロの体より大きいので暫くは大人しくしてくれるだろうが、クロの食欲は相当旺盛なので食べきるのは時間の問題だろう。
俺はキッチンカーのエンジンを入れ、問屋から少し離れたところで止まる。
おやじさんと言えどさすがにこの二人を見せるわけにはいかないからな。
「さて、コア、クロ。お前たちはどこを見てみたい?」
一応、俺の用は終わったわけだしドライブでいいなら行きたいところに連れてやっても問題ない。ならこいつらの希望通り案内してやろうと思ったわけだ。
「ピュイ。」
(うーんとボクはマスターとコアおねーさんと一緒ならどこでもいいよ。)
「本当にそれでいいのか?」
「ピュイ。」
(うん。ボクは外は初めてだから。)
クロはずっとダンジョンの草原エリアにいたから外のことなんて知らないから行きたいところも分からなくても仕方ないか。これからは暇があれば連れ出してやるのもいいかもしれないな。
コアは念話が使えないので話の内容が分からないからクロの話を伝えてやるか。と思っていたらコアから先に質問があった。
『あの、クロさんはなんて言っているんですか?』
「俺とコアに任せるってさ。で、コアはどうしたい?」
『そうですね。私はマスターが住んでいる町が見てみたいです。』
「俺が住んでる町、ねぇ。大して見る物はないぞ?」
『それでもマスターの世界がどういう世界かが分かりますから。』
そう言ってコアはピカリと体を光らせた。
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