第6話 九条、アキバの武器屋を体験する

「……やっと着いた…。ここか。」


忍との電話が終わった後も延々と探し続けてやっと見つけた店には【古今戦術武器商店】という看板が掲げられている。ここ秋葉原では知る人ぞ知る武器屋があったりするのだ。

俺もこういった店は何度か観光で見に来たことがあるが本物ではないにしろ刃引きした武器は置いてあるので研ぎなおせば十分戦闘で使えると思ったから選んだ店だったりする。


店は2階にあり、看板横の小さな階段を昇り店内に入るとそこは正しく武器屋といった佇まいで、日本の物では小太刀、脇差、太刀と言った模造刀から苦無や手裏剣などの忍者道具も揃っている。中国系の武器ではヌンチャク、偃月刀、矛、三節棍などもある。西洋の武器では直剣、曲剣、大剣、レイピアもある、がここでは全て偽物でしかないのが残念ではある。大抵が強度が弱いアルミやラバー製のものばかりだが中には刃引きしてあるが鈍器として使える物、打撃武器として使える物もあるのここに来たわけだ。


「さて、と。どれにするか。」


自分の命を守る為なのでここは必要な投資と判断してしっかりとした物を購入しようと思う。まずは日本の武器から見てみる。刀が欲しいところだが、ここにあるのは強度に不安がある模造刀で切れない上に実戦で使えばすぐにダメになってしまうだろう。そもそも日本刀が無敵のイメージはあるが切れ味はともかくその耐久性は不安があり一度でも斬りあえば刃こぼれや血糊で錆びてしまうと以前忍が残念そうに話していたのを思い出して選択肢から外した。せっかく買っても使えないなら意味ないし。

そもそも戦国時代ではメインは刀ではなく槍だったそうだ。刀でバッサバッサ斬るのは後世のイメージが強いんだと。どこの時代も厨二病患者はいるってことだ。


次は苦無などの飛び道具だがこちらはそもそも鉄製ではなく似せただけの木製なので購入しても部屋の飾りにしかならないので却下。


「できればリーチのある武器がいいんだが……。おっこれはどうだろうか?」


多節棍。

俗にいうヌンチャクなどの鎖で繋がった棒状の武器だ。

現実に存在しないと思われがちだが実際に存在している武器のようで日本でも琉球武術で七節棍といったものもあるようだ。さすがにここにはなかったが双節棍としてヌンチャク、ヌンチャクを長くした梢子棍も置いてあった。こちらは持ち手の棍が長くなっているため、持ち手の棍自体も突きや打撃に用いやすいという利点もあるみたいで実戦でも十分使えそうだ。そして三節棍。長さは大体50cm、太さ5cmほどの3本の棒を、紐や鎖、金属の環などで一直線になるように連結した武器。使い方は複数の関節部分を持ち、振り回して敵を攻撃するようだ。捻糸棍とか使ってみたいが、生憎中国武術はマスターしていないので却下である。


「ん~…あんまりいいのがないな……。」


他にも西洋のブロードソードがあったがこちらも強度に不安が残るもので実戦には使えないので却下となった。一つずつチェックしていると時間が過ぎるのもあっという間で既に1時間以上は滞在している。そろそろ決めて帰りたい。こうなったらホームセンターに戻ってスコップでも買って帰ろうかと考えていると店員の一人が俺に声を掛けてきた。こんだけ長いこといたら当然っちゃ当然か。


「何かお探しでしょうか?」


「あ、はい。護身用にと考えておりまして…」


さすがに実戦で使うとは言えないからな。

護身用と言っておけば角も立たないだろう。


「護身用ですか。あっ申し遅れました私オーナー兼店長の眞志喜マシキと申します。」


オーナーさんか。ならこちらも挨拶しておこう。

商売の女神はどこにいるか分からないからな。


「これはご丁寧に。私は株式会社フリーダムの九条と申します。小さな移動販売の会社を経営しております。」


言ってなかったが一応俺も経営者だったりする。

移動販売のフリーダムって会社でまぁ平たく言えば町中でポップコーンやらかき氷なんかを改造したキッチンカーで売って回る商売だ。


「有り難く頂戴致します……。社長さんでしたか。護身用ということですがどの程度の物をお考えですか?先程から拝見させて頂いた限りでは防犯グッズではお気に召さないようでしたが……」


…よく見てるなこの人…。


「ええ、銃刀法に抵触しない程度で実戦に耐えられる物を探しています。」


「なるほどなるほど…。失礼ですがダンジョン関係でご所望でしょうか?」


「は?」


なんで知ってるんだこの人?

