第33話 九条、山の中腹を探索する

『マスターおはようございます。』


「ピュイ。」

(おはよーマスター。)


「二人共起きたか。おはよう。外は相変わらずの快晴だぞ。」


参道で洞窟を発見した後、俺達は洞窟の入口を野営場所として使うことにした。夜も遅かったので交代で仮眠をしようということになり最初に俺が次にコアとクロが仮眠をし、今はもう昼だ。もぞもぞと起き出した二人に挨拶をし俺自身も長時間同じ姿勢でいた為に凝り固まった体を伸びをしてほぐす。初めて見張りというものをしたが随分と疲れるものだ。周囲を警戒しながらなのが原因かもしれないな。


『ダンジョンの中では常識が通用しませんからね。下層に近づくほど非常識な風景になると思います。』


「それもダンジョンコアとしての知識か?前から思っていたがそれだけの情報をよく覚えていられるな。」


『私は女神ルアリア様に造られた存在ですから。何と言ったらいいのでしょうか。ゴーレム種と近い存在なので忘れるということがないんですよ。』


どうやらコアは絶対記憶能力者でもあったらしい。

それならば問いかけに対して正確な答えが代えってくるのも納得だ。常にデータベースを見ながら回答しているようなものだ。それだけの能力があってなぜネガティブになるんだろうか。

そんなコアの話を聞きながら朝食の準備を始める。せめて食事くらい取らないと体力的にもキツイ。

収納の指輪からフライパンと小さな鍋、野外用のコンロと着火剤を取り出してセットする。


(クロ、これから飯にするが嫌いな食べ物はあるか?)


(ボクなんでも食べられるから大丈夫だよ。)


(そうか。クロは偉いな。じゃあ簡単にホットドックでいいか?)


(うん!)


クロにメニューを伝えて朝食を手早く作る。コアは残念ながら食事ができないので用意するのは俺とクロの二人分だ。いつかコアにも食事ができるようになればいいとは思うが種族的に難しいだろうな。


着火剤に火をつけてフライパンを熱する。

十分に火が通ったらサラダ油を引いてソーセージを表面がパリパリになるまでしっかりと熱を通す。焼き加減は個人の好みもあるだろうが俺は焦げる一歩手前まで表面がパリッとしているのが好きだから今回も焦がさないよう注意して限界まで火を通す。十分に火が通ったらコンロから外し鍋に水を張ってこちらも熱しておく。熱湯になる間にホットドックのパンを用意して真ん中に斬りこみを入れる。そこにマスタード、ケチャップ、ピクルスを入れその上にチェダーチーズを乗せ最後に主役のソーセージを乗せてチーズホットドックの完成だ。そして火にかけられ熱湯になった鍋にスープの素を入れたコンソメスープをコップに注いだら朝食の完成だ。


「クロ、できたぞ。器は食うなよ?」


「ピュイ!」

(うん。スッゴイ美味しそうだね!マスター食べていい?)


「ああ、あんまり慌てるなよ。慌てても誰も取らないからな。」


(うわぁー!マスター、パリパリしててピリッてしてとっても美味しいよ!)


クロは待ちきれないようでホットドックとコンソメスープを目の前に置くと勢い良く食べ始める。体全体が口みたいなものなので吸収しているようなものだが喜んでもらえたようで作った側としても嬉しいもんだ。


「コア、いつもすまないな。コアも食事ができればいいんだが。」


『気にしないでくださいマスター。私は魔素が吸収できれば活動できますから。』


そう言って寂しそうに笑うコアを見て申し訳なく思うと同時に未だ出会ったことがない女神とやらに憤りを感じるがどうにもならないだろうな。いつまでも気にしていてもコアに返って悪いのでこの場は割り切って俺も会話を続けながらであるが食事を始めた。


「モグモグ…。コアこの後なんだが、お前は洞窟の中と山登りどちらがいいと思う?」


『マスターお行儀が悪いですよ。』


「こんな外の食事に行儀もくそもあるか。で、どう思う?」


『マスターは相変わらずですね。…そうですね。どちらかが正解かと言われると恐らく山の頂上だと思いますが、この洞窟も何かある可能性はあると思います。ですが、この前の罠のこともありますので避けたほうがいいと思います。』


「ほう、何かある、ねぇ。じゃあ決まりだな。コア、クロ。飯が終わったら洞窟探検だ。」


(わーい!探検探検!)


『だからマスター洞窟は危険ですよ!何がいるか分かりません!』


「だが、宝箱がある可能性もあるわけだろう?ならば選択肢は一つしかないな。」


『マスター……はぁ、分かりました。その代り危険があったらすぐに逃げますからね。あの時のようなことはこりごりです。』


(たんっけん!たんっけん!)


コアはいつもの心配性を発動させ対極的にクロはノリノリだ。俺?俺はもちろん決まってるさ。


「よし話は決まったな。飯が終わったら洞窟探検だ。」







「はぁぁっ!」


「グォォ……。」


ツヴァイヘンダーを影熊の喉元に突き刺し全体重をかけて貫く。赤い粒子がまるで血のように飛び出し影熊がビクビクと痙攣して倒れる。数分すると完全に息絶えた影熊がその体を魔素に変えて消滅した。後に残ったのは両手で抱える程の大きさの無属性魔石だった。無属性だがこれだけ大きければ魔力を込めれば光源としてきっと大きく役に立つだろう。これも収納の指輪に入れておいて眞志喜さんに買い取ってもらうつもりだ。


「どうやらここは影熊の巣みたいだな。」


『そうみたいですね。宝箱とかは今のところないみたいですし引き返しませんか?』


「もう少し進んでみてからな。奥にあるかもしれないだろ。」


『もう、マスターは自分の命と宝物どちらが大切なんですか?』


「もちろん両方だ。」


『……はぁ。』


俺はコアの呆れを含んだ質問にニヤリと笑いながら答えるとコアはため息で返事をしてくれた。

俺はおかしなことを言ってはいないと思うがな。普通、命と金なら両方取るだろ。


洞窟は1階層2階層のような光苔はない。既に入口からの日の光は届かない為、現在はコアがスキル【光魔法】を応用して光球を浮かばせてくれている。コアに聞いたところ光線レイの応用だと言っていた。道は何度か分かれていたのでその度にどちらもある程度探索してより深い道を選んで奥に進む。すると前方に光が見えた。どうやら洞窟の出口のようだな。


(マスターあれ、出口かな?)


「さぁな。まぁ行ってみれば分かるさ。」


『マスター、クロさんはなんて?』


「出口かな?だってさ。とにかく行ってみるぞ。」


『はい。よかった…。やっと出られるんですね。』


(ボクとっても面白かったよ!)


それぞれの感想を口にしながら外の光に向かって歩き出す。

そこまでの距離はないようで10分程で洞窟の出口に到達する。

途端に眩しくなる日の光に目を細めながら辺りを見渡してみるとどうやら山の反対側に出たことが分かる。いつの間にか登っていたのだろう。入る時も高い景色に足元が浮きかける。


『どうやら私達は山の中を登っていたみたいですね。』


「そのようだな。宝があると思ったんだが無駄骨だったか。」


『ふふ。そうでもありませんよ。見て下さい。山の頂上はすぐそこですよ。』


「ピュイ!ピュイ!」

(ホントだ!あんなに遠かったのにスゴイスゴイ!)


「…まぁ結果オーライということにしとくか。」


俺は頭を掻きながらぶっきらぼうに答えた。

なんだか張り切っていたのが馬鹿みたいで恥ずかしいだけだ。

気にするな。


少し休憩を取った後、俺達は山頂に向かって登り出した。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る