第12話 コア、留守番をする
「じゃあ行ってくる。」
『はい。マスター行ってらっしゃい。』
マスターは車、という鉄の箱に乗って出かけていきました。
車とは魔素の代わりにガソリンという物を入れて動くからくりのようなものだそうです。
この世界には魔法がない代わりに科学というものがあるみたいでとても驚きました。
ルーナリアにはないものばかりで毎日驚きの連続です。
今日はマスターがお仕事に行かれたので私は一人マスターの部屋でお留守番をすることになりました。
コロコロと体を転がせて遊んでいましたがそれもいつしか飽きてしまいました。
『……暇ですね。』
TVでも見ましょうか。
マスターから使い方は聞いています。確かこのリモコンをつけるとこの板状の画面に映像が流れるようですね。最近の私のお気に入りは世界の景色からという色々な景色が見れる番組です。いつか実際に見てみたいです。
『よっ、ほっ……ダメですね。』
私の体は水晶玉なので手がないです。その為リモコンの上を転がって押してみようとしたのですが、上手くいきませんでした。仕方ないです諦めましょう。
とうとうやることがなくなった私は今までのこと、これからのことを考えてみることにしました。
本来私には女神ルアリア様から異世界に流れた魔素溜まり……ダンジョンを消滅させる為に作られた存在です。神の不文律のルールにより異世界に干渉してはならない為、女神ルアリア様は手出しができませんでした。その為この魔素の流入も放置すべき内容であったのですが、それを女神ルアリア様はよしとしませんでした。
この世界、地球になぜ魔素が流れたかは不明ですが、魔素が異常に溜まると知性体--この地球では人間ですね。その人間の知識や欲望によりダンジョンが具現化してしまいます。そしてそれは日を追う毎に膨大になっていき臨界点を超えるとモンスターが外に放出されるようになってしまいます。それを防ぐ為に私達ダンジョンコアは女神ルアリア様に作られこの世界に送られてきました。私を送還する時に女神ルアリア様は異世界に迷惑をかけたことをとても気に病んでおられました。ですので私が何としても一つでも多くのダンジョンを消滅させなければならないと使命感に燃えていました。
ですが、現実はそんな甘い物ではありませんでした。
私はダンジョンコア。ダンジョンの拡張を防ぐ為の存在です。ですので私自身に戦闘能力はありません。私にできるのはモンスターが外に放出されないようにする為に結界を張り、そして現地の方とリンク契約を結び協力して頂くことでした。
そして私はこの部屋の下に出来たダンジョンに送られ結界を張っていました。
そこへ現れたのがマスターです。
マスターは私を見るなり
「よし、じゃあ有り難く頂いて俺の食費になってもらおう。いやぁ、感謝、感謝。」
といきなり売り飛ばそうとしてきました。
私がダンジョンコアであることを説明しようとしても話を聞かずに売り飛ばして美味しいご飯を食べようとしてました。……あの時のことを考えると今でも震えがきます。本当にマスターに売られないでよかったです。
マスターは最初はダンジョン消滅の為に協力なんてと言っていましたがお金が手に入るとなると目の色を変えて協力してくれることになりました。私としては理由はともかく協力してくれるというだけで嬉しかったのですがマスターは本当に現金でした。
そんなわけで私はマスターと一緒にこのダンジョン攻略をすることになったのですが、最近少し悩みがあります。それは私が何もできないお荷物だということ。私はダンジョンコアですから本来はあの石の台座に座ってダンジョン拡張を防ぐ為の結界を張り、訪れた人に魔素が使えるようにリンク契約をするだけの存在です。ですがマスターはあんなところに一人でいてもつまらないだろうと自分の部屋に入れて頂けました。そして私も一緒にダンジョン攻略を手伝って欲しいと言われました。
あの時はこんな私でも必要にされていることが分かり本当に本当に嬉しかったです。
ですがいざ一緒にダンジョン攻略をしても私は後ろからスキル【浮遊】でついてくるだけです。できることと言えば私のもう一つのスキル【探査】でダンジョンの索敵を行うことだけでした。今はまだ影人間だけなのでマスターも余裕で倒していますが階層が深くなるにつれて魔素濃度はどんどん高まります。現在このダンジョンが何階まで構成されているかは不明ですがお一人では対処できない時が必ず来ると思います。それが分かっているのに私にできることは探査だけ。とてももどかしさを感じます。
『……ダメですね。こんなことではマスターにも女神様にも顔向けできません。』
考えていたら落ち込んでしまいましたがそんな暇はありません。
今は1階層のみの攻略ですがこれから先下に降りることは必ずあるはずです。
その為にも力をつけなくては。
幸いマスターは夜まで帰らないと言ってましたのでまだ時間はあります。
スキルの練習をしてみましょうか。
私にも使えるようになるスキルがあるかもしれません。
見ててください。女神ルアリア様。
私、コアはきっとこの世界のダンジョンを消滅させてみせます。
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