8 戦い続ければ、負けはしない
「その銃を返しな。お嬢ちゃん」
「そしたら、千尋一人になる」
「二週間もすれば、転校生が来る。そいつはどういうことか、殺しの腕に長けた奴でね……おまけに、美人」
克洋は目を見開いた。そんな簡単に人員の補充が利くようなものなのか。清掃部と〝スナッチャー〟の規模を考え、気が遠くなった。驚く克洋をよそに、千尋は続ける。
「ナツ先輩は確かに強かった。けど、リソースとして考えればいち犠牲だ。お嬢ちゃん、アンタにゃリスの金玉ほどの見どころはあった。それもリソースとして考えれば、いちの損失だ」
なんも変わりはしないのよ。けらけらと千尋は笑った。ひどく乾いた笑い声だった。千尋が傷ついてないわけないのだ。克洋よりも、なつきとの付き合いが長いのだから。
克洋は自分を恥じた。
誰が、なつきを神聖視しているって?
していたのは、ぼくじゃないか。
そういう意味では、こいつはずっと大人だった。
ちびのくせに。
「分かった? アンタ一人、ナツ先輩一人、消えても何も変わらない。それだけ〝スナッチャー〟との戦いは広がってる」
「それなのに、ぼくらは〝スナッチャー〟のことを知らない」
「そ。イタチごっこ。けれど、勝負ってのは戦い続ける限りは、負けはしないの。この戦いに勝ちは無い。だから、戦う」
「戦い続ければ、負けはしない……」
克洋はひとりごちた。その意味を噛みしめるように。
「そ。ついでに敵がいる。失恋をしたら、相手を恨むって訳にはいかないけど、この仕事はそうじゃない」
千尋は一瞬目を細めて克洋を見た。そこに少なからず、割り切れない感情を見て、克洋は彼女の視線から目を背けた。彼女はすぐに、「そういう経験も多いし」と、おどけてみせた。
千尋のように割り切ることが出来れば、克洋は一瞬そう思った。すぐにそれを打ち消す。
彼女が何をしたいのか、分かったからだ。
そして、それは克洋も望んでいることだった。
「ところで千尋。ここ数日、部室に来なかったな」
「まーね。メソメソした野郎の顔を見るのも嫌だったし」
「今日は、メイクが崩れてる」
「……何を言いたいの?」
「ぼくにも一枚噛ませろ」
千尋はかぶりを振った。お前は分かってないというように。口を開く前に、克洋はさらに続ける。
「やり返したいんだろう」
千尋が固まった。銃をホルスターに納め、少女の隣に回り込む。今度は千尋が視線を逸らす番だった。
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