第18話 忍、アキバに行く
「忍レッド!」
「こ、小姫ピンク!」
「二人揃って」
「「マジカルJKウイッチーズ!」」
私と小姫ちゃんが両手をハートマークにしてそれぞれ片足を上げてハイポーズ。
予想以上に可愛くできて私は満足です。
「忍ちゃん言われた通りやったけど、これなんの意味があるの?」
「なんとなくです。強いて言うなら小姫ちゃんの萌えポーズが見たいからです。」
小姫ちゃんは可愛いんです。小動物系で庇護欲をガンガン刺激されるのです。
だから私は悪くない。
小姫ちゃんまた頭を抱えてますね。どうしたんでしょう?
「忍ちゃんのノリが時々分からないよぉ。」
「時々なら大丈夫です。お母さんには全く分からないと言われてますので時々で十分理解できています。」
「お母さんにすら理解されないんだね忍ちゃん。」
そんな切なそうに見ないでください。基本的には親子仲はいいんですよ?
ただノリが意味不明と言われるだけですので。
「そんなことはどうでもいいですが、」
「どうでもいいんだ……。」
「魔法は上手くいかなったので練習してますが何か足りない物があると思いませんか?」
「忍ちゃん…まだ諦めてなかったんだ…。」
翌日--結局小姫ちゃんと一日魔法は試してみましたができませんでした。
ですが、ダンジョンが出来たなら魔法もあり得そうですからねきちんと練習してます。
小姫ちゃんは呆れたようにため息をつきますが少し成果が出てるんですよ?
最近は何か感じるような気がしてきました。気のせいかもしれませんが。
「諦めたらそこで試合終了ですから。」
小姫ちゃんがジト目をしています。珍しいこともありますね。
そんな小姫ちゃんが私に声をかけてきました。
「忍ちゃん。」
「はい。なんですか小姫ちゃん。」
「それが言いたかっただけなんじゃない?」
「否定はしません。」
そんな私の回答に小姫ちゃんは盛大にそれは盛大にため息を吐いてくれました。
いちいちリアクションをしてくれる小姫ちゃんが私は大好きです。
さすが自慢の親友ですね。
「それで足りない物ってなに?」
「小姫ちゃん。よくぞ聞いてくれました。魔法少女に足りない物--そう、それは武器です!」
「うわぁ。また物騒なところを言い出したね忍ちゃん。」
「古今東西魔法少女には代表される武器があります。それはカードだったり杖だったり、弓矢だったり、現代兵器もあります。ですが、私達にはそんな武器は持っていません。ならば買いにいけばいいじゃない、というわけです。分かりましたか?」
「うん。全く分からないよ忍ちゃん。」
小姫ちゃんには難しすぎたでしょうか?魔法少女に武器。は様式美だと思うのですが、はっ!もしや小姫ちゃんは武器を使わない魔法少女スタイルでしょうか!小姫流武術の使い手で数々の奥義を持って襲い来るモンスターをちぎっては投げ、ちぎっては投げ…はないですね。
さすがに妄想が暴走しすぎました。反省しなければ。
「とにかく自衛はできるようになったほうがいいと思います。学校の近くにもダンジョンはあるわけですし。」
私達が通う私立宝生学園は駅の近くの比較的立地のいい場所にあるのですが、地震の後、駅前の市民公園にダンジョンができて立ち入り禁止となっています。
現在は警察の方が公園を封鎖しているので中の様子は分かりませんが、TVではモンスターがダンジョンから出ていないので大丈夫だと言われていますがこれからもモンスターが出てこないとも限らないと私は考えています。その時、小姫ちゃんや私の家族、そして先輩さんくらいは守りたいじゃないですか。数少ない私の大切な人達です。でも先輩さんは大丈夫でしょうね。あの人は心が強いですから、大抵のことは乗り切れる。そう信じています。というわけで私は護身用でもいいので何か用意しておいたほうがいいと思うのです。
「確かに学校の近くにそんなのがあるのは怖いかなぁ。警察の人もいっぱいいてピリピリしてるよね。」
「モンスターが今まで出てこなかったといってもこれからもそうだとは限りません。ですので魔法少女になれなくても護身用に武器は用意していたほうがいいと思います。」
「うーん。私は武器なんて持ちたくはないけど、忍ちゃんが必要だって言うなら考えてみるよ。それで、どこに武器を買いに行くの?駅前のデパートとかにあったかなぁ?」
残念ながら日本のデパートには武器はありません。
小姫ちゃんは意外と天然なのですよ。
だから私は目的地を教えてあげます。
「駅前に武器屋さんはありませんよ。ですが秋葉原に武器屋さんがあります。」
そして次の日--
学校帰りに秋葉原を訪れた私達は目的のお店にたどり着きました。
看板には【古今戦術武器商店】と看板が飾られています。
お店は2Fにあるようで小さな階段が脇にあります。
「忍ちゃんここだね。」
「小姫ちゃん行きましょう。」
小姫ちゃんと共に階段を昇り、店のドアを開けると私のようなオタク少女には垂涎の光景が広がっていました。見渡す限りの武器、防具が多数展示されています。この【古今戦術武器商店】はオタクにとってはある意味とても有名なお店です。何しろリアルにいながら武器屋に入れるのですからこれで興奮しないオタクがいるでしょうか。いや、いるわけがないでしょう。小姫ちゃんも陳列されたアイテムにただただ圧倒されているようでふぁーと声を上げています。驚いた姿も可愛いです。やめてください。お持ち帰りしたくなるじゃないですか。
「し、忍ちゃんスゴイね!こんなにいっぱいの武器なんて私初めて見たよ!」
「大抵の武器は模造品なんですが、このお店は護身用も扱ってますからね。痴漢撃退スプレーとかもありますよ。」
「へぇー色々あるんだね!」
小姫ちゃんはキョロキョロと武器を見て回ります。
その間に私も武器を探しましょうか。
魔法少女(仮)として恥ずかしくない武器にしましょう。
まずは刀コーナーです。
なんと長曽禰虎徹がありました!
