歯車はいつも噛み合わないⅨ

「ロドル、お前は本当に……」


「……」


 ロドルは口をつぐむ。一瞬、目線を泳がせて逸らした。


「おい」


「……」


 まだ目線を下に向ける。その様子から察する。ゼーレは壁に寄りかかった。


「お前はどっちの味方だ」


 ロドルはようやくゼーレの顔を見た。ロドルの目はゼーレを見てすぐに離した。目線は壁際にもたれかかる、奴に注がれる。


「僕は……誰の味方でもない。ただ僕のために、自分の為に。それだけだ」


 本心なのかは分からない、目線が全く合わないのだ。


 それは合わせようとしないというよりも、合わせたくないと訴えかけているようだった。


「お前は本物だよな」


 かろうじて答えてくれそうな質問をする。


 ロドルは小さく返事をした。


「なぁ」


 ゼーレは小声で囁く。


「ロドル、なぜ、――姿を消した」


 ロドルは目線を合わせた。


「俺ら達からも姿を消したのはなぜ」


「ぼ、僕は……」


「巻き込みたくなかったと言うならもう既にお前には何年も前から巻き込まれたことになる。それはお前のシナリオに既に描かれているから。だよな、」


 ロドルは口をつぐむ。


「ロドル、お前が俺を殺すつもりだったのなら……」


 ロドルは目を見開く。


「ここで倒して行くといい。お前のニセモノが言った台詞のままに、お前と秘密裏に取引をした奴のようにここで倒して行け。それでいいだろう」


「……」


 ロドルはいつの間にか一つの剣を握っていた。


 手が小刻みに震えている。


「ゼーレ、僕は、僕はッ!」


 ロドルが叫ぶ。


「誰も無くしたくないだけだ。誰も殺したくない。それは、初めて殺しをしたあの日から変わらない。僕は、僕は、誰も殺したくないのにッ! けど、一つしか選べないなら僕は!」


 ロドルは叫んだ、見上げたその瞳はなぜか影がかかっていた。


「……僕が負けたら、デファンスにすまなかったと伝えてくれ」


 気付くと、ロドルの手には一本の長剣が握られていた。それが、彼の魂の結晶であることをゼーレは遅れて気づく。


 血で塗れたその剣は、黒く鈍く輝く。


「計画など狂いはしない、この僕が相手をしよう。……勝負だ、魔王ゼーレ」


 ――なぜか、ロドルの口元が笑っていたような気がした。


 それは無理やりにでも悪役として降臨しようとする、悪になろうとしてなれない、不器用な堕天使の姿そのものだった。

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