僕の親友だった、英雄王の話

 僕、アルジェントは今日から日記をつけることにした。自分の身の内話と、世間話、そして研究について。

 研究についての話をする前に、僕の生まれの話をするとしよう。

 僕は、葬儀屋の息子だ。僕の父がしていた葬儀屋を継ぎ、仕事が来たら遺体の埋葬をして指揮をするのが仕事。あまりなる人がいないので、仕事は頻繁にある。まぁ、遺体にも触りたくない人が大半だから厄介ごとを押し付けてどうにかしたい人が多い。

 僕の父はとても変わり者だった。

 そういった仕事を始めたということもそうだけど、僕が生まれてすぐに、僕を連れて家を出て、そのまま旅に出たような人だった。母親にはそのあと会っていない。もし、母親に僕が引き取られていたら女の人がなかなか稼げない時代、貧乏な暮らしだったろうし、それはそれで良かったのかもしれない。

 父は、葬儀屋をしながら魔族の研究をしていた。僕が生まれた時に発見された魔族の世界、リアヴァレトという土地に行き、魔族と交流して文化と知識を知る。

 この国は、カポデリスという国は、リアヴァレトに度々調査隊を派遣している。父はその隊に志願して、リアヴァレトに行っていた。

 その調査隊は、険しい峠を馬で越え、道中の魔物を倒していかなければならない道で、何度も何度も向かった先では、危険なこともあっただろう。

 僕が大人になった年に父は王から認められて、多額のお金を得た。爵位か、お金かと言われてお金を選んだらしい。爵位を選んでいればお金をさらに増やすこともできただろうに、今すぐにでも研究費が欲しかった父はお金を選んだ。そして、研究に没頭しようとした矢先にリアヴァレトの遠征に行き、亡くなった。小さな骨壷に入っていたのは父がいつも持っていたペンダントだけ。

 父はいつも勝手なのだった。

 父が僕に残したものは、大量の魔道書と葬儀屋の跡取り、そしてお金。読めなかった魔道書も父が残したメモを元に読むことができた。それを元に研究を進めようと思う。

 そして、もう一つ父が僕に残したものは――。

「……なぁ、アル。そんなに熱心に書き物をして楽しいか? 俺は暇だなぁ、何もすることがないし」

「だったら、君がいるべき場所に行けばいいのに。今日だったろう? 王様のパーティ。次期男爵家の当主様がこんなところにいていいのかなぁ?」

「俺は別に当主なんてなる気はないよ。そういうのは兄さんがやって、俺は前線で指揮を受けるくらいがちょうどいいよ」

「これだから天才剣士様は……」

 子どもの頃、父がたまに連れて来た少年。父が所属する遠征隊のトップの息子で、今は王から認められた男爵家の三男。王から認められて爵位をもらったのが、彼の父親。

 そんな彼は、僕の幼馴染だ。

 昔は自由の身だったからこそ、家を出入りしていたが、今は爵位もある貴族。あまり市民の家を出入りするのはどうかと思うし、周りの目も痛い。

「俺は、剣の腕が一番上手いからって当主になるのはどうかと思う。兄さんが一番継ぎたいだろうに、それを取っちゃうのは……」

「それでも、君の剣の腕は凄いよ。この前の王前闘技会、優秀な近衛騎士相手にバッタバタッと……負けなしだったでしょ?」

 この天才剣士は自分と同じ歳で、王に認められる男だった。しかし、それに驕ることもなければ、鼻にかけることもなく、ただひたすら稽古に励むような男で、それが更に才能を伸ばす……。

「今度の戦争も、君が将軍でしょう?」

 煮え切らないような顔をして、それを聞く幼馴染であり親友。

 不幸なことは、その才能を彼自身は求めてはいないということで、彼は平凡に過ごしたいだけなのだろうということだった。


 これは、このカポデリスが周りの国々を従える大国になる前のお話。のちに「英雄王」と呼ばれる百戦錬磨の戦略王と、僕のお話である。



「ジャック様! ジャック・フェレッティ様! ここにいらしたのですか、早く王宮にお戻りください! 貴方の兄上様が探しておられます!」

「……よく見つけたな……というか、様付けはやめてくれよ。俺、様付け嫌いなんだよ。ただのジャックでいいよ。様付けは、」

「はい! ジャック様!」

 呆れた顔の彼の顔。様付けが苦手らしい。それじゃ貴族なんて肌に合わないはずだ。




 2018/11/10 書き下ろし

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