Ep.22 性格は悪魔Ⅰ
「クリム君、分かりマシたか?」
「あぁ」
ロドルは向かい合ってアスルの顔を見た。さっきデファンスに紹介した通り、彼は天使で僕のお世話係だった。
この世界において天使というのは(他にも色々分類があるのだが)、神に仕えこの世に留まる死霊に安寧と救いを与えるサポーターである。そういう意味でお世話係なのだ。
そしてもう一つ、サポーターたる天使は死霊のお世話係にして監視役。そういう天使を指導霊という。
堕ちた死霊を葬り去る――狩人。
「なぜそれを僕に」
僕に依頼しなくともいい内容だ。誰だとしてもできるだろう。アスルは天を指差し、こう答えた。
「黒と青は空で相容れまセン。混ざることもない、噛み合わないんデスよ」
この男はなんだかんだと理由をつけて、僕にこの仕事を頼みたいらしい。
「その点、赤と黒なら血のように真っ赤な夕陽デスね……」
アスルはニコッと笑った。
物騒なことを言いながら、にっこりと営業スマイルを浮かべるアスルはその辺りの悪魔よりもタチが悪い。
「僕は逆らうことはできない。僕の契約書を持っている限り僕の動きは監視されているだろうし」
死霊が天に還るまでサポートを――。契約書の基本事項。
契約書がある限り、僕に自由などあり得ない。
「御名答、よく分かっていらっしゃいマスねぇ」
それを分かっていて頼んでいるのだろうに。
「悪魔」
「いえいえ、私は天使デス」
「なっ!」
「そもそもー、この天との契約書を破棄してしまえば貴方に魔法陣は使えまセンよ?」
アスルがピラリと一枚の紙を見せる。
そこには僕の――名前と血判。
「それは分かっているけど……」
「あぁ、正確には使えても攻撃力にはなりまセンね! アハハッ! 失敬、失敬」
モゴモゴと口元を動かしたが、どうやら僕に勝ち目はない。昔からこの人との話し合いは圧倒的に彼の勝ち。
「分かりマシたか? いずれ天に帰りなサイ。否が応でも貴方を連れ帰る義務が私にはありマス」
「なら、僕の契約書を破棄してもいいのに……」
魔法陣が無くてもなんとかなる。アスルはそうするつもりはないだろう。普通ならもう破棄されている。なのに、この男はそれをせず僕を監視している。
彼の趣味が悪いから、これ以外の理由はあるだろうか。
「貴方が天使じゃなくなったら、貴方はただの悪魔デス」
アスルの顔が少し悲しそうに見えたのは気のせいだろうか。
「まぁ、契約書を破棄しなければクリム君のところにいつでも遊びに来ることが出来マスからね。いじめる相手がいなくなるのは少し寂しいデス」
前言撤回。やっぱりこいつは天使じゃなくて悪魔だ。
ロドルが心の中で悪態をついていると、アスルは急に思い出したように、こう切り出した。
「あ、それより、クリム君」
「えっとなに」
「前みたいに名前で呼んでくれないんデスか。今でも思い出しマスよ、クリム君が名前を呼んで走ってくる所を」
アスルはニコッと笑い、ロドルの肩に手を乗せた。段々と圧がかかってくる。笑顔は変わらないので威圧というか、不気味だ。絶対、楽しんでるだろこの男!
「あの、痛いです、ア……アスルさん」
ロドルがやっとの思いで絞り出すと、
「よく出来ました。やっぱりクリム君はそうでないと。素直な良い子デス」
パッと手を離し、また普通の笑顔に戻った。
「それとこの契約書に追加事項がありますのでサインお願いしマス」
アスルは何処からか一枚の紙を取り出した。
「え! この前、書いたんじゃ……」
「うーん、君が教会襲撃したり、魔王城で色々したりするからそれの反省文を書きなサイって神様から命令デス」
「あのおじさんまだ現役なのね……」
「ピンピンしてマス。ありゃ毒盛っても死にそうにないデスね。ま! 神様死にまセンけど!」
側から聞かれて全く笑えないジョーク。天使だからこそ分かるネタ。アハハッ、と笑うアスルが一番笑えない。
「まぁ、君はお気に入りなので謀反が無い限り契約書の破棄は無いデス。貴方は役目を終えるまで神様のものデスから。契約書が無いと管理するのも大変ですし、破棄したら貴方が生きていた証拠を全て消さなければなりまセンし、それが面倒なんデス」
ロドルは少し眉を顰めた。
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