第19話 九条、2階層を再度攻略する
2階層で影戦士に苦戦した俺とコアはまだ時期尚早だと判断し、力を付ける為に1階層で影人間を狩り続けることにして今日でそろそろ3週間が経つ。
移動販売の仕事は忍も夏休みでバイトに入ってくれているので先日のスーパー、ホームセンターと各地でかき氷の販売を行っていった。ちなみに轟から祭りでのやきそば勝負の話は進展していない。どうやら日比谷会の会長にアッサリと断られたみたいでまだ粘っているみたいだ。売上が増えるのは歓迎するが、面倒なのは確実なのでこのまま話がなくなればいいなとは考えていたりする。
ダンジョンは仕事が終わり帰宅後に1時間は入るようにしており、毎日狩りをするようになったので今日まででレベルは5まで上がった。身体能力も強化され、筋力、脚力は既に下手なスポーツマンよりあるだろう。外見が変わらなかったのはホッとしている。ガチムチにはなりたくないからな。
「そろそろ2階層を再度攻略したいと思う。」
『はい。レベルも上がったので身体能力も強化されたのでマスターも大丈夫だとは思います。私はまだ魔法を覚えてないのでお役には立てないのですが…。』
コアは最近思い詰めていて自分が役立たずであると思い込んでいる。
いや、ある意味戦闘面については仕方ないと思うのだが効率よく敵を狩ることができるのもコアのお蔭であるのは紛れもない事実だ。スキル【探査】はかなり有効な能力で敵の居場所が分かるだけでなく、不意打ちも防げるのも大いに頼らせてもらっているがコアはそれでは納得していないようだ。こればかりは本人の気持ちの問題だから何とも言えないな。俺にできるのはコアに自信を持ってもらうように魔法スキルを覚える為の練習に付き合うくらいしかできない。やる気はあるので時間がかかってもいいので気長にやって欲しいと思う。
「影人間で狩りをするのもいいが正直飽きてきたしな。」
金にはなるが単純作業すぎる。
『マスター最近戦闘狂みたいな時がありますよね。』
思えば影戦士との闘いは面白かった。ギリギリの緊張感の中、勝利した感覚は体験したものしか分からないだろう。だが戦闘狂はおかしい。俺はそこまでいってないと思うぞ。基本、危険は避けたい人種であるとは自覚はしている。
「戦闘狂は言い過ぎだろう。そこまでじゃないと思うが。」
『マスターは気付かれていないみたいですが、影人間と戦ってる時、よく嗤ってますよ。ええ、それはもう凄惨に。少し怖かったりします。』
「む。そうか。気付かなかったな。気をつけよう。」
そんなことを話しながら1階層の階段を降りて2階層へ到達する。
久しぶりの2階層は依然と変わらずただの洞窟だ。
暫く進むと前回戦闘をした広場に出るはずだ。
まずはそこまで行ってみるか。
光苔の淡い光に照らされる通路を進むこと暫く。
後ろからスキル【浮遊】でついてきているコアから声がかかる。
『マスター。敵反応があります。数は1。影人間の反応ではないので恐らく影戦士ではないかと思います。』
「分かった。コアは下がってくれ。」
見ると通路の先には影戦士の姿が。
前回と同じく右手には影戦士の体と同じく漆黒の剣が握られている。
「ギィィィィッ!」
影戦士が赤い口腔を見せ、叫びながらこちらに向けて走り寄ってくる。が前回感じたほどではないな。
これなら対処はできる。
こちらに到達した影戦士が剣を振り下すがそれは悪手だ。
俺は右手に持ったメイスで攻撃を防ぐ。甲高い音が洞窟の中に響き渡る。
「死ね。」
「ギァァァ…」
メイスで防がれ隙をさらしている影戦士の首元に左手で持った山刀を突きさす。
影戦士は苦悶の声を上げながら赤い粒子に姿を変える。足元には黒い魔石が転がっていた。
「ふぅ。」
『マスターお疲れ様です。』
「ああ。前回は苦戦したが1体だけなら大したことはないな。これならもう少し探索しても問題ないだろう。」
そう言ってから足元にある魔石を拾う。
この魔石だが、眞志喜さんに話したところサンプルとしていくつか欲しいと言われている。
