僕がこの世で一番嫌いな日にⅣ‐②

「ダイニングでトランプしましょう」


 慣れたものだ。そりゃずっとやっていればそうだろうけど。


 デファンスが奥に座ったので、その向かいに座った。お茶の準備をしている間に、どこから匂いを嗅ぎつけてきたのか声が聞こえた。


「あれ! ロドル! また作ったの?」


 そこにいたのはメーアだった。


 唾液をじゅるりとさせ、サンドイッチに目が釘づけ。


「僕の夕食です! メーア様はもう食べたでしょう……目玉のスープとか!」


 メーアは納得いかないと言ったように頬を膨らませる。こんな事ならもう少し作っておけばよかった。メーアが隙をついて一つ食べてしまった。


 その後も続々と使用人達が入ってきた。


「デファンス様ぁー、よろしければ俺たちもトランプ混ぜてくださいー」


 デファンスがみんな許可したおかげで、ダイニングは人で溢れかえる。こんなんじゃ、トランプが出来ないじゃないか。


「仕方ない、僕がディーラーやろうか」


「えぇー! 貴方が居ないと誘った意味が無いじゃない……」


 デファンスはしょんぼりしている。二人ならともかく、こんなに大人数なら僕の一人勝ちに決まっている。だからこれでいい。


 そう思った時だった。


「じゃあ、トップは何でも願いを叶えてあげる。食べたいものでも、欲しいものでも。出来る限りのことね。……もちろん有休とか」


 メーアがニヤリと笑った。


「じゃあ、やります」


「えぇっ!?」


「構いませんよね?」


 カードを人数分配り終える。


「デファンス様のお好きなゲームで。ポーカー、大富豪、ダウト、ブラックジャック、ババ抜き、七並べ、なんでもどうぞ」


 デファンスは少し考えた後、声を高々と上げた。


「……じゃあポーカーで!」


 デファンスの声で始まった。順々にカードを引いていく。他のプレイヤーもしかり。しばらくして四ターン目になった時だ。


「ツーペア」使用人の男が言った。


「俺はスリーカード」二人目。


「ワンペア……」デファンスの声。


「やった! ストレート!」


 メーアの声。勝ち誇ったような顔のメーアに、拍手がわいた。勝ったのはメーア。誰もが思った時だった。


「……僕の勝ちですね。ストレートフラッシュ」


 クラブのカードが続き数字五枚で綺麗に並んでいた。


「はぁっ!?  ……じゃあ次ダウトで」


 またカードを配った。サンドイッチにしてよかった。カードゲームにぴったりの夕食だ。これは元々トランプゲーム好きの貴族が由来の食べ物。この場に合わないはずがない。


 配ってしばらく。


「ダウト。今のカード捲ってください」


「ロドルさん!? なんで分かるんですか!」


 こんなもんはカンに決まってる。目線の動きとか言う奴もいるが、みんなそんな風に装っているのだから違いはない。


「僕は上がり」


「ダウト!」


「ふふっ……デファンス様ぁ、そんな事言っていいんですかぁ?」


「……ダウト!」


 カード捲るとデファンスの血の気が引いた。


「ジャックですよね? このカードは何番ですか?」


 ジャックのクラブ。完全勝利。


 周りはまだカードがかなり残っている。


 悔しそうな顔が垣間見える。


「なんでそんなに早いの……」


 コツは人数から出すべきカードを予測して、なるべく間違ったカードは出さない。そして一番疑わられる最後のカードは数手先を読み置いておく。間違ったカードを出した時に疑わられたら少しカマをかけてみるのも戦略だと思うが。


 周りのプレイヤーの性格、自分のカードからの予測でダウトにかける。例えば自分の場にクイーンが四枚あったとしたら、周りのものが持てるわけがない。その時にクイーンの場にカードを出したらそいつは間違ったカードを出していることになる。


 ダウトは僕が思うに心理戦ではない。確率が高いか低いかを見極める確率論のゲーム。頭で考えていれば誰でも勝てる。


「……うぐっ……ババ抜きで!」


 デファンスは苦しそうだ。さっきから僕の独走だからか。


「あの、終わりました」


 初めから四枚しか手元になかった手札はもうない。


「はぁっ!?」


「すみません。ディーラーやりますね」


 後はほとんど立ってカードを回す係りをしていた。


 トップは間違いなく僕が貰っただろう。デファンスには悪いが、ここは勝たせてもらおう。


「僕がディーラーやるので、ブラックジャックやりましょうか。デファンス様は少し休んだ方がいいですよ」


 デファンスの前にお茶を置いて、カードをシャッフルする。メーアも遠慮したから使用人だけのゲーム。こんなことになるのも慣れたもの。

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