僕がこの世で一番嫌いな日にⅣ‐①

「助かりました。僕だけじゃ運びきれなかったでしょうから」


 ロドルは木箱を抱えこちらに一つ渡した。紙袋に入った野菜や果物。ロドルの箱には瓶類がちらりと見えた。


「このぐらいなら持てますよね」


 明らかにロドルの方が重いはずなのに。


「あの人は?」


「前クローチェに紹介された方です。いちいち買いに行くのも限界になってきたので……前は全て魔法陣で送ってましたが、人に見られると厄介でしたから」


 この方法なら魔法陣を使わなくてもいいので、とロドルが魔王城の玄関をくぐりながら説明した。


「ですが、いつも持ってきてもらうわけにはいかないので重いものや調味料など、生鮮食料品のみですけどね」


 倉庫の中に入りごそごそとする。出てきた時、ロドルの額には少し汗が光っていた。


「ふぅ、ありがとうございます」


 その後はロドルが調理場に行き、口を押さえながら出てきた。そのままお手洗いに直行する。周りの使用人に聞くといつもの事と笑っていた。


 ロドルはディナーの時にダイニングに居ない。


 聞いた話によると魔族のくせに魔族の食事が一切食べられないらしい。倉庫が分かれているのもロドル用と一般用としているからかもしれない。憶測ではあるがきっとそうだろう。


 今夜は目玉のスープとヤギの丸ごと包み焼き。美味しいのに勿体無いなぁ。何が苦手なのだろう。


 ディナーが終わるとロドルを探した。ロドルは誰もいなくなった調理場にいた。




 ◇◆◇◆◇




「ロドル!」


 僕――ロドルは、声をかけられ振り返った。デファンスが笑顔でそこにいて、手を後ろに回している。


 なんとなく嫌な予感がした。


「なんですか……?」


「これなんだ!?」


「うわぁっ!」


 デファンスが持っていた瓶の中に、うごうごと蠢く何かがあった。目玉だけの生命体。ギョロギョロと目が動く。


「……やめてください、本当に。皇女様でも許しませんよ……オエッ」


 気持ち悪い。


 なんでそんな濡れているのさ!


「ロドル苦手かなぁーと思って。大丈夫ー?」


「大丈夫か聞くんなら、それしまってください!」


 コップに水を汲み一気に飲み干した。


 これで治ったはず。


「魔族になったのは随分前ですが……それだけは無理です……」


 デファンスに聞こえないように呟いた。生理的に無理だ。


 生まれついてから魔族のデファンスには分からないだろうが、元々人間の僕は魔族と感性が合わないのかもしれない。


 デファンスは首を傾げた後、それを隠した。


 水をもう一口飲むと更に良くなった。


「なんですか。僕にそれを見せて日頃の仕返しをしに来たんですか?」


 確かに苦手だけれど。それだけをしに来たわけではないことはデファンスの行動をよく見ていれば分かる。


 案の定、


「いいえ。ちょっと暇になったし、貴方を一日中追いかけてたから、お詫びに貴方の好きな事を最後にしようと思って……」


 デファンスは僕の服の裾を握った。


「あの、僕の好きな事ってなんですか。それって皇女様が今左手に持っているトランプの事ですか?」


「構わない?」


「それはいいですけど……」


 それをする前にちょっとすることがある。


 なぜ調理場に居るのか。


「僕の夕食を済ませてからでお願いします。使用人の食事は主人より後に。これが鉄則ですから」


 執事である限り心得ている事だ。


 材料は持ってきているので後は作るだけ。すぐに出来そうだ。デファンスを調理場の椅子に座らせて準備に取り掛かる。


 まず、食パンの耳をカット。耳は明日の軽食にするので袋に入れておく。フライパンに油を回し入れ、切っておいたベーコンを入れ、その上に卵を落とす。焼けたらパンに挟んで半分の三角形に切る。


 他にもいろんな具材を入れるとサンドイッチの完成。


「ほら、目玉のスープより、こっちの目玉の方が美味しそうでしょう?」


 デファンスは頷いた。


 右手にトレーを持って、左手にカップを掴んだ。

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