鉱石として価値があれば適正な値段で買取りしたいとのことだったので状況によっては影人間などよりよほど稼げるはずだ。
『どうやら無属性の魔石みたいですね。』
「ああ。出来るだけ回収するぞ。高値で売れるかもしれんからな。」
またお金ですか…とコアは呟くがそれは仕方ない。
俺は借金を返すというミッションが強制的に発動しているのだ。
『マスター。前方から敵2。影人間と影戦士です。』
「あいよ。」
前回到達した通路の先での戦闘でも特に大きな問題は起きなかったので広場を中心とした探索を始めた。
モンスターは同時に出ると言っても影人間と影戦士のセットだったので特に大きな問題もなく対処できた。今回も影戦士を片付け、足の遅い影人間を処理する。この程度なら慣れたもんだ。
今日も仕事終わりにダンジョン2階広場を中心に探索をしている。広場は左右に道が分かれており、左側は既に探索済みで階段はなかったので今日は右の通路を探索する予定だ。
いつもの広場を右に曲がる。
曲がった先の通路も代り映えなく光苔の光に照らされているので歩くのに支障はない。
それにコアのスキル【探査】で敵を把握できるので楽なもんだ。
それがいけなかったのだろう。警戒心が下がっていたとしか思えない。
『マスター。分かれ道ですね。どうしますか?』
「ああ。どこに行っても大して変わらんだろ。取りあえず右の通路に行ってみるか。」
階段が見つかればよし。見つからなかったらもう一つの通路を探索すればいいだけだ。
そのまま通路を探索すると今までダンジョンでは見つからなかった人工物が見えてきた。
「扉か…。」
『扉ですね…。』
洞窟の地肌に直接木製の扉がついている。
そういえばダンジョンでこんな人工的な物が見つかるなんて始めてだな。
「コア。敵はいるか?」
『待って下さい………どうやらいないようです。』
コアのスキル【探査】でも異常は見つからなかったので不意打ちの心配も消えたことだし中に入ってみるか。木製のドアが軋みを上げて開いていく。どうやら鍵はかかっていないみたいだな。面倒がなくて何よりだ。中はそれなりに広い部屋で中央にはポツンと箱が置かれている。これまた今までもなかったものだが、俺はそれが何か知っている。いや、ゲームの常識と照らし合わせてというのが正しいだろう。なぜならその箱は
「宝箱か。」
『宝箱ですね。どうしますか?』
そう宝箱。トレジャーだ。つまり金目の物である可能性が高いということだ。だからテンションが上がる俺は悪くない。
「よし開けよう。すぐ開けよう。絶対開けよう。」
『あ、あのマスター落ち着いてください。なぜそんなに手をワキワキとさせているのですか?』
それは愚問だぞコア。
「目の前にある宝にテンションが上がらない人間がいようか。いやいるはずがない。だから今すぐ、そう今すぐにも開けるのだ。」
『ああ…、マスターの目がお金マークに変わっています…。』
そう言うことだから早速宝箱を開けようではないか。
宝箱に手をかけて開けてみる。一応警戒したが罠とかはないみたいだな。
そして箱の中には一つの指輪が入っていた。
指輪は金属製で淵の部分には謎の文字が刻まれている。
少し読んでみようとしたが全く分からなかった。
コアの世界の物かもしれんな。
「コア。これは?」
『恐らくは魔導具かと。内容は…っ!マスター!敵多数!来ます!場所は…えっ?てっ敵はこの回りに既にいます!罠です!』
コアの叫び声がダンジョンの広間に響き渡る。
敵はいない。そう思っていたがどうやらそれは間違いだったようだ。
地面から染み出るように影が盛り上がり、人の形をした者が現れる。影人間だ。それが約50体程の大群で俺達を取り囲んでいる。
「ちっ。コア殲滅するぞ。下がってろ。」
『待って下さいマスター!まだ来ます!っ!この反応は影戦士です!数は4体!通路の奥からやってきます!このままでは出口を塞がれてしまいます!』
「…やってくれる。」
どうやら俺達はまんまと罠に嵌ってしまってしまったらしい。
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