歯車はいつも噛み合わないⅨ

「あの……ロドルが堕としたかった相手は、まさか」


「そうだな。わざわざ呼びだしていたしていたし……」


 セレネ、クレールがわざとらしく顎に手を添える。ロドルはその彼らにふっと笑いかけた。


「いやいや! 違うよ。ネーロじゃない。僕が本当に堕としたかったのは……」


 ロドルはボソリと独り言を呟いた。その声は聴き取れない。


 一瞬、前髪で隠れた左眼が鋭く光ったような気がした。


「僕は手紙にこうとだけ書いたよ」


 ――と、ロドルはゆっくりと口を動かした。


 その瞬間にバリバリと地面から火花が走る。


 閃光は次第に動きを大きくさせ生き物のように蠢く。赤い火花は強く鮮明に。その眩しさにセレネとクレール、エルンスト、パッセルは思わず目をつぶった。




「『僕には、もう時間がない』


 僕はネーロに逆らうことが出来ない。僕一人ではなにもできない。だから君たちに助けを求める。――これは嘘じゃない」


 再び目を開いた時、ロドルの姿はどこにもなかった。






 A.A.1366.7.15

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