第8話:星降る空と君

 それからは、のんびりと星を見て、

先生にバレない様に足音を立てずに古びた校舎を抜けた。

 今日は気分で珍しくバスで登校したから、

星が降る暗い空の下、二人きりで歩いて帰ることになった。

 いつもの畦道を挟む田んぼの水に空が映っていて空中を歩いているような、そんな感覚さえもした。

 沈黙の中、彼が突然「あっ」と声を漏らし足を止める。


「今日確か、流星群が通過するんだよ。ほら」


 指を指す所に視線を向けると確かに星が本当に“降って”いて。

白く眩いその流れ星は幾度も幾度も私達の上を突き抜けていった。

 その瞬間、ふわりと夜風が彼の髪を靡かせる。

「凄く、綺麗でしょ? 」

 そう問う彼に私は「うん」と頷くことしか出来なかった。


「――――萩根さんだからこそ、この景色

 見せてあげたいって思ったんだ。俺」

「え? 」

 空を見上げる彼はそう言って目を瞑りすぅっと息を吸った。

「俺の知っている綺麗な景色を全て見せて

 あげたいって、会った時からそう思った」

 柔らかくて温かいその声が心地よくて、

心の奥底にある“何か”が溶けそうになる。


 この気持ちを“恋”と呼ぶにはきっとまだ遠い。

「私、昴くんがその景色全部

 見せてくれるまでずっと――――」

 だけど、君の傍に居たいってそれだけは強く言える。


 だから言わせてほしい。

「傍に居るよ」

 そう言うと彼は私を自分の方へぐっと引き寄せて私の頭をそっと抱えた。


「……萩根さんのこと、好きじゃダメかな」


 抱きしめたまま彼は低い声で耳元に囁く。

私はそれに言葉で上手く返せなかったけど、

彼の腰に腕を回してきゅっと力を入れた。

 彼の心音が私の耳にとくとくと伝わっていく。

「また、今度……ちゃんと言って欲しい」

 私がそういうと彼は「分かった」と答えて、さっきよりも少し力強く抱きしめた。

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