第20話 九条、モンスターハウスに捕まる

『マスター!敵多数!来ます!場所は…えっ?てっ敵はこの回りに既にいます!罠です!』


コアの叫び声がダンジョンの広間に響き渡る。

敵はいない。そう思っていたがどうやらそれは間違いだったようだ。

地面から染み出るように影が盛り上がり、人の形をした者が現れる。影人間だ。それが約50体程の大群で俺達を取り囲んでいる。


「ちっ。コア殲滅するぞ。下がってろ。」


『待って下さいマスター!まだ来ます!っ!この反応は影戦士です!数は4体!通路の奥からやってきます!このままでは出口を塞がれてしまいます!』


「…やってくれる。」


どうやら俺達はまんまと罠に嵌ってしまってしまったらしい。



影人間程度なら50体だろうが100体だろうが物の数ではない。

隙も大きいし所詮攻撃方法は殴るだけだ。殴られたところで大したことはない。

しかしそこに影戦士が混ざると話は全く変わる。しかもそれが4体、か。

相当にピンチではあるが、それゆえに口角が上がるのが自分でも分かる。

激しい戦いを前に精神が高揚しているのが分かる。


このピンチを凌ぐ為には出し惜しみはなしだ。


「コア。お前を守る余裕はなさそうだ。今のうちに隠れておいてくれ。」


『マスター!私も戦います!』


「その水晶玉ボディで戦闘は出来る訳ないだろ?だから今は隠れておいてくれ。大丈夫さ。俺が全て処理する。」


『そんなマスター!』


これ以上の問答はなしだ。

俺は無言で回りを取り囲み始めている影人間に狙いを定める。

影戦士がやってくるまでに出来るだけ削っておかないといけない。

俺は防刃コートのフードを被り全身黒ずくめの姿になると影人間の群れに飛び込む。

影人間は飛び込んだ俺に向かって拳を振り上げようとしているが隣にいる同胞に邪魔をされて上手くいかないようだ。乱戦でそんな大振りが通用するか。


「シッ!」


短い呼吸音と共に腰の山刀を抜き影人間の胸元に突き刺す。

アッサリと赤い粒子に変わった影人間に目をくれず次の個体にも同様に突きを放つ。

影人間も少しは知能があるのか大振りは危険と判断し俺を抑え込もうと突撃する個体が2体近づいてくる。

1体を山刀で斬りつけたがもう1体に覆いかぶされてしまった。


「ギィィッ!」


「五月蠅い。」


しかしレベル5まで強化された足腰は伊達ではなく影人間の突撃を足の力だけで抑えて空いた左手でボディブローを放ち動きを止めた個体に蹴りを放ち距離を開ける。影人間は仲間数体を巻き込み派手に転倒する。これで距離が空いた。俺は腰に差していたメイスを抜きメイスと山刀の変則2刀流で回りの影人間を殴り、斬りつける。俺を中止に暴風のように暴れ赤い粒子がまるで雪のように辺りを散らす。夏場の熱気とコートの厚着で汗が滴り落ちる。


しかし影人間もただではやられないと標的を俺から与しやすいだろうコアに狙いをつけた。

複数の影人間がコアに向かっていく。だから隠れてろって言っただろうに!

コアは水晶玉ボディをスキル【浮遊】でスピードを限界まで上げて体当たりを繰り返しているが所詮スキル【浮遊】はどんなに急いでも軽いジョギングくらいのスピードしか出ず、とてもじゃないが影人間を倒せる程ではない。せいぜい態勢を崩すくらいだ。


『この!倒れなさい!』


「ギィィィッ!」


『きゃぁっ!?』


「コア!」


コアの体当たりで態勢を崩した影人間が苦し紛れに放った拳がコアに当たってしまい、コアが空中を滑るように吹き飛ぶ。浮いているだけなので慣性がないので少しの衝撃で激しく吹き飛んでしまい後ろに控える別の影人間に当たってしまう。やばい!俺は進行上、邪魔になる個体だけに攻撃し最短距離を突き進む。間に合ってくれと願いながらメイスを振るい祈りながら走るが一手遅かった。


『痛た……。きゃっ!』


「ギィィィ!」


コアにぶつかった個体がコアを両手に抱えて天高く抱えだす。まるで神に捧げるように、悪魔に差しだすように。コアを抱えたまま視線は地面に。叩きつけるつもりか!


「くそ間に合わん!」


「ギッギッギッ!」


影人間は影戦士と同じように赤い口腔を三日月上に歪め、処刑の儀式を遂行させようとしているがここからでは距離があり間に合わないと判断した俺は両手のメイスと山刀を放り投げ、懐からあるものを取り出す。それは【古今戦術武器商店】で購入したおいたスリングショットだ。これなら離れていてもなんとかなる。練習不足だが仕方ないやらなければコアが危ない。金属製のボールをセットした俺はゴムを勢いよく引っ張り狙いをつける。--狙いはそのお前のにやけた面だ。


「当たれ!」


「ギィッ!」


よし!上手くいった!

圧倒的優位を確信していた影人間は額に小さな穴を開け倒れ込む。スキル【浮遊】が切れてしまったのだろうコアはコロコロと地面を転がるのを見て再度走り出し、無事にキャッチすることができた。


『マ、マスター…。すみません、私…。』


「コア。隠れてろと言っただろう。気持ちは嬉しいが数が多くて庇いきれない。隠れていてくれないか?」


『でも、私も力に…。』


コアが頑張っているのは知っているが戦闘を行うのは無理があるだろう。

コア自身もそんなことは分かっているだろうに何をそんなに焦っている?


「コア、俺は十分役に立っていると思っている。だからそんなに無茶をするな。見ているこっちが心配になる。」


『私も分かっているんです。これはただの我儘だって。でも私は……。』


「……ちっ、コア、その話は後だ。」


コアの独白を聞いてあげたいがそんな暇はない。

数は減らしたとはいえ、影人間は依然回りを取り囲んでいるしそして何より歓迎しない来訪者が到着したみたいだ。


「「「「ギィィィィッ!」」」」


叫び声をの方向を見ると影戦士が4体出口を塞ぐように並んでいた。


「真打がやっと到着らしい。話はここを切り抜けてからだ。コアは上空に滞空うして周囲の警戒を頼む。俺だけでは対処しきれないがお前が俺の目になってくれれば死角がなくなる。……頼りにしてるぞ。」


力不足に嘆いているコアには酷だが、今は回りの警戒をしていて欲しい。

敵は掃いて捨てる程いるので多方向から攻撃されてはひとたまりもないからな。


さぁここからが本番だ。

一瞬の油断が死を招く修羅場であるが、俺は何故か自分の口角が上がっているのに気づかなかった。

絶対に生き残るぞコア。



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