Ep.14 Thé de sorcièreⅡ

「お坊ちゃん」


「……何? 君が毒入れてるわけないだろ」


「そんなに喉が渇いていらっしゃったのですか?」


「悪いのか」


 信用はしている間柄なのかもしれない。


「お嬢様もどうぞお飲みくださいませ。決して毒など入っていませんわ」


 この店独特のジョークなのか。


「……まぁ、もし毒が入っていても僕は死なないけどな。飲んで苦しい思いはするけど」


 ロドルがこう呟いたが、デファンスには聞こえなかった。ロドルの呟きよりも大きな声で(いや、ロドルの呟きがとびきり小さかっただけでナンシーの声は普通だったのだが)ナンシーがこう呟いたからだ。


「私もそうですねぇ。死んでいますし」


 ナンシーはなんでもないようにその言葉を言った。


「死んでる!?」


 デファンスの叫び声に二人は目を丸くした。ロドルは暫くしてニヤリと意地悪そうに笑ったが、ナンシーはその場でおろおろしている。


「言ってなかったな。こいつは幽霊なんだよ。生前、使用人として貴族に仕えていたんだが、ある日、主人に歯向かって毒殺されてしまってね。それ以来この辺りを彷徨ってるワケ」


「私は正しい事を述べたまでですわ。それで逆上されるなんて思ってもみませんでしたのよ!? だって、おぼっ……」


「おっとそこまでだよ」


 ナンシーの言葉をロドルは遮る。


 それ以上はダメ、そうですかぁ、二人は暫く言い合いをするが、デファンスには聞こえなかった。


 デファンスはだんだんその様子になんとなく疎外感を感じた。私の知らないことを知っている二人がいる。きっと私が知らないロドルのこともナンシーは知っているのかもしれない。


 そう思うとなんとなく。


 さっきのフィオとロドルの会話を聞いていた時と同じだ。


 もやもやする。


「お嬢さん、可愛らしいですね。お坊ちゃんのガールフレンドかなにかですか?」


 突然そう聞かれ私は戸惑ってしまった。ロドルとの関係は主人と従者ではあるがそれを言うと私が皇女だという事がバレてしまう。


 私が黙っていると「友達だ」とロドルが助け舟を出す。ナンシーの興味は逸れたようだったが、同時に『友達か』と思ってしまう。なんだろうか。


「それにしてもお坊ちゃんが女の子を連れてくるなんて久しぶりですね。数百年前はしょっちゅうじゃなかったですか」


「ちょっと待て。一瞬で僕が女の子をたぶらかして連れ回してると似たような言い方に聞こえたぞ」


 ナンシーは小さく舌を出した。


「お坊ちゃんがそうしなければならなかった理由を、私は十分承知しておりますので。このお嬢さんは魔族でしょうから、その目的ではないでしょう」


「なんで私が魔族だと?」


 まだ何も言ってなかったはずだ。もう一度口を開こうとした時、店の奥から物凄い騒音が聞こえた。


 そして、



「ヒィッ!」


 叫んだのは背の高い女の人、悲鳴をあげたのはロドルだ。


 ロドルをと呼んだ女の人は、ロドルに向かって一直線に走り、彼の手首を掴みニヤッと笑った。

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