ゲームで何度もお世話になった名刀です。というわけで早速抜いてみたいと思います。
おお、刃文がキレイです!史実では確か新選組局長の近藤勇は虎徹の持ち主だったそうです。私も「今宵の虎徹は血に飢えています。」と言ってみたいです!
決めました。
「小姫ちゃん。決めました。私は長曽禰虎徹にします。」
「忍ちゃんそれ刀だよね。刃物を買っても大丈夫なの?」
多分大丈夫でしょう。こうやって展示してあるわけですし、きっと買えるでしょう。
とは言ったものの少し不安になったのでお店の方に聞いてみましょうか。
ちょうどすぐそこに一人います。
「そうですね。聞いてみましょう。……すいません。いいですか?」
「はい。なんでしょうか?」
「あの、この長曽禰虎徹ですが買えますか?」
店員さんは私達の姿を見てすまなそうに眦を下げて返事してくれました。
「すいません。お客様は高校生ですよね?模造刀の中には高校生でも買える物があるんですが、こちらの刀は材質の問題上、高校生では買えないんですよ。」
「…そうですか…。」
「残念だったね。忍ちゃん。どうする?他の武器にする?」
「そうですね。すいません店員さん。他に何か実際に使えそうな武器はありますか?」
店員さんは私の言葉にピクリと反応します。
あ、今の言葉だと物騒なことに使うと取られてしまったのでしょうか。
失敗しましたね。
店員さんは訝しげに私に問いかけました。
「…すみませんが、使用目的を伺ってもいいですか?いや、疑うわけではないんですが、物によっては実際に殺傷できるものもあります。店のオーナーとして貴方達がどのような目的で購入するか知りたいだけです。」
どうやらこの人は店のオーナーさんだったようです。
小姫ちゃんはすっかり委縮してしまっているので私が受け答えしたほうがいいでしょう。
オーナーさんの目を見ながらハッキリと告げます。
後ろめたいことは何もありませんので臆する必要もありません。
「はい。ダンジョンが私達の高校の近くに出来ました。今は警察の方が封鎖していますしTVでは近づかなければ危険はないと言っていますが、それは絶対ではないと思います。現にモンスターという危険生物が存在しているのが分かっています。それがこの先もダンジョンから出て来ないとは限らないと考え、護身用の武器が欲しいと思ってきました。」
オーナーさんは私の回答に一つ頷いて穏やかな顔に戻りました。
納得してくれたみたいです。
「そういうことだったのですね。疑ってしまいすいませんでした。何分こういったお店ですので間違った使い方をしようとする方が少なからずいますので、注意が必要だったんです。そういうことでしたら私達は歓迎致します。改めてようこそ【古今戦術武器商店】へ。先程はご挨拶が遅れましたが私はオーナー兼店長の眞志喜と申します。」
「こんな女子高校生が買いに来たら不審に思うのは当然だと思いますので気にしないでください。私は波瀬忍といいます。そしてこっちは友達の」
「と、時東小姫でしゅ!」
小姫ちゃん。また盛大に噛みましたね。
なんですか?私を萌え死にさせたいんですか?可愛すぎですよ。
眞志喜さんは苦笑いです。イケメンの苦笑いは絵になります。反則だと思います。
まぁ先輩さんには敵わないですけどね。
「はは、波瀬さん、時東さんよろしくお願いします。それでは護身用ということでしたら警棒などはどうでしょう?使わない時は縮ませることもできますから携帯もできますよ。」
「警棒ですか…。それもいいんですが…。」
私はともかく小姫ちゃんには無理な気がします。
小姫ちゃんはそこまで運動神経がよくないのです。
「お気に召しませんか?」
「私はともかく小姫ちゃん、いや時東さんにはそういった近くで使うのではなく少し離れたところから使える物はないでしょうか?例えばスリングショットみたいなものとかないですか?」
「スリングショットですか。それならいくつかご用意できますが、これも高校生は購入できないんですよ。」
「そうですか…。」
「遠距離で使える物だとボーラくらいですね。」
「ボーラですか。私もそれなら使いやすいしいいと思います。どうですか?小姫ちゃん?」
ボーラは複数のロープの先端に球状のおもりを取り付けた投擲武器です。
