Toy SymphonyⅢ

 数日後、彼は忙しなく働いていた。


「皇女様! 今日はコレとコレをお召しください。食事は只今」


 皇女と呼ばれた狼娘は傍らに控えていた執事の袖を引っ張る。執事は引っ張られたことでつんのめりになり後退する。


「デファンスゥッ! なんなんだよ!? 早く食べろ!」


 執事の口調は急変する。敬語を捨ててもなお、執事は食事の用意のために厨房へ駆け込む。


「ロドルぅー、コッチにもご飯ー、お腹すいたぁ」


「メーア、お前もか!」


 執事は奥に座っていた魔女にも檄を飛ばす。


 魔女は幼い少女のように口を尖らせていた。


「ロドル、コッチにもー」


「セ、セセセレネ様!? いつの間に」


 狼娘の隣にちょこんと座っていた雪女が食器をカンカンと叩いている。その様子はテーブルマナーなどもってのほかだ。


「ゼーレ様、お食事の用意が済みました。こちら、春先の野菜をふんだんに使いました。サラダとサンドウィッチで御座います。トマトジュースは無添加の新鮮な物を」


 スッとテーブルに食事を置き、彼は恭しくお辞儀をする。


 吸血鬼は何も言わず黙って食べ始めた。その様子を見て執事はホッと胸を撫で下ろす。


「お、……お、お口に合いましたでしょうか」


 オドオドと震えた口で執事は問う。


「…………美味いぞ。それとロドル。もういいから……、頼むから俺をそんな目で見るな。大人しくて忠誠で反抗的でないお前なんて人間の血の味よりも気持ち悪い」


 吸血鬼はじとりと横目で執事を見た。その視線にけおされ、いまだ緊張をほぐせない執事は曖昧に笑顔を見せる。




 ◇◆◇◆◇




 あれからロドルは再び魔王城に戻ってきた。


 初めはこの城から消えたこと、ゼーレに対して反抗的な計画を立てていたこともあり、歓迎はよろしくなかった。


 だがそれは、ロドルを知らない従者だけだった。


 ゼーレは元から何かを許していたようだった。ゼーレ自身も自分が行っているカポデリスへの進撃を止めようとするものがいるかもしれないとは薄々感じていたのだろう。ロドルがそれを止めようとしていたと気付き、それならば無理やりにでも実力交渉をしてくるのは魔族として当然のことだろう。ゼーレはロドルからそのことを聞き、ロドルを真っ先に歓迎した人達の一人だった。もちろんメーア達も。ロドルはそんな彼らに謝った。


『ゼーレに目を覚まして欲しかった。カポデリスに戦争を吹っかけてはいけない。人間が憎い、君のその思いは知ってる。けど、あの時の恨みのままに行動して欲しくなかった』


『俺の方こそ悪かった』


 とゼーレはニヤリと笑った。魔族独特の笑い方だったのだが、それが彼の嬉しい時の笑い方だとロドルは知っていた。

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