3 唇と血の赤

近づいて来る足音に、克洋は再度部屋に飛び込んで、再度頭を出して様子を伺う。ゆっくりと歩いて来る巨漢がいた。筋肉ムキムキの大男だ。身の丈が一九〇を超えている。昔流行ったアクション映画のスター似ていた。克洋は心の中でそいつを和製ドルフと呼ぶことにした。


「了解、また私が囮をやるから、お願いね」

インカム越しに、なつきの声が聞こえる。扉を手で開いて、それにもたれかかるようにして弾倉を交換している。


 分厚い扉だ。.45ACP弾の威力は高いが、貫通力は低い。拳銃弾程度ではびくともしないだろう。


 和製ドルフの持つそれが、巨大なマシンガンであれば話は別だ。M249・MINIMI軽機関銃だ。バイポッドもお構いなしに、巨大なそれを平然と構えている。使用する弾丸は5.56mmNATO弾。軍用のライフル弾だ。


「なつき先輩!」


 克洋の叫びの意図するところに気が付き、なつきが部屋に飛び込もうとする。克洋が身を乗り出し、サブマシンガンをフルオートで連射する。


 和製ドルフはボディアーマーを着ているようだった。多少バランスを崩したが、その動きは変わらない。


 引き金が引かれた。


 扉をまるで障子紙か何かのように容易く引き裂いた。


 部で使っているものと同じ、グリーンチップ弾だ。克洋は思う。弾丸をプラスチックでコーティングして貫通力を増している。殺傷力は高くは無いが、この至近距離であれば話は別だ。


 扉を引き裂いて尚、勢いを残した弾丸が、少女を貫いた。腕に、お腹に、胸に、そして首に。


「――ぁ」


 なつきが息を吐いた。そして糸の切れたマリオネットのように倒れる。ごぼごぼと少女の首から、泡と血が漏れ出した。


 克洋は柔らかな彼女の唇を思い出していた。


 それよりも血は赤い。


 なつきが、首に出来た穴を塞ごうとするように。こぼれ出るいのちを逃がさないように。


「……なつきっ!」

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