騎士として、親友として Ⅴ

「……そんなことがあり得るのかよ」

「そうだ。だから私は何年もあの子を捜していたのだ。君には感謝している」

 アルバートはジェイムズの顔を覗き込んだ。嘘を言っているようには到底思えない。

「本当か?」

「そうだ」

「お前はジャックの味方なのか」

「……そうだよ」

 アルバートは肩の力をふっと抜く。

「それよりも」

 ジェイムズはアルバートを見ながらククッと笑い始める。

「『お前』とか敬語なしで話されたのは久しぶりだ……。とても楽しかったよ。――昔に戻った気分だ」

 アルバートはそれを聞いて、しまったと思った。

「敬語っ……」

 すっかり忘れていた。敬語なんて使う機会がほとんどないからだ。

「しまった」

「いいよ。許そう。それに君には、ジャックの友人として、俺も『自分の子どもの友人』として接したいのだ」

 ジェイムズはまたククッと笑っていた。

「護衛、してくれるかい」

 ジェイムズが聞く。

「……三食昼寝付き、有給あり、休日は二日、外出は自由、ジャックと遊ぶのを許してくれれば」

 ジェイムズはそれを聞いてまた笑った。

「ジャックの剣の稽古は私がつけようと思っている。君もよければ剣を見てあげる。その間も護衛を頼むよ」

 契約成立だ。

「なんで、俺に護衛を頼むんだ?」

 疑問に思っていたことだ。

「私は、あの子を十四間もほっぽっていたダメな父親だ。だから、その十四間付き合っていた君から、あの子が貴族だからといって引き離したくはなかった。私の周りに付けているものを護衛につけてもよかった。でも、それよりは知っている仲良い者をつけた方が良い。……自由を奪いたくなかったのだ」

 ジェイムズは最後の言葉を重々しく告げた。

「私はね、自由ではなかったから。自由にしたら、兄が怒ってあんなことをした。彼女と婚姻したことは……、俺は後悔していない。でも、子ども達だけは守らなければならなかった。私が自由を貫けなかった罰なのだから」

 アルバートは思っていた。この人は貴族なのに貴族っぽい威張った風がない。気弱そうで、大人しそうな子どもを大切にするただの父親なのである。

「結婚した人は今、どこに?」

「……生きてどこかにいる、分かっているのはそれだけだ」

 ジェイムズはアルバートの問いにこう返す。

「さて、君の部屋はジャックの隣にしよう。離れの部屋になるが、勝手はいいから気にいると思う。そして、君だけは私に敬語を使わなくてもいいことにする。私もその方が話しやすいからね。必ず我が息子を……、守りきれ、偉大なる騎士様よ」

 ジェイムズはアルバートにウインクを一つ。

「うん!」

 騎士様、と呼ばれた事に少しだけ照れが出る。

「そう決まったなら、ほら行った、行った! 息子を一人にしないこと。君のこともちゃんと教育するから、必ず息子と一緒に私の所に来る事。いいね?」

 ジェイムズが手を叩くと、アルバートは彼と共にジャックの所に向かった。自分の部屋の隣、そこにいる親友に向かって。

「ジャック! ジャックゥ!」

「なんだよ、ウワァッ!!」

 ジャックは慌てた声を出す。とっても嬉しかった。

「俺、お前と年中遊べるようになった!」

 と――。

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