11 だけど、ぼくらは生きている。
一撃でレンガを粉々に砕く弾丸が、装甲車を吹き飛ばす爆弾が次々と入り口のガラスを、壁を破壊する。
「十字の方向! 来るよ!」
千尋の声に遅れて、軽トラックに弾丸が突き刺さる甲高い音と火花が散った。
反動を無理やり押さえ込み、克洋は機関銃を振り回す。掠めた弾丸が、飛び出して拳銃を乱射するスナッチャーをバラバラにした。
「RPG!」
屋上に、対物ようのランチャーを構える不届き者がいた。すかさず千尋がグレネードを発射。
ぽん、ぽんという間の抜けた音と共に放物線を描いてグレネードが屋上へと吸い込まれ、屋上の一部ごと粉々に吹き飛ばす。
銃撃の数こそ減ったが徐々にトラックに集中する。克洋の持つ機関銃に火花が散った。
「そろそろ時間切れだ」
克洋がARX-160を千尋に放り投げる。MINIMIと同じ弾丸を使うライフルだ。千尋はそれを受け取り、ひょいと荷台から飛び降りる。遅れて克洋も、トラックを蹴る。
それを合図に、兵器を満載したトラックが走り去った。千尋がARXを撃ちながら少しずつ前に進む。克洋は手に取った不細工な銃を抱えて入り口まで走る。
ほとんど割れているガラスを克洋は厚いコンバットブーツで蹴り砕き、中へ飛び込んだ。狭いホールに待ち受けるように〝スナッチャー〟がいた。けれども、持つ武器はちゃちな拳銃がいいところだ。胸に弾丸を受けて、克洋は軽く眉をひそめる。防げるから、痛くないわけではない。結構キツイ。
けれど、なつきはもっとくるしんだ。そう思うと耐えるのも幾分楽だった。
克洋は手にしていた不細工な銃を腰だめに構える。暗い室内に竜の息吹のような光が瞬く。AA(オートアサルト)-12――名前の通り、散弾をフルオートで放つそれは、部屋にいるスナッチャーを瞬く間にジャンクへと変えた。
「やるじゃん。んで、奴はどこだと思う?」
「安全なとこだろ。そして、逃げられないとこ」
二人は階段を見やった。エレベーターは待ち伏せをされる。克洋と千尋は頷き合い、階段を駆け上る。克洋が先頭。それを千尋が援護する形だった。
踊り場に飛び出した〝スナッチャー〟の胸が、散弾で抉れ、拳大の穴が開く。上から身を乗り出してサブマシンガンを構える〝スナッチャー〟の頭の半分が、千尋のARXから放たれるライフル弾で吹き飛んだ。
数体の残骸を跳び越え、克洋たちは一気に三階まで駆け抜ける。階段の下を千尋が警戒する間、克洋は廊下へ躍り出る。
廊下の先にある、真っ黒な銃口と視線があって、克洋は身体を引っ込める。ほとんど同時にライフル弾の嵐が廊下と壁を引き裂いた。
「ちょっと、大丈夫!」
「っ……ああ。いいの貰った。死ぬほど痛い」
克洋はボディアーマーに視線を落とした。お腹あたりにに数発の細長いライフル弾が沈んでいた。
ヘビー級ボクサーのパンチを受けたらこんな感じだろうかと克洋は思う。視界はくらくらするし、脂汗が滲むほど痛い。さっき胃袋に納めた固形食を戻してしまいそうだった。
「でも、生きている。ぼくは、生きてる」
なつきのようには死ななかった。お腹を撃たれて、腹圧で内臓をぶちまけたりもしない。それだけで十分だった。克洋はボディアーマーを脱いだ。アーマーの仕組みは普通の布と変わらない。強靭だが何度も受けていれば繊維が綻んで使い物にならなくなる。そうなれば単なる
「廊下にマシンガン。多分、なつきを殺した奴。和製ドルフだ」
予備の弾倉をポケットに詰め込みながら、克洋はぼやく、それを見て、千尋はじろりと少年を見た。
「何だよ」
「呼び捨てにするんだ、センパイの事」
「いつか、出来たらいいなって思ってた」
「あっそ。援護お願い。めくら撃ちでいいから」
千尋は腰のベルトに留めていた手榴弾を手に取った。ピンを抜き、レバーを握り締めて克洋に身を寄せる。克洋は少女の肩にかけたスリングからライフルを手に取った。
「今、胸触った?」
「大して無いくせに。よく言うよ。アーマーだって着てるのに」
そのまま克洋は身を乗り出して引き金を絞る。閃光が交差する。その隙間を縫うように、千尋は転がすように手榴弾を放った。克洋は弾丸が近くを通過する恐怖を堪えながら心の中で3つ数えて、身を隠した。
外でグレネードランチャーをぶっ放した時もだが、爆発音と言うのは意外と小さいのだなと克洋は思う。小さいと言うか、くぐもっているのだ。
克洋は頭を出して廊下の様子を伺う。へしゃげたマシンガンと崩れた壁が見えた。呆気ない最期だ。克洋は思う。なつきの時と同じだった。克洋はARXを千尋に返した。
「今度はアタシが先行する。援護お願い」
千尋がライフルの下に取り付けたフラッシュライトを灯しながら進む。和製ドルフが守っていたのは、施設の中で最も大きな個室のようだった。ライトが表札を照らす。
「連中なりのVIP待遇ってことかしら」
「死刑囚にはステーキを食わせるだろ」
ごとりと、崩れた壁の傍で物音がした。巨大な影が動き、千尋がその影にぶつかって吹き飛ばされる。
「ッハ……!」
壁に背中を打ち付け、千尋が呼気を漏らす。
和製ドルフは、生きていた。
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