Ep.14 Thé de sorcièreⅢ
「掴まえた」
ロドルの顔が既に蒼ざめている。
そして、彼の手首を掴んだまま店の一番奥の部屋に駆け込んで行った。ロドルは手首を掴まれたまま引きずられて行き、無情にもドアは閉められた。
「アンジュ! ちょっと待て! 落ち着け、落ち着け。深呼吸して落ち着け」
「だってぇ。久しぶりの再会でしょ? じっくり味わおうと思ってねぇ」
「ヒィッ! ……僕は君の餌か! 君にやる血はないぞ!」
「だって美味しそうだし」
「美味しいとか美味しくないとかそういうのは僕には関係ないよ! 飲まれる僕の身にもなれ!」
「もう! 美味しそうな匂いがする血をみすみす逃すと思って!? いいでしょ? 一滴だけ! 一滴だけだから!」
「一滴だけで済んだ試しがないよ!」
ドアの向こうで何が起こっているのかは想像したくもないが、かなりの剣幕。阿鼻叫喚。ロドルの声は半分悲鳴だ。
「なんでドアが開かない!?」
「ふふっ、この部屋はちょっと特製品でね? 魔法で開かなくしたの。あと、地面には束縛の陣が数個あるのよ。だから動けば動くほどかかりやすくなるってワケ。素敵でしょ? 貴方が来るって聞いたから準備してみたの!」
「要らないよ! そんな気遣い!」
そのうち「うっ……」という呻き声と共にロドルの声が聞こえなくなった。
そして、バタバタっという音と共にドアが開く。
「ナンシー! 倉庫から包帯と注射針を持ってきてくれるー?」
デファンスは女の人がドアを開けたと同時に一瞬のスキを突き部屋に走り込んだ。
「あ!」
女の人は不意を突かれ尻餅をつく。
「ロドルっ……!」
ロドルは部屋の中心に居た。部屋はそんなに広いわけでもない。が、狭いわけでもない部屋だった。家具といえば簡易ベッドと小さな棚ぐらい。閑散とした部屋のほぼ中心に彼はいた。
「ロドル?」
地面に座っていて腕はだらり。首から上も力無く顔が見えない。駈け寄って前に座って揺すってみたが、呼んでも返事は無かった。
「まさか死んっ……」
と思った時、ロドルの身体は崩れ、デファンスの方にもたれかかった。
「ふぇ!? ……ちょっ」
目の先に彼の首筋がある。
どういう状態!? どういう状態なの!?
頭の中が動転する。
「心配しなくても大丈夫よ。寝ているだけだから」
え? と思った時「すぅ」と寝息が聞こえた。よく見るとロドルの目が閉じていて、すぅすぅと寝息を立てている。
「私に血を吸われた子はみんな寝ちゃうのよね。癒し効果でもあるのかしら」
首筋には二個、不自然な穴があった。
「ロドルに何をしたんですか?」
「さっき言った通りよ。血を吸ったの」
確かにこの女の人は言っていた。それならこの人は吸血鬼なのだろうか。吸血鬼に血を吸われた人は吸血鬼になるのではなかったっけ。それならロドルの身が危ない。
だが、女の人は至って冷静だった。
「大丈夫。吸血鬼に血を吸われたと聞いて、想像するようなことは起こらない。血を吸ったぐらいで吸血鬼になったらこの世は吸血鬼だらけよ」
「でも!」
確かにそうだろうけど。
「それに。………例えこの子に私が術を仕掛けようとしても――この子には効かないのよ」
女の人は一瞬だけ不穏な顔をした。
「ナンシー? この子をベッドに寝かせるまでにさっきのやつ持ってきてね」
女の人は廊下の方に声をかけた。
そして、デファンスに見合う。
「ちょっと手伝ってくれないかしら」
指差す先にはロドルがいた。まだ起きる気配はなく、ぐったりとしている。
ひとまず従うしかなさそうだ。
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