第32話 九条、山登りをする
3階層の草原で新たに仲間にして従魔のクロを加えた俺達はあれから2時間程かけて草原の突き当り--4階層の階段を降りて次のフロアに到達したのは日付が変わる直前だった。このまま帰るには距離がある為、休憩を取れる場所を探して野宿をするつもりだったが、4階層はフロアに山が一つすっぽりと入っており、ここを登るしかないようだった。山の標高は分からないが雲がかかるようなものでないからそこまでの高さでもないのだろう。俺とコア、そしてクロは休憩できるところを探しながら山を登っていくことにしたというわけだ。この山は所謂ハゲ山といった状態で参道らしきものはあるが回りに木々はまばらにしかない為迷うこともないとは思う。何せ参道を通ればいいわけだからな。迷うはずもない。
「草原を降りたら今度は山か。草原といい、山といいこのダンジョンは俺達にハイキングでもさせたいのか?」
『そんなわけはないと思いますよ。恐らく動物系や昆虫系の知識が反映されているんじゃないですか?さっきから出てくるモンスターはそんなものばかりですし。』
「ピュイ。」
(僕は分からないや。)
言われてみると確かに3階層からは動物系や昆虫系のモンスターばかりで影人間や影戦士と言った人型タイプのモンスターは全く出現していない。コアの言うことが正解かもな。
「確かにそうかもな。でもそうなるとクロはあそこにいたのは不思議というか種族として草原にいるものなのか?」
『私の世界ではスライムはスライム属という単体種族扱いでしたし出現場所もスライム属は種族も多くて草原にいても不思議ではないです。』
クロはシャドースライムという闇属性のスライムらしい。
らしいというのはクロ自身も知らないとのこと種族はステータスを見て知ったことだ。
本人はいつの間にかあの草原にいて一匹で毎日何もせずに草原を歩き回っていたということだ。
そこに俺とコアが現れ、興味を持ったとのことだった。
「クロは何も覚えていないんだよな?」
(うん。ボク気が付いたら草原にいて回りの人達もボクをいじめようとするから怖くて寂しくてずっと一人でお散歩してたよ。だからマスターとコアおねーさんが一緒にいてくれてボクとっても嬉しいんだっ。)
(ああ、そうだな。俺もコアもお前といれて楽しいよ。)
(うんっ。僕も楽しいよ!)
クロは素直な奴だな。というか幼いというべきか悪意が全くない姿は俺には新鮮だ。思えばコアも俺には素直な感情を表してくるがネガティブモードは隠してくれてもいいんじゃないかと思う。
参道を登りながらのんびりと3人で話しているが警戒していないわけではない。コアのスキル【探査】で周辺を調べてもらっているので不意の遭遇戦というのはほとんどない。モンスターが【探査】の範囲に入ればコアが報告をしてくれる。今みたいにな。
『マスター、モンスターの反応がありました。数は1体ですが反応が大きいです。』
「よし、いつも通り俺が前衛、コアが後衛だ。クロは…どうするか。」
「ピュイ!」
(マスターボク頑張るよ!)
(クロは何ができるんだ?)
「ピュイ?」
(うーんと、溶かしちゃうこと?離れたところからピュッて飛ばせるよ!)
スライムらしい特技だな。
ならコアと一緒にいてもらうか。
「じゃあクロはコアと一緒に後衛だ。無理はしないでいいから隙があれば攻撃してくれ。コア、クロを頼む。」
『はい!お任せください!』
「ピュイ!」
(うん!ボクやっちゃうね!)
俺は二人の頼りになる返事を聞きながら収納の指輪からツヴァイヘンダーを取り出す。
モンスターの反応は上の方からするようだ。3人はそれぞれ警戒しながら参道を登っていく。参道は土を踏み固められた道で移動するのも大して阻害されないので戦闘できないという状況は避けられそうだ。暫く参道を登ると敵の姿が見えてきた。どうやら敵は影熊のようだ。真っ黒い体に太い腕。ツキノワグマみたいだがそれが体毛ではなく体自体が黒いようで目と口だけが赤く光っている。口からは涎がボトボトと垂れており、俺達を餌とでも認識したみたいだな。
「グァァァァアアアッ!」
「来るぞ!気をつけろよ!」
『はいっ!』
「ピュイ!」
影熊が立ち上がり、両手を広げ威嚇の態勢を取る。ビリビリと空気を震わせた叫びにすくまないようスキル【闘気】を発動させる。蒼い闘気が全身を覆い影熊の威嚇を和らげてくれる。影熊が四肢を地面につけこちらに向かい半円状にゆっくり回りながら近づいてくる。初手はコアからだった。
『光よ。闇を打ち払え!
「グォォォォオオッ!」
『えっ!?まさか効いてない!?』
「下がれコア!」
コアの
『光よ。魔を退けよ。
「大丈夫だ!気をつけろこいつの力は凄まじいぞ!近づくなよ!」
『はい!』
「ピュイ!」
コアの
「グガァァアアッ!」
刀身1.5メートル、4kgの重量を持ったツヴァイヘンダーの一撃は影熊の腕に深い切り傷を負わしそこから赤い粒子が舞っているが致命傷とはいかなかったようだ。影熊は接近した俺を逆襲すべく素早く立ち上がるがそこにコアから放たれた
「中々に強かったな。」
『はい。まさか
「ピュイ。」
(ボクも怖かったよ。)
「熊ってのは筋肉密度が凄まじいからな。今までのモンスターより頑丈なのは仕方ない。俺も一撃で倒せなかったしな。それに二人のフォローがあったから無傷で勝てたわけだ。特にコアの
『そ、そんな私なんて大して役に立ってないですし…。』
「ピュイ!ピュイ!」
(コアおねーさんすごかったよ!こうバシュバシュッてピカピカの攻撃がクマさんに当たってたもん!)
「ほら、クロもコアがすごかったって言ってるぞ。」
『本当ですか…。え、えへへ…なんだか嬉しいです。』
「さぁ話はここまでだ。二人共まだ山の途中だから休めるところを探しながら行くぞ。さすがに徹夜は勘弁だ。」
『はい!』
「ピュイ!」
参道の登り道を再び歩き出す。山頂はまだまだ先だが大体中腹くらいまできただろうか。そこまでにも複数のモンスターに襲われている。特に厄介なのは鳥型のモンスターだ。見た目はカラスのように真っ黒であまり大きな個体ではない。雷鳥とかトンビとかその程度の大きさだ。だが、こいつらは風の魔法を使ってくる上にに決してこちらには近づかないので厄介極まりない。離れたところから風の弾丸や刃を放っており、こちらは防ぐだけしかできない状況だった。俺のスリングショットでは射程が届かず長距離攻撃を持つコアが
『えへへ…。マスターありがとうございます。』
「ピュイ!」
(マスターボクもボクも!)
コアは抱えられていることにより終始ご機嫌だ。クロも俺の肩に止まって嬉しそうにしている。こいつらは魔力が少ないからやっているのを理解しているのか?
「今は頑張ってくれたから仕方ないが魔力が戻ったら自分で移動しろよ。」
『うふふ…はい。分かりました。マスターは照れ屋なんですね。』
「はぁ、本当に分かってるのか?」
「ピュイ!ピュイ!」
(あっマスター、コアおねーさん!洞窟があるよ!)
ご機嫌なコアはそのままにしてクロが見つけてくれた場所を見てみると確かに山の中腹にポッカリと口を開いた洞窟があった。取りあえずあそこで休憩ができそうだ。
俺は足に力を入れコアとクロを抱えながら洞窟に向かって歩きだした。
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