低身長童顔執事Ⅱ

「お前さ、カポデリスでは黒猫なんじゃなかったっけ。月光瓶効果? 猫なら抱っこして連れて歩こうと思ったのに。それか首輪とリードする?」


 ロドルは露骨に嫌そうな顔をした。


「嫌だ。というか首締められるのが嫌なの、知ってるだろ?」


「うんにゃ、冗談だ」


 ロドルは散らばった本を並べる。アルバートもそれを手伝った。


「そういえばお前。その服、燕尾服じゃないんだな」


「あー、この前買ったやつ。ちょっと古いかな?」


「いつのだ」


「百年前のやつ」


「この前の基準がおかしい」


「いやぁ。いつもの燕尾服にフロックコート合わせてもよかったよ? でもたまにはコレ出さないとさ」


 ロドルはその燕尾服にフロックコートの合わせである。この燕尾服はネクタイで首回りを締めているが、彼は最近リボンタイの方が多い。彼の胸の辺りにそれがあるのだ。


「型が古いかもなぁ。ここのクローゼットになんか入ってたっけ」


「もう型崩れ? 時代の流れって早いな……」


「僕らが長生きなのが悪いんだよ。普通は百年前の服が型崩れする事なんてなかなかない」


 ロドルは部屋の奥に消えた。もぞもぞ音がしてから「ヒィッ」という悲鳴が聞こえ、物が落ちる音がした。


「大丈夫か?」


「助けて!」


 ロドルはクローゼットから溢れ出た服の下敷きになっていた。


 この家はロドルがカポデリスで秘密裏に借りている部屋である。借りたのは随分昔で、この家も何度か焼失している。が、建て直されるたびに同じ部屋を借りている。ロドルが魔王城に置いたらまずいものをここに置いている。


「あー、そこって俺らの服とか置いていた場所?」


「助けてください」


 服の下から声が聞こえた。


「助けるけどさ。腕を引っ張るぞ」


 アルバートは下敷きになったロドルの、辛うじて出た腕を持つ。


「腕引きちぎれる、千切れる!」


「我慢しろよ」


「痛いッ、乱暴にしないで!」


「なんか勘違いされるから、そんなこと言うなよ」


 ロドルはアルバートに腕を引っ張られ、ようやく服の下から這い出た。髪がぐしゃぐしゃになっているのは多分いつもの事。


「古い服ばっかだな。博物館に展示するレベルだ。お前、そんなのも取ってあったの?」


 昔使っていた腰に長剣を下げる為の腰巻もあった。もう今の時代身につけている人はいないだろうもの。なぜか女性もののドレスもある。


「……お前……まさか、連れ込んだ?」


 アルバートは指でそれを摘む。


「……つ、連れ込んでない! と、というかそんなの見つけんな!」


 ロドルはそれを隠すように庇う。首を振って完全否定。だが、その目には確かに動揺が映っていた。


「はい、吐こうか」


「な、何すッ」


 アルバートは素早くロドルの後ろに回り込み、彼の足を引っ掛け倒す。ロドルはバランスを崩して地面に叩きつけられ、アルバートはその上に乗った。両腕をロドルの後ろで掴んで拘束する。


「はい、ジャックちゃん。吐こうね。あのドレスは誰の物かな? まさか自分のものとか言わないよねぇ」


「……僕の」


「あらぁ、君にそんな趣味でも? いい女の人がいたんじゃないのぉ?」


 ロドルは汗水ダラダラ。


「む、昔の……」


「あらぁ、その人はどうしたの?」


「アルバート……てめぇ、分かってるくせに! 僕だって。僕だって、だってぇ……っ!」


 ロドルの声が震えてくる。


「僕だって男なのにぃ!」


「よーし、白状したねぇ。良い子、良い子」


 ロドルは足をバタバタさせる。悔しそうな顔が垣間見えて、アルバートは満足そうにニヤリと笑った。


「屈辱だぁ!」


「お前が昔の人のドレスを隠し持っているのが悪い」


「昔の人じゃないもん……契約者だもん。家に来た時に置いてったものがそこにあるだけだもん」


 家に来て服を置いていく。それがどういう事なのかアルバートは首を傾げた。


「というかお前って奴は本当……皇女にバラすぞ」


「デファンスは関係ないだろ!?」


 いーや、一番の問題はそれだろうに。

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