本編

Ep.00 序章――二番目の革命者

『×××君。今日からここが貴方の家です。貴方を養子として引き取るのです』


 あぁ、またあの夢だ。


 今より幼い僕が目をキラキラさせてそこに立っている。まだ何にも知らずにいた。なぜここに来たのかも知らず、無邪気に明日から「ご飯の心配をしなくて済む」なんて考えて。


 あの時の僕は無知だった。


『×××。これをお前に授ける。これが我が家に伝わる力』


 初めてソレを見たのはこの時だ。今は容易く使えるけど、その時はまだ何にも知らなかった。


『旦那様から×××様にお話があると』


 僕はずっと分からなかった。何でこの家に呼ばれたのか、何で今更連れ戻したのか。養子などと遠回りをして。


『ねぇ、まだ分からないの? なんで貴方がここに来たのか。貴方がこの家でどんな意味をなすのか』


『誰とはなんじゃこのガキ! お前かこの家を狂わせた忌み子は!』


 僕は忌むべき存在で。


『十四年前消えた男の子とは……』


 僕はこの身に流れる血の所為で。


『二度とその顔を見せるな。悪魔の血が混ざった穢らわしい悪魔の子だ』


 僕はずっと無知だった。


 この時まで僕は何も知らなかった。


『×××・××××××様。「貴方は今日ココで死んだ」合ってますヨネ』


 そしてあっさり死んだ。


『その名前が嫌いなら、俺は絶対呼ばない。それでいいだろう?』


 君は初めから僕を、僕を使う為に近付いたんだろう?


『×××。そんな名前だったか?』


 天界から、いや、あいつから逃げた僕はもう疲れ切っていた。もう自分の力では死ぬことはできない。


 だって僕は既に死んでいるんだから。


『殺せ、だと? 寝ぼけたことを言うのも大概にしろ。俺のこの双剣を、お前の薄汚れた血で汚せと、そう頼むのか』


 頼んでも願いは叶わなかった。


『お前の血は確かに貴重だが……俺は「飲むよりもずっとお前の力の方が惜しい」』


 僕は利用される駒。


 僕はこの黒い癖っ毛がずっと嫌いだったんだ。この身がもたらす災いに僕はほとほと疲れていた。何処に居たって、何をしたってそれは変わることはない。死んでいるのか、生きているのか。僕の存在価値は一体どこにある。


 嗚呼、僕は――。


『ねぇ×××。今日も貴方の楽しいお話を聞かせて?』


 僕は――。ただ君の声が聞きたかっただけなんだ。


『貴方の話はとても楽しいから』


 僕は君さえいれば良かった。


『×××、顔色が悪いけど、何かあったの? 私は「ここから出て行けないから」貴方が何かあったら心配なの』


 籠の鳥は空を飛べない。


 だけど、飛べない鳥は飛べないからこそ美しい。僕の屈折した君への気持ちは何人もの人を不幸にした。僕は何人も君の為に殺したし、君の為なら何をしようが構わなかった。


 君の影を追い求めて何人もこの手で血に染めた。


 なのに、君は見つからなかった。


 あの日からずっと、誰を見ても君の顔が目に浮かぶんだ。


 そして、僕は。


 だから、罰を受けているんだろう。君をこうして夢に見るたびに。心臓ゲシュテルンが酷く僕を苦しめる。


 あの部屋でいつも君は一人で本を読んでいたね。


 僕はカップを持って訪ねた。君はいつも退屈そうで僕はそんな君に外の話をした。カーテンも窓も閉まった、昼か夜かも分からないあの部屋。きっと君は外の世界がどんなに美しいかを知らない。楽しそうに笑う君の笑顔。とても綺麗だった。大切な君をずっと見守っていたかった。願えるものならずっと。


 ――僕はきっと君に恋していたんだと思う。


 細い君の手と、真っ黒な君の瞳と髪。僕と似た容姿。同じ歳。僕たちは同じ親から血を分けた――双子。


 その事実を知るまで僕は無知だった。




「なんでもありません。少し疲れていただけです。今宵もティータイムの合間にお話し致しましょう。……――お嬢様」




 君を最期まで守れなかったこと、僕はずっと後悔してる。




 序章――二番目の革命者イレブンバック

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る