俺の顔に書いてあったのを読み取ったのか楽しそうに笑いながら眞志喜さんは理由を話してくれた。


「はは。失礼しました。いやね?今日の午前中にダンジョンが発見されたでしょう?何分秋葉原はそういったことに柔軟な町ですからモンスターが発見されたならダンジョンに潜れるよう武器が欲しいという方が大量に来店されまして。恥ずかしながら開店してからここまでお客様が来店されたのは初めてで私も少々舞い上がってしまっております。」


「まぁ秋葉原は良くも悪くもそういった町ですからね。」


オタクの町秋葉原だからな。それくらいで驚いていたら始まらないか。

それより異世界転移だとかで騒いでる奴のほうが多そうだ。

眞志喜さんは既に実用できる武器を求めている人間を何人も接客しているみたいだし、ここは正直に相談しておこうか。なに、所在地さえ分からなければどうとでもなる。まさか俺の部屋に出来たとは誰も想像できないだろうさ。


「これはオフレコでお願いしたいのですが実は知り合いの敷地にダンジョンが出来ましてそちらの探索に使う為の武器防具を探しております。」


「お知り合いの敷地内にダンジョンですか。いやこれは興味深い。今のところダンジョンができた場所は警察が封鎖しておりますので一切立ち入りができないはずですが…。」


「実は私の知り合いと同じケースが他でも発生していることは先程知ったばかりでした。こんなことはどう考えても荒唐無稽でしょう?どこにも報告はしていないんですよ。で、せっかくですからダンジョンに潜ってみようかと。」


コアのことまでは話す必要ないな。いくらなんでも不用心すぎる。

ダンジョンの発生場所も知り合いということにしておいた。

まさかここから警察に報告なんぞするとは思えないが一応警戒しておくに越したことはない。

眞志喜さんは俺のダンジョンのことについてダンジョン内に入っただとかモンスターに入っただとか興奮して聞いてきたのでコアのことは隠してダンジョン内には入ったことモンスターにはまだ遭遇していないことを説明した。


「いやぁ本当に興味深い。そういうことなら九条さん。私から一つ提案があるのですがいかがでしょうか?」


「提案?」


「ええ。私ども古今戦術武器商店としましては今後このダンジョンに立ち入ることが可能になる未来がきっと来ると確信しております。ですが現状は警察に立ち入り封鎖されてしまっております。そこで九条様の敷地内でのダンジョン探索で得た情報や獲得品をわが社で買い取らせて頂きたいと考えております。その代り九条様には武器防具、必要であれば弾薬などの消耗品をご提供させて頂ければと考えておりますがいかがでしょうか?」


これはかなりいい条件だな。コアの話ではモンスターを倒せばドロップアイテムが出てくるようだからそれを買い取ってくれる場所は正直かなり貴重だ。


「そうして頂けるとこちらは助かりますが…。法に触れる可能性はありますよね?」


「はい。私どもも法に触れるようなことはするつもりは御座いません。あくまで護身用として使われる物を選択させて頂きます。一般的には催涙スプレー、スタンガン、武器であれば打撃系の武器ですね。いずれダンジョンの研究が始まれば状況は変わるでしょうがこういったことは早いほうがいいですからね。」


「なんでそこまでして肩入れして頂けるんですか?」


俺としてはそこが気になる。協力者は欲しいが厄介ごとはごめんだからな。


「なぜ、ですか。…そうですね。分かりやすく言うと夢だから、ですかね。長年妄想されていたダンジョンやモンスターが現実にある。そこに自分達の武器で探索を進める冒険者がいる。なんて年甲斐もなくワクワクさせてくれる案件です。この町の者はそういったファンタジーに飢えているんですよ。でなければこんな商売はしません。」


「はははっ。オタクだから…ですか。私も変わっているほうだとは思いますが眞志喜さんも相当ですね。こちらからもお願いします。」


「では契約成立ですね。」


「はい。こちらこそよろしくお願いします。」


こうして俺と眞志喜さん--古今戦術武器商店と俺はダンジョンの情報とドロップ品を引き換えに武器弾薬の提供をしてもらうことになった。


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