第5話 九条、オタク少女から電話される

俺の住んでいるのは東京の外れというわけでもないけど都内から1時間程と少々離れている場所にある。回りは山ばっかりのところなので地価は安い。駅から離れれば離れる程安くなるのでそれを理由に考えても家賃は異常だろう。

なんたって家賃はピッタリ1万円だからな。

何か昔事件でもあったのかと疑いたくなる値段だが、この家賃は婆さんが自分で生きるお金が入ればそれでいいと最安に設定しているのだ。だが一つだけルールがあって一日でも家賃支払いを伸ばしたら強制退去になるということだけ。なんでもこんな辺鄙なところでは部屋は空き室だらけになるのもよくあることらしいので俺みたいな訳ありな人間でもいいので満室になるように安くしているらしい。その代り少しでも滞納をした場合はすぐに出ていく契約となっているわけで。


そんな東京の端にある自宅から約1時間程電車に揺られ目的の秋葉原についた。

久しぶりの秋葉原はやっぱり賑やかでメイド喫茶や路上コスプレイヤーなどもいて騒がしかった。

ちなみにホームセンターで買った山刀と荷物は駅のコインロッカーに入れてある。

んなもん持ってこんなところを歩いていたら銃刀法違反待ったなしだからな。


ネットに載っている地図を頼りに目的の店を探す。

駅から10分と書いてあったけど全然見つからない。

ええと駅を出たら電気街を右に曲がって……次の交差点を左……とネットの地図と見比べながら目的地を探しているとスマホが突然鳴り出した。

画面を見てみると…ああ忍か。俺はスマホのコール画面をタップして電話に出た。


『もしもーし!先輩さんですかぁ?』


『先輩さんなんて知らんな。人違いじゃないか?』


『ひどい!先輩さんひどいです!私です!噂の美少女JK波瀬忍ハゼシノブですよー!』


忍は相変わらず騒がしいな。それに今時美少女はないだろ。まぁ確かに可愛らしい顔つきはしているのは認めよう。ただ、性格は残念極まりないが。


『誰が美少女だ誰が。で、そんなことより何の用だ忍?』


『そんなことってひどいですよー!異議ありっ!そのことは議論すべきだと思います!』


こいつは波瀬忍ハゼシノブ。私立私立宝生学園2年生でうちで雇ってるバイトだ。

悪い奴じゃないんだが無駄に元気でやかましい上に生粋のオタク少女だったりするので結構面倒くさい奴でもある。それでも仕事中は助かってるところもあるのであまり邪険にはできないのが難点だ。忍は一応俺の母校に在籍している関係で【先輩さん】と呼ばれている。大体俺は今年で28歳で随分年が離れているってのに先輩もないかとは思うんだが何度言っても止めないのでそのうち諦めた。


