永遠の男子高校生の日常Ⅵ

「ほら出来た」


「……まぁ、悪くない」


 鏡を見るロドルは一言。――その時だった。


『ロードールー! いるんでしょ! 帰ってきたのにお迎えがなかったわよ!』


 声と共にドアを叩く重低音。


「もしや?」


「もしかしなくても皇女様だね」


 ロドルはアルバートに黙っているように小声で告げて、魔法陣の上に立った。外に出て、皇女デファンスに声をかける。


「デファンス」


「ヒヤァッ!」


「……ごめん。でも毎回その反応はさすがに傷つく」


 デファンスの前に出たロドルは、そんなことを言ってから彼女に跪いた。


「すみません。部屋で休んでいました。お迎えできずに申し訳有りません、デファンス様」


「そんなことはいいのよ。……あら」


 デファンスはロドルの髪型を見た。


「あら。可愛いリボンをしているのね」


「あー、これですか」


 デファンスはロドルが膝をついているのをいいことに、じろじろ見ていた。ロドルは恥ずかしくなって、デファンスから顔を背け続けていた。


「そんなの持っていたっけ」


「隠していたやつですよ。着せ替え人形にされるよりはマシです」


「……着せ替え人形?」


「失敬。失言しました」


 ロドルは部屋の壁の奥でクスクスと笑う声を聞いた。


 その声はおそらくデファンスには聞こえていない。


「そういえば貴方も見なかったけど、アルバートも見なかったわよ。下で調理長がご立腹よ」


「……そうですか」


 アルバートは後で怒られるようだ。


「僕も後で行きます、では少し部屋で片付ける事があるのでデファンス様は部屋へお戻りください」


「ええ。ありがとう」


 ロドルが部屋に戻ろうとした時だった。デファンスは何か思い出したように振り返る。


「あとそのリボンよく似合っているわよ。貴方の黒い髪にとても映えてる」


「……ありがとうございます。僕の親友にもらった宝物なんです」


 ――ロドルは後半を小さな声で呟いた。


 ロドルが部屋の中に戻るとアルバートはロドルに、突拍子もなくこんな事を言った。


「お前さ、なんでドア埋めちゃったの?」


「今更か?」


「いや、この部屋に一人でいて思ったんだけどやっぱりおかしいよ。そこまでしなくてもよかったじゃん? ドアなら鍵かければいい。この部屋は窓が一個しかないし空気も悪い。こんな部屋にいたら気が滅入ると思うんだけど。なんか……監禁部屋みたいで」


 ロドルはカップに残っていた紅茶を飲み干した。


「監禁部屋ね」


「お前さ、やっぱりアレ……」


「それ以上言うな」


「アレがなきゃお前はここまで狂わなかったと思うんだよ」


「言うな!」


 ロドルが叫ぶとアルバートは怯む。怯えた目でロドルの顔を見て、地面に目を落とした。


「この部屋を見られたくないからだ。僕が何を研究しているのかお前は知ってる。何を調べているのかも知ってる。アルバート、君にしか話してないからだ。僕は狂ってなんかない。絶対に狂ってなんかない!」


「……狂ってるよ」


「じゃあ、僕について来なくてもよかったはずだ。僕の十字架を君が背負わなくてもよかったはず。死んだ後に魔族になって僕について来なくてもよかったん……」


 ロドルはアルバートの顔を見た。


「お前がどこまでも行っちゃうから、俺は追いかけてるんだ。お前は弱虫のくせに自分でなんでも抱えようとするから」


 アルバートはロドルの手からカップを取って自分のカップと重ねる。カップはカチャリと音を立てた。


「何百年、お前と一緒にいると思ってるんだよ。お前が大変だったら助けてやるって誓っただろ」


 アルバートはロドルの頭に手を置く。


「それより、仕事終わったらお前が酒奢れよ」


「はぁっ!?」


「だってー、お茶に何かヤッバァイものが入ってたのは事実だしぃ。賭けは俺の勝ちってことで」


「あれはっ、違うだろ。僕は認めないぞ!」


 その後、仕事が終わった二人が深夜に城を抜けて出かけて行ったのはまた今度の話。仲が良い幼馴染の、たわいのない会話は今日も繰り返されることだろう。


 お互いに秘密を共有する彼らの昔話はまた今度。










 A.A.1367.5.15






―――――――――――――――――――――

 平成二十八年四月七日書きおろし

 令和三年八月二十五日修正


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