10 ロックンロール

「ぼくらの部活の顧問。アイツが、間接的になつきを殺したってことか」

「ええ。あの豚。私らが学生だって、甘く見てた。けど、ナツ先輩はそうじゃなかった」


 千尋曰く、克洋の推理はほとんど正解だった。件の顧問は潤沢に降りるの予算をいいことに、武器の幾つかを余分に納入していた。予備という名目で、いくつかのパーツに分解されたそれを少しずつくすねていったというわけだった。


 問題は、銃について詳しくなかったことか。悪用を防ぐために彫られた製造番号の存在に気付いていなかったことか。克洋はため息をついた。映画じゃちゃちなチンピラだって出来ていることだ。


「なつき先輩は勘付いていたと?」

「正解。あの人さえ消せば、色情狂とお嬢さまだけ」

「お嬢様って……酷いな」

「色情狂は否定しないの?」


「お似合いだからな、色情狂」

「そのまま返すよ、お嬢様」


 薄暗い通りを、後部の荷台に克洋と千尋を乗せた軽トラックが走っていた。やがて、老人ホームの前で停まる。三階建ての、それなりに良い造りの場所だった。


 克洋は、その施設に誰かが入居したりだとか、老人を見かけたりしないことを時折不思議に思っていたが、今ならその理由が分かる。〝スナッチャー〟や清掃部絡みだ。


「それにしても、暑い」

「我慢なさい」


 二人は軽トラックの荷台に座っている。けれども、それには分厚い幌がかけられて、一目で火器や人をたんまり積んでいるとは分かりにくくなっている。


《もうすぐ着くぜ。こんだけ派手にやるんだ。しくじるなよ》

「ええ。分かってる。手筈通り、ぶっ放して30秒したら撤収して」

了解コピー


 千尋の耳に入った小さなインカムに、軽薄そうな男の声が届く。彼もまた、清掃部に協力する人間だ。こうして輸送を担当する係りらしい。それに千尋も大儀そうに返事をする。


 やがて、エンジンの音が小さくなり、車が停まった。目的地に着いたのだ。


「準備はいい?」


 二人は、分厚いボディアーマー――今度はライフル弾も止められるモデルを着込んでいた。武器の最終確認をしながら千尋の言葉に少年が答える。


「いつでも」


 それと同時に、千尋が内側から幌をはがした。克洋は荷台に据え付けられた、巨大な銃を掴んでいた。ブローニングM2機関銃。克洋たちのつかうサブマシンガンよりも、和製ドルフの機関銃よりも強力な12.7mm弾を使用するものだ。


 隣で千尋は丸い円筒のついた銃座にしがみつく。Mk19自動擲弾銃。グレネードをフルオートで撃つことの出来る、ちょっとした大砲だった。


 どちらも、克洋たち清掃部の最終兵器だ。


 二つの銃声が夜の静けさを砕く。


 ぼくたちはここにいるのだと、叫ぶように

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