歯車はいつも噛み合わないⅩ‐②
「どうやら本気だったようですねぇ」
パッセルは紅茶を一飲みする。
「いつもの通り殺してはいないと分かっていたが……、ならなぜあいつは俺の両親を殺した。あの状態で仕方ないとしても最後の時間くらい一緒にいたかったのに」
クローチェは後半を誰にも聞こえないよう呟いた。
「あれ? ネーロは? いつも一緒にいるでしょう?」
セレネはそんな雰囲気を変えようとそう切り出した。
だが、クローチェはその言葉が聞こえなかったのか、その質問には触れなかった。その代わりにこう聞く。
「セレネ。お前、俺が幼い時の写真を見たそうだな?」
クローチェが尋ねる。咄嗟のことで意味が分からず考え込んだ。――写真……?
「クレール達が言っていたのを思い出したんだ。クローゼットの中に古ぼけた俺の写真があったとか――。なに、あいつら俺の部屋を勝手に漁って。後で覚えとけよ……」
ぶつぶつと不満を漏らすクローチェにセレネは曖昧に苦笑いをする。クローゼット……?
「あぁ! あれですかー、可愛かったですよ?」
「……そうじゃない。あの写真の端に写っていただろう。黒い烏が」
そうだったかしら、とセレネは思い出す。
確かに記憶の写真には烏がいた。
「それがどうしました?」
「烏の寿命は何年だと思う?」
は? と思うがどうやら真面目な話らしい。クローチェの目は真っ直ぐセレネを見据えている。
「百年?」
「……ッな訳あるか! 魔族基準で考えるな! 人間でもそんなに生きない! 二十年だ、二十年! それが限界で最長と言われている。だからおおよそ十年か十五年だな」
それがなにか? セレネはクローチェに問いた。
「烏にしては長く生きすぎじゃないか? あの写真の俺が五歳かそこらのガキだとして、今の俺の年齢は二十三。軽く十八年だ」
クローチェは呆れたようにセレネを見る。
「まぁ写真の時、烏もヒナだったのならそれもあり得るが……見る限りどう見たってヒナには見えない。既に大人だったとしたら……。それにあの写真は――……」
クローチェがその後に言った言葉は聞こえなかった。
「つまり、ロドルと同じ。年を取らない不老不死の動物だったってわけさ」
クローチェはなおもぶつぶつ呟いている。
「俺も気づかなかったとは………よりにもよってあいつに教えてもらうとは……」
歯軋りの音がコッチにも聴こえてくる。
相当恨み辛みがあるらしい。セレネは苦笑いをした。ロドル、昔になにやったのだろう……と。
「外道悪魔がぁっ! 俺に、俺になんの因果がある!? いつも、すんなり逃げやがってぇ!? 挙げ句の果てにこき使いやがってぇ!」
「まぁ~まぁ~~~、そのぐらいにしないと~~、血管がブチ切れて死んでも知りませんよ~~? クローチェ様が~、彼を嫌いなのは分かりますが~~」
「ダァッ! もういい、パッセル! 行ってやる、あいつの場所へ殴り込みに……」
クローチェが怪しい笑いを噛み締めながら銃に手を掛ける。
「どーせ、ここは敵陣ッ! 魔族の一人や二人、殺したところで……」
カチッという弾が装填された音。
セレネは慌ててクローチェを止めようとする。
「ダメですッ! ここで銃を乱射しないでくださいッ! 落ち着いてくださ……」
セレネが言いかけた時、クローチェの動きが不意に止まった。銃を下げ、シィーと口止めされる。
「はぁ……?」
「いいから、黙っとけ」
そう言われ口元に出かかった不満を一旦飲み込む。
「合図か?」
「そうみたいですね、行ってみます? クローチェ様」
あぁ、と返事をして出て行く二人。
「あ! ちょっと待ってくださいッ! 勝手にカップ持って行かないで!」
セレネは二人を追いかける。魔王城に迷い込んだ聖職者二人は躊躇うことなく。ある場所に向かうのであった。
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