低身長童顔執事Ⅰ
「アールーバートー」
「うるさいぞ」
「よく座って寝られるなぁ」
「お前もよくうっすい毛布で爆睡できるな」
そういえば思ったが、こいつの寝つきの良さは十六や十七歳くらいのそれなのだろう。動いた分だけ寝る。
羨ましい。実に羨ましい。
「座ったまま寝るのは仕事でよくしてたからなぁ。慣れたんだ」
お子ちゃまのこいつとは違う。
「僕も机に伏して寝ることあるけど、体バッキバキにならない?」
なる。しかも年齢分、更に辛い。
「痛いっ」
「なんかむかつく」
「痛いの!」
アルバートがロドルの頭を叩く。痛そうに頭を押さえている。
「……若さよこせ」
「理不尽だ! 大人になれただけいいだろ!」
「……」
いきなり起こされたからか、その腹いせをしたくなる。
「いひゃい」
アルバートはロドルの柔らかい頬っぺたをグニグニと弄くる。目に涙を溜めて、若干彼の足が浮いているのは、彼の身長が低いからである。
「寝惚けているのか!?」
「寝惚けてねぇよ」
と、いいながらも続けるアルバート。
「やめろって言ってるだろ!」
「お子ちゃまは黙って大人の言うこと聞きなさい」
ロドルが嫌々頭を振り払うが、身長差的に無駄な足掻き。
「お子ちゃまって僕ら同じ年なんだけど!」
「見た目はお子ちゃまだぞ、お前」
「いひゃいっていっひぇるだろにぃ」
何語だ。手を離すとロドルは不機嫌そうにむくれている。頭から蒸気でも出ているみたいな。
「むぅ……」
「むくれるなよ。本は運んでやるから、な? だってぷにぷにで気持ちいんだもの」
「なら早く運べよ」
ご機嫌斜めだ。
ロドルは本をひとまず魔王城の外にある自分の秘密基地に魔法陣で移動させた。こいつが作った異空間みたいなもので、よくこいつがカポデリスの食材を運ぶときに使っている。
ロドルは次に地面に魔法陣を書き、本やその他のものを全てその中に置く。
「アルバも入って」
自分の身をその円の中に入れて、ロドルは目を瞑る。
呪文はこうだ。
「……我が身に与えよ、我が真名に、我が身に仕えよ。我、若き信徒なり、我が身に与えよ」
出した剣で地面の魔法陣を突き刺すと一瞬で飛べるのだ。
「うわっ」
「痛いっ」
移動した先は部屋の中だった。アルバートは空中で本をキャッチしたが、背が低いこいつの頭には本が一冊落ちてきたようでしばらく地面で転がり回っていた。
「痛い痛い痛い!」
「大丈夫か?」
「大丈夫じゃないよ、もう!」
身長が低いのは大変そうだな、とアルバートは他人事のように思っていた。本当に他人事なのだから、軽薄なわけではない。本当に他人事なのだ。
「冷やすか?」
「いい。ちょっと失敗しただけなんだから。重量を見誤ったんだ」
なるほど、だから空中に本が投げ出される形になったのか。
「よしよし。痛いの、痛いの、飛んでいけー」
「子ども扱いをするな!」
反応が面白いからなぁ。
アルバートはこの部屋の台所に行き、冷やしたタオルをロドルの元に持って行った。
「たんこぶ出来るから冷やせ、な?」
「ん……」
ロドルはタオルを顔に押し付ける。
「アルバート。てっめぇ、タオル絞れてなくてびちょびちょじゃねぇか」
「よっしゃ、引っかかった!」
「てっめぇ、僕をおちょくるのも大概にしろよ!?」
顔を上げたロドルの顔は水で濡れていた。アルバートは絞ったと見せかけて全く絞らず渡したのである。
「まぁまぁ、ジャックちゃーん。顔拭いて早く出かけようぜ。髪結んでほら」
「そう言いながら髪留め解くんじゃねぇ!」
ロドルは半泣きだ。
「ほらほら、可愛ーいリボンだよ〜」
「アルバ、嫌いもう」
アルバートが手に取るのは真っ赤なサテンのリボン。それを髪留めが解けてバラバラになった髪束に結んだ。
「ほーら、可愛い」
「嫌もう」
むっと脹れるロドル。まぁまぁとなだめるアルバート。こういう時、日頃周りの後輩使用人に「鬼の執事長」と言われる凄みはない。仕事に厳しく、剣術では負け知らず。
そんな彼の素顔はこんなもんである。
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