第11話:夏空の沈黙
私の席の隣人は、私より早く学校に来ている。
その時は大抵本を読んでいるか、
机に伏せてどこか遠くを眺めているかのどちらかだ。
少し早めに学校についても、彼はそこに居る。
「おはよう」
いつも通りの朝。なんてことはない。
いつも通り彼に挨拶をして、いつも通り
バッグを机の横にかけて着席するだけ。
なのにどうして、こんなに気まずいのだろう。
「おはよう。今日の時間割なんだっけ?」
「あーなんだっけ。数Aと英語とー……」
何気ない、普通の会話。だけどそこに
プラスされてる気まずさ。
空は晴れているのに気持ちが晴れないままで。
このままじゃいけないことなんて分かりきっているのに。
私は今きっと上手く表情は作れていない。
「――――出てるよ。顔に全部」
伏せたまま彼は真っ直ぐ何処かを見てそう言った。
その目は何か物事を見据えたような、冷ややかな目で。
いつもの柔らかさの含んだ声はどことなく暗くて、低かった。
思わず私はそんな彼の目から目線を逸らしてしまう。
「……気持ちが、分からないの。
恋とか、そういうの疎いっていうか」
「でも」
彼が何か言おうとしたのを私は遮って話を続けた。
「この気持ちはきっと恋に変わる、って
私は信じてる。だからもう少し……待ってて」
彼は、目を瞑って「いくらでも待つよ」
と答えると顔全体を覆い隠すように伏せた。
八時を知らせるチャイムが教室に響く。
まるでこの重たい空気をかき消すかのように。
――――――この夏空の下、君は今、何を思っているのだろう。
錆びた夏に色を。 @TUBOMIDORI
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