電話口では文句と抗議が延々と続いているが忍とこの手の話をするといつまで経っても終わらないからスルーさせてもらおう。


『分かった分かった。俺が悪かった。んで?本当に何の用だ?今日はバイトは休みにしただろ?』


というより俺の仕事がなくなってしまったのが原因なんだけどな。

だからこうして秋葉原まで来れるわけでもあるが。


『んー。反省の色が見えないですがまぁいいです。そうですそうです先輩さん!ニュース見ましたか?』


ニュース?そういえば今日はTV自体見てなかったな。

家にダンジョンが発生したりしてTVなんて見る余裕はなかったな。

地震発生前は暑くてそれどころではなかったし。


『いや、今日は見てないぞ。』


『えぇー!先輩さんそれは人生の約半分を損していると言っても過言でないです!』


『人生の半分は言い過ぎじゃないか?』


いつもはそれなりに見てるぞ?社会情勢の把握は仕事上必要だからな。


『いいや損してます!いいですか先輩さん。長い人生TVがないとどうなると思いますか?』


『さぁ?見てなくても形態やパソコンで情報調べればそれに越したことはないから実際大して問題にはならないんじゃないか?』


『それは違います!TVがないと人は腐ってしまうんですよ!』


いやそれはないと思うぞ。

それに腐っているのはお前だ忍。


『人はTVがあることで人格を保っていられるんです!アニメがご飯。バラエティがおやつ!そしてニュースは抹茶です!』


『分かりたくないがニュースが抹茶というのは言いえて妙だ。』


渋いけど健康にはいいってか。

こいつは生粋のオタク少女だから情報源がなければ生きていけないんだろう。

ホントに残念美少女だ。


『というわけで先輩さん!TVを見ましょう!』


『いや、今は出かけてるからTVは見れないな。帰ってからでいいか?』


それより武器探しが大切なんだよ。


『先輩さんは私がいないと全然ダメダメですね。いいでしょう!私が先輩さんにビッグニュースを教えてあげます!』


『はいはい。アリガトウゴザイマス。』


『むぅー!なんで棒読みなんですかー?そんな先輩さんは耳の穴かっぽじってよく聞きやがれです!』


『今日び、耳の穴かっぽじってなんて言う女子高生は初めて聞いたぞ。』


俺の突っ込みは忍には効果がなくスルーされてしまった。地味にイラッとくる。


『なんとなんと先輩さん!日本中にダンジョンができたんですよー?』


『は?』


一瞬ドキッとしてしまった。もしかしてうちにダンジョンが出来たこと知ってんのか?


『そうそう!クフフ。そのリアクションが聞きたかったんですよー!午前中に結構大きな地震があったと思うんですけどなんと日本各地でダンジョンが突然できたんですよ!警察が立ち入り検査をしている生中継で何が出てきたと思います?オークですオーク!残念ながらエルフはセットじゃなかったのが悔やまれます。ダンジョンでオークに捕まるエルフ!そんなエルフに豚面を近づけたオークは……クフ…クフフフフフ腐…』


俺が考え事をしているうちに忍の妄想はエスカレートし、どうやら凌辱物のスイッチが入ってしまったようだ。ただの変態だな。


『……おい!おい!忍!』


『そしてエルフの陶器のように白い肌を醜いオークが……ってなんですか先輩さん?』


『話が逸れてる。妄想は一人の時にしてくれ。で?そのダンジョンが現れたってことだよな?』


『あっはい。ネット上にも動画が流れてますが他にもゴブリンとかオーガとか色々な動画が世界中で撮影されているみたいですよ。さすがにTVでは地殻変動としかやってませんけど。』


まぁコアみたいのが他にもいるかは分からないが少なくともダンジョンは他にもあるってことか。


『なるほどな。公的機関がそんなの放送すれば大問題だろうからな。』


アメリカとかならいざ知らず保守的な日本ではそんな危険を冒したら責任問題で辞任騒ぎが出るに決まってるだろうし。


『そうですよね。警察とかがモンスターと戦うとかなさそうですけど……。でもでもネット上では既にお祭り状態ですよ。私も将来冒険者になろうと考えてます!』


『お前この前はうちで働くとか言ってなかったか?それにそんなのできるのは何年かかるか分からないだろうけどな。あんまり2次元と現実を一緒にするなよ?夢を追いかけるのはいいが掛けるのは自分の人生だ。しかも大抵勝率が低いのが相場と決まってるからな。』


俺の苦い経験と共にいつものように忍に言ってきかせる。

俺?俺はいいんだよ。既に負けがこんでるギャンブラーだからな。安全牌を取ってもジリ貧だからこうやってコアのダンジョンに入ろうとしているわけだが、まだ若い忍には勧められない。コア曰く当然危険はつきもので最悪死ぬことも考えられるって話だからな。


『先輩さんの人生論は分かってますよ。でも私も伊達に美少女JKをしているわけではないのです。いつか契約をして魔法少女になるつもりですから。』


『まぁほどほどにな。じゃあ俺は用事があるからもう切るぞ。』


ダンジョンのことは忍には話さないでおいた。

忍のことだ話せば絶対に行きたがるのは目に見えていたがどれだけの危険があるか分からないので軽々しく話すことではないと考えた。一応大切な後輩だからな。


『あ、はい。じゃあ先輩さんまたです。』


『おう。またな。』


忍との長電話に付き合ってしまったがおかげでいい情報も手に入った。うちの家のダンジョンと同じような物が他にもあること。しかもそれは公的には立ち入りを禁止されていること。モンスターはゴブリン、オーク、オーガなどがいること。これはコアの話を聞いていた。知性体の欲望と知識を反映しているのであれば伝承やゲームの世界のものが反映される可能性は十分あるだろう。それにコアの元の世界のイメージも取り込まれているから謎の生物も現れる可能性はあるだろうとのこと。


そんな情報を整理しながら目的の店探しを再開する。

いつものことながらネットの地図って本当に見にくいんだよな。

何度もグルグル回り漸く店を見つけたがどうやら最初の曲がり角を逆に進んでいたらしい。

そりゃ見つからないよな。

はぁ。とにかくここでメインの武器を探そうと思う。

なんだか酷く疲れたな。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る