7 ファブリカ・ダルミ・ピエトロ・ベレッタ
「撃ってみる?」
それはあまりに自然に投げかけられた、人生を左右する問だった。
克洋はなつきと拳銃を交互に見た。ニヤニヤと千尋が自分を見ていた。指の一本一本を絡めるよう、なつきは銃を握らせる
じわりとベレッタを握る手が汗ばんだ。普段なら気持ち悪いと感じる手汗が、今日はどうも心地よく感じた。青春を賭けられるものは、他にはないと思った。
ここで引けなければ、なつきと千尋は自分を見放すだろうという想像がついた。大した気負いも無く、彼女らは出来るのだ。
殺しも、殺させるのも。それが当然の世界で生きているから。
克洋はゆっくりベレッタを持つ手を伸ばす。引き金に指をかける。北野武の演じるヤクザのように。人体工学に基づいた銃は、恐ろしいほど克洋の手に馴染んだ。強化プラスチックの冷たさだけが、それは異物であると伝えている。
克洋の額に汗が滲む。眼を大きく見開いて、息を整える。引き金に少しずつ力を込める度に、呼吸が荒くなる。どくどく。はあはあ。全身のあらゆる細胞を意識出来るような気がした。
ゆっくりと近づいて来る〝スナッチャー〟と、眼が合った。虫のようなそれを見た瞬間、克洋は引き金を引いた。
反動で銃が跳ね上がる。それの目玉が弾け飛んで、動かなくなった。それでも、克洋は何度も引き金を引いた。引くたびに、全能感が湧きあがる。こうも簡単なのかと克洋は思う。こんなに簡単でいいのかと思う。
指にほんのちょっとだけ力を入れれば、人は殺せるのか。
「おめでとう。構え方は修正する必要があるけれど」
握らせる時と同じように、なつきは彼の手からベレッタを取ってホルスターに戻した。
次の瞬間。克洋はやわらかな感触と火薬と清潔な石鹸の匂いに包まれた。一瞬遅れて、なつきに抱擁されているのだと気が付いた。なつきの肩越しに食い殺さんばかりに犬歯を剥き出しにする千尋も忘れ、克洋はその感覚に酔った。
克洋も、彼女達と一緒の場所に来たのだ。
克洋は大きなことを成し遂げた達成感に包まれた。それもひとりではなく、なつきたちと共に。その決断を強いたのは彼女らであるけれども。手口はマインドコントロールとか、カルト宗教のそれだ。そんなことは分かっている。これは儀式だ。
それでもいいと克洋は思った。彼女らとならば何でも出来る。達成感に満たされた。死体まみれのパチンコ屋の中で。
ぬらぬらとした血だまりとジャンクの上で、克洋は思う。
ぼくは、これに青春を注ぐのだ。
「三か月だ。三か月で君を一人前の殺し屋にする」
「それまでにくたばってみなさい。アタシが殺すから」
「……はい!」
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