Toy SymphonyⅡ

 少女は丘の上で空を見上げる。空を見上げると東から登る恒星が目の端に見えた。夜はもうすぐ終わる。


「ホルド、いつから気づいていたの? 私がリュビだって。絶対に気付かれていないと思っていたのに」


 少女はキラキラと光る星粒と共に姿を変える。今まで幼い少女の――、この辺りに住む少女の姿を借りていた。


 いつから、という問いに答えるならばだ。


 彼がその少女に出会った時、そっと抜け出して彼女の中に入っていた。あまりにも彼がいつになく弱気だったからつい出てきてしまったが……。出てしまったのは、一回だけ。


 つい自分の一人称が出てしまった。


 知らなかった。君があんなに思い詰めていたことに。


「そうだよね、分かるよね。だって私は君みたいに誰かを裏切ることも、欺く演技も上手くないよ。こんな夜に女の子が一人で歩いていることも不自然だろうし」


 私はリュビだ。青年の物語に何度も登場した少女、彼が何度も後悔の念を抱いた少女。もう貴方の横にはいられない、そんな存在になろうともホルドのそばにいたのは事実だ。


「年をとらない貴方のそばにずっといられる方法を」


 リュビはさみしげに呟き、光となってサラサラと消えた。


『ずっとそばにいると言った約束は、今でも……忘れていないから』


 それは絶対に不可能な夢。


 だって、君はもう死ぬことのない……、姿を変える事もない身体なのだから。それは彼の剣の中にいた時に痛いほど知った。彼がどんなことをしたのか。彼の正体も。天界の記憶もなにもかも。


 彼がどんなだったのかも――。


 だが、貴方には昔ではなく、を生きて欲しい。


 今の私は見守ることしか出来ないから。


「だからコレでお終い、さようなら』


 光は呟き天へと登る。青年はその様子を見上げた空に見た。


「ありがとう」

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