第9話:模範解答

 帰宅したのは午後の九時過ぎだった。

「ただいま」と誰もいない我が家に言っても

当然返事は返ってこない。


 両親は仕事で夜遅くまで働いていて、

一人っ子の私は昔から鍵っ子だった。

 以前に「一人なの? 大変ねえ」と近所のおばさんに何度か声をかけられたことがあったが、

私は一度も首を縦に振ることなく「ママとパパの方が大変だよ」と答えていた気がする。


 風呂から上がっても、なかなかもやもやが晴れないままだった。

自室の明かりをつけた瞬間どっと力が抜けて、ベッドに倒れ込む。

 左手側にある窓が少し開いていて、ゆらゆらとカーテンがうねっていた。


 そして鞄に入れてあったプレゼントのガラス玉の

ストラップをぼーっと眺めてみる。

 眺めてるうちに屋上で彼の言ったことや

抱きしめられたこと、あの言葉の意味とか色々過ぎった。

 そしてあの満天の星空がこのガラス玉に

詰め込まれている様で眺めてても飽きない。


 青いガラス玉は蛍光灯の光で水色に透けていた。

「好き……って何……? 」

 言葉に出しても誰かが答えてくれるはずがない。

何となく心がキリキリと苦しくなってきて

枕をぎゅっと抱きしめて顔をうずめる。


 私のこの好きと、彼の言う好きは同じなのだろうか。

こんな軽い気持ちで彼の言葉に頷いて良いのだろうか。

 彼の“好き”に私はひょっとしたら、応えられないかもしれない。

そう考えると、私は彼の傍にいる資格すら無いんじゃないか。

そんなことを真っ暗に閉ざされた視界の中で考え込んでいて。


 考えても結論が出なくて、知らず知らずの内に私は眠りに落ちていた。

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