2、3個の石などでひもをそれぞれ繋ぎ獲物に向けて投げつけます。
投げつけることにより上手く絡まって行動を防ぐことができる武器ですね。
「私にはさっぱりだから小姫ちゃんに任せるよ。」
「そうですか。では眞志喜さん。時東さんにはボーラでお願いします。」
「はい。ありがとうございます。波瀬さんはいかがなさいますか?警棒にしますか?」
「警棒だと長さが足りませんので別の物にしたいと思います。他には何かありますか?」
眞志喜さんは少し考えた後、思いついた武器をいくつか挙げてくれました。
「そうですね…。まず購入可能な武器となるとトンファー、サイ、ヌンチャク、ですね。後は護身用具でクボタンなどもご用意可能です。」
トンファー、サイ、ヌンチャクですか。どれも練習が必要な武器ですね。
クボタンは手のひらに収まる棒状の物です。極めれば相当強い護身用武器ですが、こちらも使いこなせるとは思いません。どうしましょうか?と考えていると一つの武器が目にとまりました。いえ、武器とは言えないかもしれませんね。
「これは…。」
「ああ、これはヒノキの棒ですよ。所謂ネタ武器ですが強度はしっかりしてますよ。」
ヒノキの棒を手に持ってみます。長さは胸の辺りまでで持ち運びに難がありますがリーチもそれなりにありますし、何より棒なら袋に入れていれば持ち歩いたとしても誰に咎められることもないでしょう。そして何より
「棒…杖術ですね。杖術は突けば槍 払えば薙刀 持たば太刀 杖はかくにも 外れざりけり。……うんいいかもしれません。」
私が知っている格言を言うと眞志喜さんの目が一瞬輝いたように見えました。
気のせいかと思いましたが気のせいではなかったようです。
「神道夢想流杖術の格言ですね。杖はいかようにも使える万能の武器であるという素晴らしい格言です。波瀬さんは詳しいですね。」
「いや、それほどでも。江戸時代初期に創設されたということくらいしか知りません。」
眞志喜さんは嬉しそうに語り出しました。
それはもう楽しそうに。
「いえいえ、それを知っているだけでも十分ですよ。神道夢想流杖術は仰る通り江戸時代初期にかの夢想権之助が創始した柔術です。なんとこの御仁、宮本武蔵と2度も闘い一度は負けるも2度目は打ち勝ったという口伝も残されているくらいの使い手です。この口伝には2度目は引き分けたという話もあるので勝敗は定かではないですが彼がどれだけの使い手かは察するに余りあります。この神道夢想流杖術は明治に入り2系統の流派に分かれるもその技は現代まで色濃く残っており、第2次世界大戦後には逮捕術である
現代でも杖道の理念として「突けば槍 払えば薙刀 持たば太刀 杖はかくにも 外れざりけり」と残っていますがこれはすなわち杖は突き、払い、打ちの千変万化の技を繰り出すことができるということであり杖術には無限の可能性があるということを伝える素晴らしい格言なのです。ですからこれがただの棒だとしても使いこなせば様々な状況に対応できる素晴らしい護身術となるでしょう。」
眞志喜さんはスゴイ勢いで話していますが、さすが武器屋のご主人。分かっていますね。
「そうですね。この杖術は極めれば女子供でも大人に立ち向かうことができる素晴らしいものです。特に活殺術としても優れていますね。確かこういった口伝もありましたよね。「疵つけず 人をこらして戒むる 敎えは杖の ほかにやはある」これは相手を傷つけず無効化する業の教えは杖術以外にはないという江戸時代の
「波瀬さんは博識ですね。平野國臣の道歌もご存じだったとは。」
「いや、そんな眞志喜さんこそ。」
こうして私と眞志喜さんはお互いの武器論を交え楽しくお話をすることができ、有意義な時間を過ごすことができました。小姫ちゃんはついていけず、ポカンとしていましたがまぁ仕方ないでしょう。
武器は結局このヒノキの棒を買うことにしました。残念ながら高校生に武器は所持ができないので杖術にしておきますが、格言にあるように極めるのは恐らく一生かかりますので実際、私には突くと払うくらいしか使えないでしょう。やはり魔法を覚えて魔法少女になる必要がありますね。
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