2 どっちかが囮になる。どっちかが殺す
なつきの声は冷静だった。
「片付けなさい。仕事はかわらないわ」
《うぃっす。気を付けなよお嬢ちゃん。多分、この連中。アタシらが来ることを知ってやがった》
一瞬、克洋は血の気が引くような心地を味わった。けれども、なつきも、千尋もおびえた様子は見せない。男の自分が先に怯えるのも情けないと思って、薄いスモークのかかったシューティング用のゴーグルを掛け直した。動揺を気取られないために。
簡単な仕事――単なる的当てでは無く、銃撃戦なのだ。
突然近付いた死。そして、高揚。それは仕事の前のものよりも小さなもの。FPSなどではないリアルの死が近づいている。
「不良少年。こっちにもすぐ、連中が来る。時間はそう無い」
「その前に、打って出ると?」
「そ。作戦はシンプル。どっちかが囮になる」
「どっちかが、確実に殺す、ですね」
分かって来たじゃないか。そう言うようになつきは軽くベレッタを掲げる。
「なつき先輩はどっちが良いですか?」
「新入りに危ない仕事、任せられないかな」
「じゃあ、ぼくが後ろで」
克洋はガヴァメントをホルスターに戻し、スリングで引っかけていた近未来的な釘打ち機を構える。クリス・ヴェクターと呼ばれるそれは光学照準器と、極端に短い銃身が特徴だ。弾幕による制圧力と.45ACP弾の威力もあって狭い場所で戦うには抜群の能力を発揮する。
克洋はそれを訓練用施設でしか使ったことは無いが、訓練と同じようにやればいい。
「がんばって」
なつきと克洋の唇が僅かに触れ合う。
克洋がそのことに反応するよりも早くなつきは身を屈め、たっと廊下を駆けだした。
廊下には既に、待ち構えるように数人の〝スナッチャー〟が待ち受けていた。その手に握られているものも、彼女達と同じサブマシンガンだった。
妙だとなつきは思う。少なくとも、マトモな後ろ盾も無いような、〝スナッチャー〟の使えるそれではない。部長であるなつきがゴネにゴネて手に入れた高級品なのだ。
足元を、真横を銃弾が跳ねる。
「どこで手に入れたかは知らないけど……ムカつく」
なつきは手ごろな部屋に飛び込んだ。ロッカールームだ。着替え中だったのか、ズボンを半分下ろしたまま息絶えた男の死体が転がっている。
なつきはそれをひっつかんで廊下に放り投げる。一瞬でそれに無数の穴が開いてどろりと血が地面に広がった。この程度のブラフにも引っかかる間抜けが、私と同じ銃を使っている。なつきの眉根が少し寄った。
なつきは身を乗り出して連射。二点バースト機能で、バカみたいに弾丸を使いはしない。けれども、狙いは定めずに、ひたすら引き金を何度も絞る。
その後ろで、克洋もサブマシンガンを構えていた。光学照準器を覗き込んで、慎重に身体の心中線を狙い撃つ。
たたん。たたん。たたん。と、引き金を絞り続ける度に〝スナッチャー〟に穴が開く。さすがに一発二発でとはいかないけれど、三セットもやればスナッチャーとて耐え切れはしない。
「なつき先輩、もう一人来ます」
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