第7話 九条、武器屋のオーナーと話をする
その後眞志喜さんに別室に案内してもらい少し待っていて欲しいということで暫しの休憩を楽しんでいると段ボールを抱えて眞志喜さんが戻ってきた。
「では早速初回の武具のご提供をさせて頂きます。既に店内を探されて分かったと思いますがここにある刀剣類はほぼ木製かアルミなどの強度が弱い金属で作られた模造品ですので到底実戦に耐えることはできません。となると残る選択肢は打撃系の武器ということになります。取りあえず当店で実用できる物はこちらとなります。」
「これはまたたくさんありますね。」
「打撃系の武器であれば所持していても処罰されることはないですからね。それであれば種類はそれなりにありますよ。」
ふーん。打撃系の武器を一つずつ見ていく。
先程の多節棍から始まりヒノキの棒に棍棒ですか。これどう見てもネタですよね?竜を倒す物語のやつですよね?一応武器としてはそれなりに使えるでしょうけどなんかしっくりこない。棍棒持ってモンスターに襲い掛かるなんてどこの原始人だっていう話だ。
その他には西洋の多節棍とでもいうべきフレイルやモーニングスターもあったがこいつは棍棒にトゲが生えたものなので間違いなくアウトだろう。眞志喜さんもネタで持ってきてくれたみたいで進めるつもりはないとのことだった。そんなの持ってこないでくださいよ。
次はバカでかいハンマーか。ハンマーは持ってみたら重すぎたので却下。一撃の破壊力はあるかもしれないが隙だらけであっという間にやられるわ。
次にメイスを手に持ってみる。
このメイスは金属製で先端部分に同じく金属でできた突起がついている。
リーチも大体50cm弱とそれなりだ。
その他には近代的な特殊警棒もあった。
これでもいいかもしれないが長さがなぁ。
眞志喜さんが手に持って選んでいる俺に声を掛けてくれる。
「どうですか九条さん。お気に召す物はありましたか?」
うーん…。この中ならメイスがいいかと思う。
「この中ならこのメイスがいいですね。長さといい重さといいちょうどいいです。」
眞志喜さんもメイスがオススメだったんだろう。嬉しそうに解説してくれた。
「そうですね。この中ならメイス、
「は、はぁ…。」
やべぇ…。話がマニアックな方向に進んできた。
尚も眞志喜さんのメイストークは留まるところを知らずむしろ段々興奮してきている。
「メイスの歴史は古くは紀元前12,000年頃に木や石や土器で柄頭を作ったメイスが誕生しており、世界中で使用されております。しかし革鎧が開発されると同時にその耐久性、威力から廃れてしまうのですが治金技術の発展と共に見直されて紀元前3,000年頃メソポタミアでは自然物や青銅製のメイスが一般的な武器として用いられるようになります。そして中世では金属製鎧の発達によりチェインメイルから小さい金属札を綴ったラメラーアーマーや板金で全身を覆うプレートアーマーへと発展していったことにより、これらの重装備に対抗してメイスは戦場での重要度を増していったのです。」
「え、ええ…」
まだまだメイストークは止まらない。
「メイスは東ヨーロッパの東ローマやロシア、ハンガリー、イスラム世界でもメイスは一般的な武器として扱われていましたが西ヨーロッパでは出遅れていました。しかし11世紀から始まった十字軍においてイスラム世界に侵攻した際、西ヨーロッパ諸国はその有効性を身を以て体験したのです。時代と共に西ヨーロッパでも機能的なメイスが製造可能になり、14世紀にはイタリア、ドイツ地方でメイスは発達を見せ、このメイスのような
「あ、ああ…」
眞志喜さんの勢いはまだ止まらない。
続いて近代を語りたいようだ。
「近代においては銃の登場により、戦場から金属製の重い鎧は姿を消しメイスもそれに従って廃れていきました。制式な兵器としては消えたといっても殴るだけという単純さからメイス状の即席武器がしばしば使用されております。例えば第一次世界大戦の塹壕戦、もしくは正式な量産品としては第二次世界大戦前後の日本、外地の日本人居留地の警備等で用いられています。現代では戦争用の武器という範疇を外れれば警棒として警察や警備員が幅広く持っていますが、こちらが現代においてのメイスと言えるでしょう。ですが、警棒とこの金属タイプのメイスとでは破壊力、耐久性が比べるべくもないことは分かって頂けると思いますが、いかがでしょうか?」
「は、はい。これでいいいと思います。」
もう俺はお腹いっぱいだよ……。
「それではこちらのメイスは差し上げますね。斬撃系の武器も必要になるでしょうが、生憎店内にはないんですよね…どうしましょうか。」
「それについてはホームセンターで山刀を予備に買ってますので大丈夫です。」
「山刀ですか。それなら予備としてはちょうどいいですね。山刀は元々山林伐採や狩猟の際の獲物の皮はぎなどに用いる刀で…」
やばい!今度は山刀のウンチクが始まってしまう。
驚愕した俺は慌てて別の話題を振ることにした。
「眞志喜さん!防具!そう、防具はないんですか!?」
「防具ですか?はい。防具なら法に触れませんので中世のプレートアーマーから現代の防弾ジャケット、防刃ジャケットまで用意できますよ。」
「さすがに鎧は勘弁して欲しいので防刃ジャケットを見せて頂けますか?」
「ええ。ダンジョン内であれば防弾より防刃でしょうからね。防刃ジャケットと言いましたが防刃の製品は多種ありますのでこちらからお好きな物をお選びください。」
そこには定番の防刃ジャケットから防刃グローブなど幅広いものがあったがその中で一つ珍しいものがあった。
「眞志喜さんこれは?コートのようなんですが?」
「はい。それは防刃コートです。足まで覆うロングコートで素材は強化繊維を中心に胸の部分には強化金属プレートが入っています。ですが、こちらの金属は非常に軽く丈夫の為、着用時にも影響はほとんど与えないでしょう。デザインも違和感がないようなデザインですので日常時に着ていても問題ありません。」
「へぇそれはいいですね。特に場面を選ばずに着れるのは嬉しい。ただ今の季節は暑いですけどね。取りあえずこのコートと今の季節用のものが欲しいですね。」
黒のコートならいろんな場面で役立つことは間違いないが生憎今は真夏のまっ最中だ。
「それならこの防刃Tシャツと防刃ズボン、そして防刃グローブではいかがでしょう。これなら夏でも問題なく着用できると思います。防御力を気にされるようであればこの上にコートを羽織って頂くようになりますが……。」
うんこのへんが妥当なとこだろうな。
「ではそれでお願いします。コートも念の為頂きたいです。すぐに持ち帰れますか?」
「はい。それはもちろん。ではすぐに準備しますね。」
「ありがとうございます。」
「いえいえ。九条さんとはいい関係でいたいので。」
「はい。私も今日眞志喜さんと知り合えたのは僥倖でした。」
そう言ってお互いにお礼を言いながら初めての商談は終了したが眞志喜さんからは止めの防刃ジャケットの歴史を長々と話されてしまったが。
あれはもはや拷問だろう。
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